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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第28回〉
2013年 4月

第28回の大阪料理会。日本の伝統行事、地域の伝承的な食を基本に据えながら今様の前菜料理への提案。さらには各テーマ食材においては、それぞれの料理人が自ら調理にもテーマを設定して臨んだ料理会となった。弧柳の松尾氏は、鯛を使って「熟成」をテーマにした料理を。柏屋の松尾氏は筍と蛍烏賊を使って「細かくする」という調理法からの発見をテーマに取り組んだ。


松尾英明さん 松尾 英明さん
千里山 柏屋
松尾 慎太郎さん 松尾 慎太郎さん
北新地 弧柳
お店HP
松尾 英明さんの献立 松尾 慎太郎さんの献立 撮影/藤澤 了 文/笹井良隆

◆5月の前菜テーマ/大阪の初夏

【料理名】大阪の初夏

・日根神社まくら祭「巻水茄子古漬炊乗せ」「浜防風胡瓜巻 梅肉添」
・住吉大社卯ノ花神事「泉州産小鰭卯ノ花寿司」
・浪速八十八夜「新茶の錦玉羹」


泉州で生まれ育った松尾氏が5月の前菜に取り入れたのが、日根神社に伝わる「まくら祭り」。まくらを奉納するという全国でも珍しい同社では、毎年5月に飾り枕を付けた枕幟(まくらのぼり)を背負い、五社音頭を唄いながらの渡御がなされる。この枕幟を水茄子と浜防風を使い表現したのがこの2品。水茄子古漬を用いているところも泉州らしさがよく出ているといえよう。また同月には住吉大社では卯の花による神事が執り行われる。この純白の卯の花を「おから」で表現し、これに大阪では馴染み深い小鰭(こはだ)を合わせ握り、「卯の花寿司」としている。さらにこの寿司飯には同時期に早生種が出回る泉州玉葱を荒みじん切りにしたものが混ぜ込まれている。三品目は、初夏の楽しみのひとつ新茶だ。
寒天を使い新茶粉と新茶の芽の香りを封じ込め、これにトビアラ海老をあられに切り甘辛く炊いたものを合わせることで錦玉羹としている。


◆4月のテーマ食材/蔬菜篇「泉州水蕗」

【料理名】泉州水蕗の穴子巻 蕗の葉包み蒸し 共葉七味掛

蕗そのものと穴子を使い八幡巻の要領で蕗の葉を使って包み、蒸して味わうという、いわば蕗の穴子巻料理。蕗は汲み上げ湯葉を一週間程度奈良粕に漬けたものとからめたものを使用している。蕗七味は、蕗の葉を細かく刻み乾煎り香煎にしたものに七味を合わせている。できあがった料理の上からは銀餡が掛けられている。蕗すべてを使用することで蕗の持つ初夏の味わいを穴子と共に味わえる趣向となっている。


◆4月のテーマ食材/魚介篇「櫻鯛」

【料理名】熟成櫻鯛の骨出汁薄葛仕立

白身魚の本来の旨みを味わうためには〆後、ある程度の熟成が必要とされることは述べるまでもない。ではその熟成期間というのはどれほどで、どのような保存法が適切で、熟成状態によってどのような調理法がなされるべきなのか。こうした問いをテーマに取り組まれたのが今回の料理。水洗いした鯛を1度の低温で2週間熟成させる。その頭から出汁をとり、骨出汁で鯛白子を合わせ湯葉で包む。そぎ造りされた鯛身は、上から吉野葛の骨出汁をかけ、軽く火が通されている。




【総評】

前菜料理では、大阪でも未だ知られていない「まくら祭」が話題となった。府下においてこうした地域ならではの伝統行事へもっと目を向けるべきとの声もあがった。
さて、「まくら祭」の料理そのものについてだが、全体的に味わいは良かったが、ポーションに問題があったのではとの指摘があった。もっと食べやすい大きさや形を考えることも今後の課題。次に卯ノ花神事にまつわる料理だが、おからの水分量が多かったのが残念との声が多くあった。八十八夜の新茶料理では、せっかくの新茶だが肝心の香りが感じられないとの指摘があった。玉露を使えばもっと違ったものになったのではという提案と、せっかく二層仕立てにしてあるだけに、食べた時の一体感があればさらに良かったという意見があった。
テーマ料理では、熟成鯛への様々な意見があがった。試みは非常に面白く参考になったが、相対的に「旨味が出すぎている」のではとの声もあった。食材の旨味をどこまで引き出すべきか。会員の中には、すべて引き出すのではなく何かを残した味わいというのも大事ではとの発言もあった。熟成の意味は生食だけにあるのではなく、焼く蒸すなどにおいても変わってくる。今回の松尾氏のテーマは、そうしたことへの大きなヒントとなったに違いない。

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特別寄稿 「大阪料理会に望む」上野修三相談役

上野修三相談役

応妥(オーダー)料理と季正料理

大阪で始まった「お好み料理」(一品料理)は「会席料理」の統一性に飽きた商人が始めた気ままな世界であると共に、アラカルト(一品料理)はまた大阪料理スタイルの大きな特徴でもある。
調理場の見える席に座って自分好みを伝えて料理を作らせる。味本位の一品であり、一品を求める食べ手の味覚レベルそのものが調理人の腕を磨かせてきたのである。
現代では、客の要望に応じた一品料理(アラカルト)を行う店が少なくなったが、それであるならば、料り手から食べ手を魅了する一品料理を創り、逆に食べ手を育てオーダーしてもらえるように努めたいものである。

日本料理とは季節感を重んじ、出来る限り獣肉食はさけ、新鮮な魚介・野菜・海藻を用い、先ず生食・煮物・焼物(時には揚物)と適宜なる調理技を以て完結させる。それが日本の気候風土の中で育った日本料理の在り方である。 特に会席料理は俳諧の席の後の飲茶・飲食に始まり大阪料亭によって広まって後、あらゆる会合の席の飲食や宴の席の料理の意味で「会席料理」となったのだが、現代では会合など人が寄り合う席が少なく小形の飲食店が増えて少人数の飲食が主となったので「会席」とは言い難いことから「季正(きしょう)料理」と改名することを提案する。

最後に、美しい日本の精神を育てた先人の心。そして古人はこれらに因んだ食事食法を創り出して来ました。今、私達和食の料り手(料理人)は日本の心・大和魂を伝承する義務があります。この意義ある一皿・一鉢を貴方流に創造して料理に加えて戴きたく提案する次第です。