早川 友博
小嘉津
食べられなくなった食材で持続可能な新味創出
江戸時代からの大阪料理には必ず登場する食材が鯉。 中でも淀川の鯉は 「淀鯉」として全国に知られていた。 その味は室町時代の美食家として知られた細川勝元をして、 「淀川の鯉は造身にしてどれほど煎り酒に浸しても濁ることはない」 と唸らせたという。 春夏はアライに、秋冬はコクショウ (鯉コク) として食された。 鯉こくとは、 鯉濃汁と書くが、今回試作発表されたのは濃淡汁と書くべきだろう。 常の仕事では味噌料理は長く煮ると味噌の香気が失せてしまうが、 鯉は長く煮ることで肉がしまり味がよくなり、 その硬骨も柔らかく食せる。 ここでは鯉を煮る合わせ味噌に白粥をペーストにして加えることで淡味な鯉こくに仕上がっている。 また粥独特のとろみによって味がからむことで淡くとも風味の高い鯉こくとなっている。全国の河川は今、 見違えるほどに浄化が進み、 水産資源もかつてあった水準にまで戻りつつある。 しかし一度失われてしまった川魚食文化を戻すには多くの時間がかかるだろうが、 そこには新味創出の宝も多く残されているのである。
総評
「鯉こく、 というのは味の濃いものと思っていたが、 こんなにあっさりと美味しく食べられるとは」「粥を加えるという発想が面白い」 といった評が多く聞かれた。 合わせ味噌や煮込み時間などに対する質疑応答が多く、 その中で早川会員は 「鰻もそうですが川魚の本当の旨味は、ヌメリにあると考えます。 鮮度の良い川魚ほどヌメリが強い。 ですから私はウロコもそのまま煮込むのです」等の持論を付け加えた。