杉本 亨
浪速割烹 和亨
杉本亨1970年(昭和45年)、大阪生まれ。15歳で京都の料亭に入る。その後、師匠である上野修三氏の料理に見せられて、『浪速割烹 㐂川』に入り、その師匠が営む『天神坂 上野』を経て、99年(平成11)年に大阪・宗右衛門町で『浪速割烹 和亨』を開店。師匠の〝浪速割烹〟を受け継いでいけるように日々探求し、浪速の味を大切にしてます。
客前で行う割烹仕事に相応しい真薯料理
剣先や紋甲にアオリなど料理屋でよく余ってくるのが季節の烏賊の下足。これらを始末の心で真薯に仕立ててはどうか、というのが今回の試作の狙い。
これらをいずれも生の状態から塩麹に淡口、酒を適量合わせものに浸け込んでおく。これをミキサーで摺身に。すり身には常のごとくに山の芋に卵白や浮き粉を加え調味しておく。そこに河内蓮根を素焼きにしたものを賽の目に、生姜を粗みじんにしたものを揚げすり身に混ぜ入れている。そしてこの烏賊下足すり身を蒸すのではなく油焼きするのである。ここが浪速割烹らしく何とも面白い。ご存じの通り下足は焼くことで独特な味と香りを放ってくる。これが食べ手にはたまらない馳走となる。まさに客前で行う割烹仕事に相応しい真薯料理だといえよう。そしてこの真薯には、柚子胡椒を流し入れた銀餡。添え物には赤パプリカ等を烏賊下足を焼いた油とからめて仕上げている。
総評
「調理途中の匂いだけで食欲がそそられる」「下足もそうだが蓮根の食感も素晴らしい」などの評が寄せられていた。下足の下処理である塩麹について質疑応答がなされていた。
運営委員からは「料理では食べ手に事前情報が入るかどうかで、満足感に大きな変化が見られる。下足の香りという事前情報は、非常に効果的だったように思う」とする意見がなされていた。なんとも大阪的な料理。焼いた蕪への賛辞もあったが、季節的なことを考えるならば、ここは蕪ではなく、もうひと工夫がほしかったところではある。