〈第109回〉
新年を迎えて最初の大阪料理会。今回もスタートは前菜ではなく、突き出し三種が披露された。テーマ食材は、時期的に終盤に入った天王寺蕪。ここでは干し蕪を使った試作が披露された。そして、もうひとつが伝助穴子。あまり出回らないが、多くの魅力を秘めた魚。割烹妙技はさまざまな調理法や食材で「田作り」が検討された。
久保 是人
おおさか料理 浅井
割烹三種小皿突出し
・ふぐ出汁寒天 白子掛け
・豆春巻き
・南瓜餅
久保氏によると、アラカルトを主体とする『おおさか料理 浅井』では突出しを二つの意味でとらえている。ひとつはオーダーが入った最初の料理ができるまでに召し上がっていただく「前突出し」。それともうひとつが、焼き物など料理の中盤で調理に時間の要する時の繋ぎとして供する「中突き出し」。今回の三品は、いずれも始末の心から生み出された大阪料理となっている。ふぐ出汁寒天は、ふぐの皮を掃除している時に出る残りの皮やアラなどを使った一品。だしをとり、煮凝りとし、ふぐやタラの白子を湯がいて裏濾したものを調味してかけている。豆春巻きは、これも残った豌豆(エンドウ豆)を蜜煮し、生姜の蜜煮と合わせて、春巻きの皮で巻いて揚げている。初春のスナックというイメージで、ビールのアテにも最適だろう。南瓜餅は、南瓜をだしや淡口醤油などで炊き、これを裏濾し、南瓜を焚いた地で白玉を作り、合わせて揚げている。
総評
「非常におもしろい突出し。特にふぐ出汁寒天は、てっちりを食べているような錯覚を食べ手に与える」「正月に余ったさまざまな食材を、突出しとして活かすアイデアはとても参考になった」などの評が多く聞かれた。豆春巻では豌豆が使われたが、黒豆でも活用できそうとの意見交換が行われた。また、今回は久保氏から突出しについて店としての考え方が説明され、参加した会員は興味深く耳を傾けていた。運営委員からは、突出しの盛り付けについて「もう少し主張があってもよかったのではないか」とする意見も出た。
久保田 博
割烹 くぼた
・大阪北新地 割烹味菜
・オランダ ホテルオークラ
・大阪北新地 料亭
・東京 青山、広尾の日本料理店
・兵庫 西宮の日本料理店
・2010年に【割烹くぼた】開業
[使用食材]
・毎朝、大阪中央市場にて仕入れ
・熊本の父親が作った野菜
・自ら船釣りに行き仕入れと称しての釣った魚
・全国の漁港から直送
料理はコース料理のみで、味の濃淡、彩、食感を大事にし、美味しオモシロイ料理を目指し献立を立てています。
伝助穴子散らし
青海苔牡蠣掛け
いわゆる真穴子の旬は、晩夏から仲秋ごろまで。それに比べて数倍の大きさがある伝助穴子の旬は秋から冬にかけて。脂も乗り、別名でトロ穴子とも呼ばれている。今回はそんな伝助穴子を使った試作料理。締めたアナゴをそのまま霜降りしてヌメリを除き、これを吸水シートに包んで脱水。さばいたものに薄塩し、さらに水分を拭き、真空パックにしている。次にこれを低温で湯煎にかけてから急冷。この温度加減がアナゴの身肉の締まりに関係し、これにより骨抜きがしやすく、仕上がりも美しくなる。最後にバーナーで炙り、蒸している。青海苔の牡蠣ソースは、下処理をした牡蠣をぶつ切りし、玉ネギと酒で炒め、ミキサーでピューレ状に。生青海苔を佃煮とし、先ほどの牡蠣ペーストと合わせている。酢飯に錦糸玉子、セリ、蒸したアナゴを盛って、青海苔牡蠣ソースをかけている。
総評
「伝助穴子は皮が硬いといった先入観があったが、これほど柔らかく仕上げることができるのに驚いた」とする賛辞が多く寄せられていた。また質疑応答では、骨抜きのための微妙な加熱について、温度や時間の説明が久保田氏よりなされた。また「青海苔に牡蠣を合わせた発想はどこから」とする質問に、「海苔と牡蠣の海での関連性や、食物連鎖のことを考えた時にアイデアが沸いてきた」との説明がなされた。運営委員からは、「穴子といえば散らし寿司というのは理解できた。ただ、大阪料理なので蒸し寿司で食べられたらもっと良かったのではないか」というアドバイスも聞かれた。
前田 武徳
味菜旬香「菜ばな」
干し蕪 摺り流し
蕪で一番旨みがあるのは表皮に近い部分とされる。今回の試作では、この部分からだしをとる試み。そのため、あえて旨みの強い干し蕪が選ばれている。干した蕪の皮を薄くむき、そこからもう一度厚めにむいている。まずは、最初の皮と焼いた鯛のアラでだしをとり、その後に厚くむいた皮を入れて炊いている。淡口醤油やみりんで調味し、冷ましてからミキサーにかけて濾す。実の部分は切り分けて、油を塗って焼いている。鯛は味噌幽庵焼きに。焼き蕪と鯛を盛り、蕪のすり流しを注ぎ、天には蕪の葉と柚子皮をあしらっている。
総評
「焼いた蕪の旨みや甘みが新鮮」「干すことで天王寺蕪の真価がよく分かる一品」などの評が聞かれた。参加会員の中からは「天王寺蕪を使いたいが、欲しい時にはなかなか入手できない」という意見があった。これについて前田氏は「事前に農家に状態の良い天王寺蕪を一定量干しておいてもらい、必要な時に送ってもらう。今回はまさにそうした農家との連携で実現した」との解説がなされた。温暖化が進む現代にあって、天王寺蕪を安定して使用する方法として、昔ながらの干し蕪を見直してみてはどうだろうか。運営委員からは「天王寺村周辺では節分に、干し蕪の味噌汁、そして麦飯を食べる習慣がある。そうしたことを踏まえても面白い試作料理」とのコメントが寄せられた。ちなみに他の運営委員からは「蕪と鯛のだしだけでも充分に旨い。あえて鯛を味噌幽庵とする必要はなかったのではないか」「みりんではなく、塩で蕪の甘みを引き出した方がよかったのではないか」とするアドバイスなどもなされた。
特別テーマ:割烹妙技
第5回:「田作(たづくり) ごまめ」
お節料理の定番となっている田作。シンプルな料理ではあるが、理想の食感や味わいに仕上げるには長年の経験を要するとされる。また、最近はさまざまな調理器具がある。今回はこうしたものを活用した田作や、カタクチイワシ以外の小魚を使った作り方が紹介された。
料理:前田武徳
田作
電子レンジで3回程度から煎りし、合わせダレをからめ、広げて冷ます。
豆煮
豆を炊き、最後にごまめ煮と合わせ、冷ましてなじませる。
酢漬け
油で揚げ 割り酢に浸ける。
料理:久保田博氏
きびなご田作り焙烙煎り
から煎りし、少し焼き目がつき、パリッとなれば火を止めてクズを除く。別鍋で田作の地(酒2:濃口醤油1:みりん1:たまり醤油少々)と絡める
きびなご田作り揚げ
きびなごを低温でゆっくり揚げる。パリッとなれば鍋で田作の地で絡める。
きびなご田作(レンジ)
平皿にきびなごをのせ、600wの電子レンジで30秒、取り出して混ぜる、という作業を数回繰り返す。最後に鍋で田作の地でからめる。