松尾 英明
千里山 柏屋
昆布や鰹ではない出汁での持続可能な椀物料理
真昆布の不漁が続く中、 これからの椀物料理のひとつの方向性を示す試作料理。 昆布の養殖は、 菌こそ人の手によって定着させるが、ほぼ半自然ともいえる形で栽培がなされている。 これとよく似たものに帆立貝がある。 天然に優るとも劣らない質に加え、 非常に安定した漁獲高を維持している。 「天然こそが料理店の食材」 といった考え方だけではなく、 質が高くかつ安定的な食材を有効活用していく。 そしてそのための新たな料理を考えていくことがすでに求められているのだ。帆立貝柱の蒸し汁を出汁のベースとして、 これに野菜そして茸の旨味をも加える。 また出汁に使用したこれら食材は余すところなく飛龍頭など椀種として利用。特に茸については、 現在は菌床栽培の茸が安定的に出荷されているので、 茸を季節感だけの食材としないで、 年中安定的に使うことができ、 さらには昆布のように出汁をとるためのものとしても見直すべき。天然物ばかりではなく、 もっと身近にある持続可能なもので新味を創出することがこれからの課題ではなかろうか。
総評
「単に旨いというだけでなく、 真昆布とはまた違った深みのある出汁。貝類と野菜などで、 ここまでのクリアな出汁になるとは驚き」 といったコメントが多く寄せられた。 また、真昆布出汁との比較として 「今回の出汁と昆布+鰹出汁とは異なる特徴は、 後味を長く楽しめること。また同じような出汁でも、 季節によってトマトなど酸味を加えるなども可能。椀物出汁の可能性が広がるのでは」 との評も聞かれた。