上野 修
浪速割烹 㐂川
櫻鯛だからこそ真昆布ではなく櫻鯛から底味を引く
大阪では桜の頃、 産卵のために外洋から瀬戸内へと入り込んでくる鯛を櫻鯛と呼び、 この特別な時期を『魚島時期 (うおじまどき)』 と呼んだ。 櫻鯛はすべてを食べ尽くせるところにも大きな魅力があり、 浪速の料理屋では、 そこがひとつの腕の見せ所となっている。また今回の試作では、 そうした始末料理に加え、 椀には定番であった真昆布をあえて使わず、 これに代わるものでの清 (すま) し椀としている点も大きな味わい処ではなかろうか。真昆布という底味に頼らずとも、 鯛には鯛の中骨等からとった出汁で合わせることができるのではないか。吸地には鯛に加えて数種の野菜そして田舎味噌を使用。 これを卵白を使って清ましていく。 椀種には白子豆腐。 さばき身の他に、 内臓などと共に石蓴海苔を煉り込んでいることから味に強い深みが感じられる。吸い口には浜防風ではなく、 黄ニラを使用。 素晴らしく澄んだ清汁に強い黄ニラの薫り。 まさに食べ手にひと足はやい春の疾風を感じさせることだろう。
総評
「淡さを感じさせるほどに澄んだ汁だけれども、 しっかりした味が感じられた」 「アオサを使っての白子豆腐の色合いの妙、 黄ニラの強烈な薫り。すべてに驚きが詰まった一椀」といった賛辞が多く聞かれた。 あえて真昆布を使用しなかったことについて運営委員からは 「すべて昆布という考え方から、 昆布をいつどうした時に活用すべきかといった昆布の使途を考える時代に入ったのではないか」とするコメントが寄せられていた。