「淡口醤油」と「だし」

今回のテーマは「淡口醤油」と「だし」。コロナ禍ということを配慮して、引き続き参加人数を制限、発表の品数を絞っての開催となった。会員2名による意欲作の発表に加え、本会のサポーターでもあるヒガシマル醤油の研究所からは、淡口醤油と濃口醤油で炊いた高野豆腐の食感が異なるという官能および機器測定の評価が発表された。


城崎 栄一
旬屋 じょう崎  

福岡県出身。神戸、奈良で修業後平成7年4月に吹田駅近くにお店を開業。魚菜の会で大阪産の食材を知り地元の吹田くわいなど伝統野菜、淀川天然うなぎ、能勢牛などを積極的に取り入れ会席と一品料理の両方を供する。スチームコンベクションを駆使して食材の最適な温度帯を探り現代的な日本料理と昔ながらの古典的料理を追求している。

帆立とトマトの淡口醤油麹がけ

「淡口醤油はだしと合わせて使うことが多い。淡口醤油だけで、その旨みをぐっと引き出したタレができたら、酢味噌のように使えるのではないか?と考えました」。
城崎さんが工夫した淡口醤油麹は、ヒガシマル特選丸大豆うすくちに乾燥麹を合わせ、常温で1週間、冷蔵庫でさらに2週間おいて自家製したもの。これをミキサーと、さらにミルサーで攪拌し、タレとしている。
帆立貝は霜降りし、63℃で1時間ほど蒸してから炙る。トマトは、高槻の『寺本農園』が手掛ける「三箇牧トマト」。「この時季に『濃縮』と謳うフルーツトマトが出てくるので、その濃い旨みを生かそうとセミドライトマトにしました」。かたくり菜を花と軸に分け、ウルイと共に添えて、先の淡口醤油麹のタレをかけている。

川茸の冷やし茶碗蒸し

川茸の学名は、水前寺海苔(すいぜんじのり)。九州の一部だけに自生する淡水海苔だ。水前寺海苔として市販されているものは乾燥が主だが、今回、城崎さんが使用したのは生の川茸。福岡県出身の城崎さんは、地元の朝倉市に流れる黄金(こがね)川でのみ収穫される天然の川茸を会員に知ってもらいたいと、今回のテーマに選んだという。
川茸はさっと霜降りし、吸い地に漬けておく。これを冷製の茶碗蒸しにのせ、その風味で食べさせるという趣向だ。茶碗蒸しの味の決め手となるのは、精進だし。昆布と椎茸を酒でふき、100℃のオーブンで1時間30分焼き、昆布は一晩水出ししてから60℃で煮出す。煎り大豆と焼いた椎茸も同様に、水に一晩浸けてからゆっくりと煮出す。この2つのだしを同割で合わせたものが、精進だしだ。
この精進だしと豆乳、淡口醤油、みりん、塩などを卵と合わせ、生湯葉をしのばせて茶碗蒸しの生地とし、これを蒸して冷やす。精進だしを淡口醤油とみりんで加減し、葛を引いてあんにしてかけ、川茸をのせて仕上げる。

総評

醤油麹を手作りしている会員も多く、それぞれの作り方が披露された。その中で「塩分の調整が難しい」「1カ月ほど寝かせると、まったりして塩カドもとれ、まろやかになる」という意見が出た。今回の城崎さんによる自家製は、淡口醤油を用いたところがポイント。濃口醤油のような濃厚さがなく、淡口醤油の今までにはない風味を引き出したことに、新しいタレの可能性を会員たちは感じているようだった。また、アクセントに利かせた、セミドライトマトの存在感がいい、という声も聞かれた。
川茸については、今回初めて生を食したという会員が多く、「食感が印象的で、風味もいい!」と総じて好印象。高級食材であることから、あしらいに添えるだけでなく、「もっと存在感を強調しては」という意見も出た。前回同様、精進だしへの取り組みにも注目が集まった。畑会長は、「煎り大豆をだしに使うことで、湯葉や豆乳との相性が増した。焼いた昆布と椎茸の香ばしさも印象的で、とても旨いだしであった」と総評し、精進だしは今後深めていきたいテーマだと締めくくった。


