城崎 栄一
旬屋 じょう崎
福岡県出身。神戸、奈良で修業後平成7年4月に吹田駅近くにお店を開業。魚菜の会で大阪産の食材を知り地元の吹田くわいなど伝統野菜、淀川天然うなぎ、能勢牛などを積極的に取り入れ会席と一品料理の両方を供する。スチームコンベクションを駆使して食材の最適な温度帯を探り現代的な日本料理と昔ながらの古典的料理を追求している。
手間をかけずに手間暇かけた味を出す
最近は、 料理屋が作るお節に棒鱈が入らないことが多いようだ。 理由は様々だろうが、 何よりも手間がかかる割には、 料理としての価値観を出せない、 といったところが理由ではないだろうか。今回の試作には、 そんな棒鱈をどこまで美味く仕上げることができるかへのヒントが詰まっているように感じた。 ここでは棒鱈を戻し、 真空処理を施してからスチコンで6時間。さらに赤酒と出汁で2時間かけて炊いた後に、 1時間ほど煮汁をかけながら丁寧に煮上げている。さすがにここまで手間をかけると棒鱈のあの骨すらも柔らかくなり食することができるようになる。 しかも真空処理をしているので身崩れもなく、 鱈にありがちな皮のずるけもなく仕上がっている。 一見すれば、 信じられないほどの手間がかかっているようだが、作り手にとっては意外と苦にならない調理法なのかもしれない。 もう一品は、 慈姑の下処理で出る皮や折れた角やハネの慈姑などを有効活用した料理。 ここでは皮などはフードプロセッサーにかけて濾し、 ハネはおろし慈姑に。クワイ水は沈殿させ、でんぷんを抽出。 皮を剥いた慈姑に水溶きしたでんぷんを付け、 揚げた慈姑の皮を粉砕したものをつけ「慈姑の皮揚げ」 としている。
総評
「毎年、 大量に出る慈姑の皮の処理に困っていた、 よいヒントをもらった」 「口の中で棒鱈が溶けるように感じられた。 あのカスカスの棒鱈と同じとは信じがたい」 などのコメントが多数寄せられた。運営委員からは 「手間暇かけた料理だけが出せる味というものがある。この棒鱈はまさにそうした味だろう」との賛辞が、 畑会長からも 「このような美味い棒鱈を食べるのは、 何年ぶりだろうか」 との評が述べられた。