低温調理による丸の変わりだし仕立て椀

辻 宏弥
法善寺 浅草  

すっぽんの出汁と低温調理へのアプローチ

丸仕立では水と酒で出汁をとるのがいわゆる 「常のごとし」 の仕事とされる。今回、 出汁を考えるというアプローチの中で辻氏が試作を行ったのが、酒を使わない昆布出汁をベースにした鼈出汁。定例会では、 試食の中で出汁の比較検討ができるよう、 昆布出汁だけによる鼈出汁と、 その鼈出汁に酒を煮詰めたものと淡口で調味した椀が供された。また椀には椀種として、 あえて低温調理を施すことで鼈の身肉にどれだしっとり感を出せるかといった取り組みも紹介された。これまで大阪料理は、 鼈を単に鍋料理としてだけでなく、 割烹における華にまで仕立て上げてきた歴史がある。 辻会員の今回の試作料理はこれからの時代の新しい大阪料理としての鼈へのヒントと云ってよいのではなかろうか。

総評

試食後の感想や質問の多くは、 丸仕立ての出汁用としてではなく、 ひとつの調味料として使用された煮詰め酒に関してであった。 「調味料として非常に面白い」 とする意見や、「酒独特の丸仕立が持つ風味への抵抗感のようなものは、 確かになくなったが、 反対に昆布味が強調されてしまったのではないか」 とする指摘なども聞かれた。また鼈の低温調理については、 概ね高評価であったが、 温度の加減で鼈の臭みのようなものが気になることもある、 温度への再考が必要では?とするアドバイスが会長からなされた。

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