石橋 慶喜
「料理人 慶喜」
私は函館にて生まれ育ち、社会人の一歩として建設会社の現場監督に従事した後、縁あって千葉県のスッポン割烹店に勤める事になりました。そして3年後に料理は関西と思い大阪に修業に来ました。
北新地にて26歳から割烹店で勉強したのち、30歳で10年程料理長を経て起業し、現在の北新地慶喜にいたりました。当店の料理は、飾らず、気取らずをテーマに、浪速モンを取り入れた献立や、作れるものは手作りにするという思いで料理に取り組んでいます。
擬き料理の枠を超えて、 日本料理の新味を創造する。
ど擬き料理といえば精進料理がすぐに連想される。 しかし、 食材を安定的に入手することが困難になる今後を考えると、 擬き料理は、 単なる擬きとしてではなく、 ひとつの料理法として捉えていく必要があるだろう。 また、 食べ手にとっても新しい発見であり食の楽しみともなるのではないだろうか。今回の試作はまさにそうしたことへの問いかけでありヒントでもある。 一皿の中で、 アワビとアワビ擬きとしたエリンギを食べ比べるというもの。エリンギを茹でて水に浸けてという作業を何度も繰り返すことで、 ほぼ完全にその風味を抜いて、次にこれをアワビと共に含め煮とし、 風味をエリンギへと移してしまう。では、エリンギはなくなったのかといえば、 傘のところを干してミキサーにかけ、 軸はピューレとし、 それぞれ二層にした葛豆腐の中にエリンギの風味を見事に再現してみせている。大阪料理でよく行われてきた、 作り手と食べ手の計り合いといった、 そんな楽しさがこの一皿から生まれそうな気がする。
総評
「食材から味と風味を抜いて、 他の食材へ移す。 まさに大きな驚きと発見があった」 「この手法を拡大すれば日本料理に馴染まない食材をも活かすことができるのでは」 などのコメントが寄せられていた。運営委員からは 「擬き料理のこれからは、 精進料理という枠を超えて新しい美味しさを創っていくという仕事が求められる。 今回の試作はまさにそうしたことへの方向性を指し示すものであった」 との賛辞が送られた。