「玉造黒門越瓜(しろうり)」と「鰊 時鮭」、「魚粗(あら)」

〈第111回〉
新型コロナウィルス感染拡大を踏まえ、春以降は討論を主体とした暫定的な定例会や休業要請などに対する給付金ならびに助成金の専門家を大阪府から招いての特別講座などを開催。7月からはコロナ後の在り方などを見据え、参加人数を通常の半数以下に制限して定例会が行われた。


畑島 亮
Cuisine d’Osaka Ryo  

1976年生まれ。幼い頃から物作りと、美味しい料理が大好きで、どちらも両立出来る料理人の道を選び、辻調理師専門学校へ進学。卒業後は、料亭をはじめ、様々なジャンルの料理店で経験を重ね、2010年に開業。ソムリエとしての知識も料理に応用し、大阪の新しい味を、日々追求している。

2011年より大阪料理会に参加し、温故知新を自らのテーマに掲げ、料理を考える際は、特に『香りと食感』を大事に考えております。

「玉造黒門越瓜(しろうり)」

・越瓜と南京の羽二重巻き 生姜酢掛け
・穴子の越瓜巻き焼き
・小鮎越瓜蒸し

大阪では、なにわの伝統野菜として二種の瓜が認証されている。ひとつが三島地区で栽培されてきた「服部越瓜」、そしてもうひとつが環状線「玉造」駅周辺で栽培されていたとされる「玉造黒門越瓜」。前者は身が薄い白瓜で、後者は縞目のある肉厚な白瓜。
玉造黒門越瓜の名の由来は、その畠場が大阪城の黒門付近にあったことに由来している。今回はそんな玉造黒門越瓜を使った夏らしい三種の冷菜盛りとなっている。
まずは越瓜と南京の羽二重巻き。桂剥きにした瓜と、若採りした勝間南京を薄切りにして、塩水に30分つけている。これをだしと米酢、淡口醤油、砂糖を合わせた地に漬け込む。
むき海老は包丁で叩き、千切りした柴漬けと合わせて蒸しあげ、越瓜で巻き、南京を帯状にかぶせ、生姜酢を掛ける。穴子の越瓜巻き焼きは、瓜を約1センチ幅に切り、昆布を入れた塩水に漬け込んだ後、一晩干している。穴子を開き、瓜を八幡巻きの要領で巻いて、タレで焼いている。
小鮎越瓜蒸しは、天ぷら衣をつけ揚げた小鮎とおろした瓜を、塩、淡口醤油で下味をつけ、泡立てた卵白と合わせ、強火で五分蒸しあげ、銀餡をかけている。

総評 これからの日本料理のだしの行方

「見た目も夏らしい料理」「各料理とも、海老に穴子に小鮎など瓜との相性を重視し、考え抜かれた試作。センスが感じられる」などの評が多かった。運営委員からは「穴子の越瓜巻き焼きというのはおもしろい。ここでは海老の叩き身が使われているが、豆腐を使ってみても良かったのではないか」とする意見があった。他の運営委員からは「瓜と鮎という夏の食材の合わせ方が絶妙。パリッとした瓜の食感が感じられる処理も見事。冷酒が欲しくなるような冷菜盛り。前菜や突き出しには最適」との賛辞が贈られた。


石橋 慶喜
「料理人 慶喜」  

私は函館にて生まれ育ち、社会人の一歩として建設会社の現場監督に従事した後、縁あって千葉県のスッポン割烹店に勤める事になりました。そして3年後に料理は関西と思い大阪に修業に来ました。
 北新地にて26歳から割烹店で勉強したのち、30歳で10年程料理長を経て起業し、現在の北新地慶喜にいたりました。当店の料理は、飾らず、気取らずをテーマに、浪速モンを取り入れた献立や、作れるものは手作りにするという思いで料理に取り組んでいます。

