西野 保孝
山海料理 「仁志乃」
昭和36年5月25日生まれ。昭和55高校卒業後、辻学園日本調理師学校入学。翌年56年4月土佐料理『司』就職。阪急グランドビル店をはじめ大阪の系列店にて勤務。平成2年独立ため退社。
生まれ育った堺市平岡町にて『山海料理 仁志乃』を開店。大阪では比較的南に位置する地の利を生かし、大阪の海の幸山の幸を生産者さんから直接買付けして四季折々の仁志乃独自の調理をしております。
自家製にこだわり酒盗本来の持ち味を引き出す
鰹を使った副産物として最も古いもののひとつに「酒盗」がある。ある西国の大名が初めてこれを賞味した際に、酒量を進める食べ物としてこの名を付けたといわれている。新鮮な内臓をとりだし、胆嚢は除き腸そして胃袋は割いて洗い、これに昔なら一升に2合強の塩を振り込んだとされるが、それでは塩味が強すぎて酒盗そのものの持ち味を楽しむことができない。そこで今回の試作では、その半分量以下の塩での発酵を行っている。プロセスとしては、よく洗った鰹の内臓を酒に浸け、これを冷蔵庫に6時間程度置いて冷やす。酒をしっかり切って後に、10%の塩を入れて混ぜ込み、一週間程度冷蔵庫にて日に一度は混ぜ、その後には一週間に一度混ぜる。これを3ヶ月経るとほぼ完成で、その後は時を増す毎に熟成が進み、なれた旨味が加わってくる。
そうした酒盗の持ち味を存分に味わえる料理法として試作されたのが共和え。賽の目に切った鰹と酒盗を叩き合わせ、これに少量の胡麻油と玉葱を混ぜ込むのである。発酵は面白いもので、食材だけでなく発酵場所や環境そして作り手によっても味や風味が大きく変わる。だからこそ発酵料理はその店だけの味ともなるのだろう。
総評
「酒盗といえば最初に塩を強くして徐々に薄めていく、といった手法をよく聞くが、今回はその逆の発想ともいえる」「料理では共和えとなっているが、この酒盗なら白身の魚介にも合うのではないか」など様々な評が寄せられていた。運営委員からは「酒盗は本来は各店で自家製の味を競っていたものだが、いつしかそうした仕事をしなくなってしまった。今回の発表を受け、今一度店で行ってみるよい機会になった」とする意見も聞かれた。