中村 正明
和洋遊膳 「中村」
1963年、奈良県生まれ。20歳で『志摩観光ホテル』のメインダイニング『ラ・メール』に入る。総料理長・高橋忠之氏の下でフランス料理を修行後、スウェーデン日本大使館の公邸料理人になる。さらに『浪速割烹 㐂川』で腕を磨き、1995年に独立。店名の通り和洋の枠に捉われない料理が楽しめる。奈良の月ヶ瀬に菜園を持ち、野菜の栽培にも力を入れている。
野菜出汁で調味料を使わない摺り流し
野菜出汁の特長は、 出汁そのものの中に甘味があること。 そこにさらなる旨味と塩気が食材から引き出せれば調味料を加えなくても料理として成り立つのではないか。 そのような野菜出汁の新たな魅力を駆使した夏の大阪料理の試作。発想の原点に置いたのが、 泉州地区の郷土食ともなっているジャコゴウコなどの 「海老と茄子」 の惣菜。泉州で海老といえばトビアラが定番となっているが、 盛夏までは安定的に入手できないこともあり、 ここでは素麺出汁用の干し海老で代用。海老のスープといえば生クリームと合わせたビスク風なものがイメージされるが、 今回の試作では生米でとろみを出し、 豆乳を使うことで野菜出汁とマッチしたより軽やかな味わいを狙っている。 さらに旨味分であるグルタミン酸を補うものとして昆布にプラスして蕃茄を、 適度な塩気は香ばしく焼いた干し海老から引き出した。野菜出汁を生出汁としてではなく吸い地としてどこまで活用できるかの、 ひとつのヒントになる試作料理といえよう。
総評
「干し海老を使っているとは思えないほどに海老の薫りと味わいが濃厚なのに驚いた」 とのコメントが多く寄せられた。 「摺り流しにスープのようななめらかさを与えるには、 どのような米の濃度が求められるのか」 といった質問も多くあった。「調味料は使わなかったのではなく、加えようと思ってもその必要性が感じられなかっただけ」 との中村氏のコメントがなんとも印象的であった。