柚野 克幸
西心斎橋「ゆうの」
発酵が醸し出す力で新しい酸味と薫りを創出
ちらし鮨は、 いわゆる大阪の押し鮨のひとつ。 いろんな材料を酢飯と一緒に混和するので、 食べる時にこれを箸で起こすところから「おこしずし」 とも、 また皿に盛りかえればばらばらになるので 「ばらずし」 とも呼ばれる。 また高知県にはよく似た「こけらずし」 があり、 こちらは柚子酢を使ったものとして知られている。いずれも酢の効かせに特徴があるのだが、 大阪の酢飯は少し甘めなところ、つまりは味の柔らかさに魅力があるとされてきた。今回の試作料理は茸などの発酵力を応用したものだが、 そこには発酵による、 酢飯の味の奥深さを追求したい、 という思い入れがあるように感じられた。 また、 それに加えて発酵が生み出す薫りといったものにも力点が置かれている。いわゆる寿司店が作るようなものではなく、 大阪の割烹店が客に味わってもらうべき鮨とはどうあるべきか。今回の試作が狙い通りのものであったかどうかはさておき、 重要なのは大阪料理としての、 これからの鮨の魅力の捉え方にあるといえよう。
総評
「料理としての彩りが美しく、 また味わいに優しさが感じられる」といった評が多く聞かれた。 質疑応答は主に茸の旨味を引き出す発酵方法に終始した。 運営委員からは 「狙いは面白いが、 今回の発酵が料理において、 どの程度作用しているのかが掴むことができなかったのが残念。 それと、 ちらし鮨を包んでいる錦紙玉子がせっかくの料理を食べにく くしている点も気になった」 とするアドバイスが付け加えられた。