松尾 英明
千里山 柏屋
時代を見据え固定概念にとらわれず食材と対峙する
初夏にイサキを使う料理屋は多いが季節によって移るイサキの味わいを見極めている店は少ない。 それができるのが養殖魚とするなら、 その価値を今一度見つめ直してはどうか。 しかし、 そのためには料理人自らが養殖業者と共にその価値を見いだしていかなくてはならない。今回の試作では、 和歌山の大瀬戸水産のイサキをタレ焼きにしたもので、 谷中 (生姜) 飯としている。もう一品は、 茶懐石の三州仕立て。一般的な濾し味噌とは異なった古来からの粒味噌状の八丁味噌を使用している。 溶き入れる味噌とは違い、 時間をかけて煮出していくところに滋味がある。 しかし味を決めるのは味噌だけではない。 しっかりとした一番出汁が味のベースとなっている。 見た目は揚げた糸瓜だけの質素な味噌汁だが、 その味わいはは芳醇かつシャープ。 茶懐石の枠を超えて実質的な料理を重んじてきた大阪らしい汁ともいえそうだ。
総評
「養殖魚への認識を新たにさせられる一品」 「日本料理屋として茶懐石の料理を行うことはよくあるが、 いわゆる味噌汁とはまったくコクが異なるもので驚かされた」 などの賛辞が寄せられていた。新たな養殖魚であれ、 伝統製法を守る古代味噌であれ時代を見据え固定概念にとらわれず食材と向かい合う大切さを知る試作であった。