鰊麹漬 干し数の子

今年も北海道では春ニシンが豊漁。関西圏の食料品店でも生の春ニシンが並ぶようになった。今回はそんな生ニシンを使って自家製の麹漬けと干し数の子の試作が披露された。この試作料理は春の定例会で発表される予定だったが、コロナ禍で七月となったことを申し添えておきたい。
鰊は三枚におろし、塩漬け。数の子も1週間塩漬け。塩抜きは、それぞれに塩を洗い、水と酒を3対2で割ったものに漬ける。今回、干し数の子は扇風機にて干している。冷蔵庫だと約1カ月かかると言われているが、これであれば2日間で仕上がるそうだ。 鰊麹漬は、ホットクックという機材に米450g、麹300g、湯300mlを入れて麹床を作り、2週間漬けたものを焼いている。

時しらずスモーク

時鮭の上身をグラニュー糖に1時間、それから塩に2時間漬け、これを洗って冷蔵庫で風乾燥させたあと、燻製シートで包み1日冷凍。茎を食する野菜として知られるルバーブは、炒ってジャム状にし、濃口醤油で調味。こちらも4月なら鱒を使っての試作であったものを時鮭に代えている。

総評

ニシンの試作に対しては、「生ニシンでこれだけのことが店でできるというのは驚いた」「生ニシンの魅力と味わいの豊かさを知った」といった評価が。また時鮭には「かなりクセがあり使いづらいと思っていたが、処理の仕方でこれほど変化するというのは発見だ」「ルバーブという野菜を初めて食べたが、これは日本料理に使える。特にジャム状にした梅肉擬きは素晴らしい。是非、店でも試してみたい」との声が多くあった。
調理について鮭の上身をグラニュー糖の後に塩を漬ける行程において、「西洋料理にもよく似た調理法が存在するが、最初から砂糖と塩をブレンドしたものではどうか」とする意見などが聞かれた。また、非常に香り良く仕上がった時鮭のスモークに、「燻製シートというのは使ったことはないが、一度試してみたい。店で燻製をすると店内まで匂いが付くので、解決策になればありがたい」といった声も寄せられていた。


杉本 亨
浪速割烹 和亨  

杉本亨1970年(昭和45年)、大阪生まれ。15歳で京都の料亭に入る。その後、師匠である上野修三氏の料理に見せられて、『浪速割烹 㐂川』に入り、その師匠が営む『天神坂 上野』を経て、99年(平成11)年に大阪・宗右衛門町で『浪速割烹 和亨』を開店。師匠の〝浪速割烹〟を受け継いでいけるように日々探求し、浪速の味を大切にしてます。

「魚粗(あら)」 

伊佐木共地焼き

魚の粗(あら)やヘタといった部位を使って料理に仕立てるのは、まかないにはよくある。だが、骨に付いた身やお客に供しづらい部位というのは、実は最も美味い身肉であったりする。今回はそんな部位を活用しての試作料理である。まずアラに塩をし、旨みを引き出し、次にサラダ油に入れ、100℃のオーブンで3時間。冷蔵庫で冷ましてミキサーにかけ、裏濾しし、ペースト状にする。この旨みの詰まったペーストをイサキの上身に塗り、焼いている。

伊佐木共地椀

焼いたイサキの中骨と共にひいた鰹だしに、八丁味噌を溶き、仕上げに先ほどのアラペーストを入れて味を調えている。次に湯がいた枝豆を裏濾してペーストにし、卵白のメレンゲに加え、卵黄と合わせて玉子豆腐を作る。焼き茄子と共に盛り付けている。

総評

「アラペーストを塗ることで、これほど旨みが増すとは思わなかった」「旨みに広がりを感じた。なめらかさが素晴らしい」などの意見が多くあった。運営委員の中からはアドバイスとして「アラペーストの発想は良いと思う。ただアラなどをそのまま使うよりも、そこにさらに内臓などを加えて発酵させた方が、より旨みが増すのではないか」とする意見などがあった。
さらに「アラといっても、ここにはイワシやサバなど数種類の魚のアラや身肉が含まれていると思う。こうした魚の種類や分量などもしっかりと把握しておくことで、さらに深みのあるものができるのではないか」とするコメントも寄せられていた。まかない料理の中にも、それを見直すことで店の新しい名物料理を創ることもできる。そのような意気込みが感じられる試作料理でだったといえよう。

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