菱蟹の養老寄せ

濱本 良司
辻調理師専門学校  

見落とされがちな旬食材から新たな酢味を引き出す

日本料理における養老の名は、 養老の瀧のごとく、 山芋寒天等でかためて突き出したものからおこっている。現代では山芋料理だけでなく、 瀧の爽快感を味わう、 といった意味だけが残されたのか夏の前菜にはこうした名がよく使われる。 今回の試作は、 まさにそんな少し残暑が残る時期の酢の物に相応しい逸品といえよう。 始末を旨とする大阪料理では、単に稀少で高価な食材よりも、 旬とされる時期、 つまりその食材の個性味が十分に出たものを活かす技が尊ばれる。大阪泉州名物の菱蟹といえば冬の雌蟹が珍重されるが、 安価に入手できる初秋の雄蟹にも旬の旨さがある。 そこに着目し、蟹殻等から出汁を引き出すことで、 新たな酢味を考え、 名残の夏野菜と共に食せる養老寄せとしている。 また、 本試作では魚介だけでなく、 味わいの異なった果物などの酢味をも層とすることで、味わいに変化を付けている。日頃、 見落とされがちな旬の食材に着目し、 これを活かす姿勢は大阪料理と呼ぶに価するだろう。

総評

「食べ手に爽やかな印象を与える料理、 あっさりとした旨味という発見があった」 とするコメントが多く寄せられていた。 運営委員からは 「味の変化の狙いは分かるが、 ゼリーの量が多すぎたのではないか」 との指摘の他、 畑会長からは 「面白い料理だが、 せっかくの蟹身のインパクトが薄すぎるのと、 手が加わりすぎて料理としてのフレッシュ感に欠けるのでは」 とするアドバイスがあった。

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