山﨑 浩史
旬菜「山﨑」   

大阪の調理師専門学校在学中、曽根崎にあるアルバイト先の「八幸」でお世話になった板前の先輩に感銘を受け、日本料理人の道を選択。卒業後、堂島にあった「紬」の川下板長に6年間師事し、更に、西天満の老舗料亭「芝苑」で4年間修業。そして28歳の時に、出身地・吹田市に自店(現「旬菜山﨑 佐井寺店」)を開業しました。長年地域の方に支えられ、応援頂き、平成21年「旬菜山﨑 竹谷店」を開店。郊外という地域柄、年配の方や親子三代でのご利用なども多く、ご要望に応えて、ゆったりと座って頂けるカウンターや椅子席の個室をご用意している。

碓井豆腐の玉葱餡

「カツオだしを使わずに、野菜の旨みだけで一品仕立ててみよう」と、山崎さんが考案。
250℃で1時間、皮つきのまま焼いた玉ネギは、焦げた皮を取り除き、ペーストにして5%の太白胡麻油で乳化させる。トロミアップで乳化を安定させ、野菜出汁と同割にし、塩で味を決め、吸い地とする。この野菜出汁は、昆布と干し椎茸を水で戻し、その戻し汁にニンジン、玉ネギ、白菜、春キャベツに碓井豌豆(うすいえんどう)の皮、ショウガを加えて10分ほど煮出し、そのまま冷まして濾したもの。碓井豌豆を裏漉しして葛で寄せた豆腐にとろっとかけ、トマト塩をアクセントとして利かせている。トマト塩は、ミニトマトを半分にカットし、3%の塩をまぶして乾燥させ、当たり鉢で細かくした自家製。鮮やかな色と、爽やかな酸味、香味を添えている。

淡口鯊(はぜ)出汁煮麺

ここ数年、淀川ではハゼがたくさん獲れ、大阪市の漁協では内臓を取り除き、焼き干しにして販売している。「大阪では昔から素麺のつゆにハゼのだしを使っていたと聞いて、今ではあまり使われなくなった鯊出汁を引いてみようと思いました。そのままでは味わいが弱かったので、淡口醤油にくぐらせてから焼いてます。これを煮出すことで、味にぐっと深みが出たと思います」と、山崎さん。
ハゼの焼き干しは頭を取り、淡口醤油にくぐらせてから90℃で50分ほど焼き、昆布と共に水出し。そのまま沸かして濾し、鯊出汁とする。塩、淡口醤油、みりんで味付けし、ゴマを練り込んだ素麺と、木の芽でシンプルに仕立てた。

総評

今や昆布の漁獲量は年々、著しく減少しており、日本料理の世界では出汁の在り方を見直さなければならない状況にある。そんな中での今回の提案とあって、かなり活発な意見交換がなされた。
野菜出汁は、優しい味わいで、野菜の甘みも感じられて旨い、という声が多数。「玉ネギは大衆的な味わいになりがちで、日本料理店では主役にしにくい食材だが、今回はバランスがとても良かった。トマト塩が秀逸であった」という運営委員の言葉に、会員は皆、賛同していた。畑会長が「香りもいいし、色もキレイで酸味も鮮やか。このトマト塩は出色! さっと煮出して野菜の旨みの上澄みだけを取ったというイメージの野菜出汁も品がよく美味しいが、キノコを加えるともう少し深みが出たのでは」と付け加えた。
鯊出汁も、「クセのない澄んだ旨みに驚いた」「淡口醤油にくぐらせたアイデアがよかった」と、総じて好評。昔のように冷たくして素麺つゆにするのはどうか?という質問があり、山崎さんは「かえしを使って、素麺つゆを作り、まかないで食べたが、これもとても美味しかった。粉末にしてたっぷり加え、ラーメンのように仕立てるのも面白いと思う」と答え、鯊出汁の可能性を示唆した。

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