島村 雅晴
雲鶴
和歌山県出身。大阪の料亭で9年間勤務後、2005年北浜に懐石料理店「雲鶴」を独立開業。1012年に現在の天満へ移転。2022年、持続可能な食の未来実現に向け、料理人仲間と共にRelationFish株式会社を設立。低利用魚であるアイゴをシンボルとして、環境や食資源の減少、フードロスなどの問題解決に向け、啓発活動や商品開発等に取り組む。また、大学との共同研究や漁業関係者との連携構築など、ハイテクからアナログ的な手法まで、様々な角度から活動を行っている。
大阪の昔ながらの夏の味を料理屋風に仕立てる
大阪夏の食の風物詩として知られる「あんぺい」。関東の茹でて作られるハンペンとは異なる蒸し蒲鉾。主原料は鱧で山芋などは使用しない、いわば鱧のすり身。一般に真薯と呼ばれるものは字のごとく芋を使うことの意なので鱧真薯とも呼べないだろう。本来のあんぺいの特徴は蒸し物特有の軟らかさにあり、それがために店先では豆腐のように水の中に入れて売られ、その涼しげな風情が道行く買い物客の食欲をそそってきた。
今回の試作では、このあんぺいをすり身屋風ではなく、料理屋風に仕立ている。おろした鱧の皮をひき、そこに塩を加えフードプロセッサですり身に。これに浮き粉と蕪の皮のペーストを加え蒸し上げている。椀の吸い地は、焼いた鱧のアラに昆布、生姜、白葱。鱧に野菜ペーストを加えること等で、すり身屋のあんぺいにはない、独特な弾力と品の良い滑らかさを供えたあんぺい風椀種となっている。家で食べるあんぺいとは少し違う、大阪の料理屋ならではの夏の趣向を楽しめる逸品といえよう。
総評
「なんとも食感が素晴らしい」「蕪の皮を加えるという発想が面白いし、また汎用性も高いのでは」といった評が多く聞かれた。質疑応答のほとんどは店ですり身を作るため温度帯やコツについて。その意見交換はほぼ1時間に及んだ。また運営委員からは「理想のすり身の追求には、フードプロセッサよりも、やはり擂り鉢による人の加減が必要なのではないか」とする意見も寄せられていた。