竹本正勝
辻調理師専門学校
広島県生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、同校に勤める。N.Y.の日本料理店『Brushstroke(ブラッシュストローク)』に2年間出向。現地の食材を使って和食を仕立、ワールドワイドなお客様に提供する経験を通し、改めて古い和食の仕事の大切さを痛感。「基礎技術に古いも新しいもない」をモットーに日々、学生達と共に研鑽を積み、料理人育成に努めています。
名残の鱧を始末の心で活かす、 秋の大阪温寿司
温寿司 (ぬくずし) は、大阪や京都など京阪地域に独特なものであったが近年では東京でも食されている。酢飯の酢香がツンと鼻をつくことから好き嫌いの分かれる料理だが、 大阪の酢は案外に軽いので、 食事の最後の御飯物としても供される。 椎茸飯をベースに穴子などを混ぜ込み酢をふりかけて瀬戸物で蒸し錦糸卵をあしらう。 昔は蒸籠を使って蒸していたことからセイロウズシとも呼ばれた大阪料理であった。今回の試作は、 この温寿司をアレンジしたものだが、 発想が面白い。秋鱧の鱧皮を、 いわば穴子の代わりに主役に仕立てている。 鱧皮の有馬煮を作り、 これに干し椎茸艶煮と蓮根の甘酢漬けという趣向。本来ならば寒風が吹く季節に食したい温寿司だが、 こちらは名残の鱧で食べる、秋の温寿司とでもいうべき料理。また、 大きくなった鱧の皮を始末の心で活用するという点でも素晴らしい。
総評
「美しい彩りが食欲をそそる」 「鱧皮の活用法として面白い」 といった感想が寄せられていた。 運営委員からは 「温寿司にしては、 酢が強すぎるのではないか」 「美しい仕上がりだが、 混ぜ込んでいないので食する際に、 せっかくの彩りが失われるのでは」 などのアドバイスや意見が聞かれた。