1月半ばに緊急事態宣言が発令されたため、3カ月ぶりの開催となった。明るいニュースが乏しい飲食業界ではあるが、本会の運営委員である『浪速割烹 㐂川』店主・上野修氏が昨年、現代の名工を受賞。朗報に際して畑会長は「大阪の料理に真摯に取り組んできた功績等が支持されたのだと思う」と祝辞を述べた。また、今回は試作発表を担当する島村氏より、料理に加えて大阪料理の始末の精神をSDGsの観点から考えるための講義も行われた。
杉本 亨
浪速割烹 和亨
杉本亨1970年(昭和45年)、大阪生まれ。15歳で京都の料亭に入る。その後、師匠である上野修三氏の料理に見せられて、『浪速割烹 㐂川』に入り、その師匠が営む『天神坂 上野』を経て、99年(平成11)年に大阪・宗右衛門町で『浪速割烹 和亨』を開店。師匠の〝浪速割烹〟を受け継いでいけるように日々探求し、浪速の味を大切にしてます。
春甘藍白和え 烏賊蒲鉾 鯖へしこ御握り
「日ごろから当たり前のようにやっている“始末”の仕事。割烹で合間にちょっと出す料理を中猪口といいますが、今回はそのイメージで仕立てました」と杉本さん。
白和えは、柔らかい春甘藍(春キャベツ)の茎まで使ったもの。葉はだしをとった後の昆布の活用し、その上にのせて蒸す。茎は、野菜の切れ端とカツオでとっただしに牛脂を加えた地で茹でる。これを薄揚げと共に、木綿豆腐・白味噌・砂糖・煎りゴマの白地(白和え衣)で和えている。
イカは皮を剥き、下足をミキサーにかけて摺り身にし、卵白、山芋おろしと合わせて、塩・淡口醤油・みりんで塩梅する。プロセスチーズを角切りにして混ぜ、250℃のオーブンで30分ほど焼く。表面に卵白を塗って化粧する。
鯖へしこは自家製。醤油で和えたカツオ節と共に細かく刻んで同割で合わせ、乾煎りする。切り胡麻、一味唐辛子を加え、おにぎりにまぶす。
お祝い若竹椀
師匠である『浪速割烹 㐂川』店主・上野修氏の受賞祝いとして仕立てた椀物。椀種として、筍、若布に、薄塩して揚げた鯛。吸い口に炙ったカラスミを添え、吸い地をはる。
総評
料理屋における始末の料理とは?というテーマで活発な意見交換が行われた。「野菜の切れ端で味噌汁を作りましたというのでは、料理屋の始末の料理とは言えない。創意工夫がなければ」「捨てる部分を使うにしても、そこに付加価値を付ける必要がある」などの会話がなされ、畑会長は「牛脂を入れた地のコクがキャベツの茎から感じられ、美味しさに繋がっている。このような工夫こそが素晴らしい」とまとめた。
また、鯖や白身が余った時にベタ塩し、調味料を加えた煎り糠に真空で漬ける、という杉本氏のへしこの仕事に興味を持つ会員が多く、ニシンやノドグロのへしこも旨い、といった声も集まった。
祝い椀は、「師匠への想いが伝わってきた」という感想に加えて、「鯛を揚げることで、若竹の存在感が弱まってしまった」という声も。
始末にしても、祝いにしても、今回のテーマは、参加者が「食べ手を思って仕立てることの大切さ」を今一度考えるきっかけになったようだ。
島村 雅晴
雲鶴
和歌山県出身。大阪の料亭で9年間勤務後、2005年北浜に懐石料理店「雲鶴」を独立開業。1012年に現在の天満へ移転。2022年、持続可能な食の未来実現に向け、料理人仲間と共にRelationFish株式会社を設立。低利用魚であるアイゴをシンボルとして、環境や食資源の減少、フードロスなどの問題解決に向け、啓発活動や商品開発等に取り組む。また、大学との共同研究や漁業関係者との連携構築など、ハイテクからアナログ的な手法まで、様々な角度から活動を行っている。
春キャベツの真丈椀
「カツオだしを使わずに、野菜の旨みだけで一品仕立ててみよう」と、山崎さんが考案。
250℃で1時間、皮つきのまま焼いた玉ネギは、焦げた皮を取り除き、ペーストにして5%の太白胡麻油で乳化させる。トロミアップで乳化を安定させ、野菜出汁と同割にし、塩で味を決め、吸い地とする。この野菜出汁は、昆布と干し椎茸を水で戻し、その戻し汁にニンジン、玉ネギ、白菜、春キャベツに碓井豌豆(うすいえんどう)の皮、ショウガを加えて10分ほど煮出し、そのまま冷まして濾したもの。碓井豌豆を裏漉しして葛で寄せた豆腐にとろっとかけ、トマト塩をアクセントとして利かせている。トマト塩は、ミニトマトを半分にカットし、3%の塩をまぶして乾燥させ、当たり鉢で細かくした自家製。鮮やかな色と、爽やかな酸味、香味を添えている。
桜餅 昆布餡
ここ数年、淀川ではハゼがたくさん獲れ、大阪市の漁協では内臓を取り除き、焼き干しにして販売している。「大阪では昔から素麺のつゆにハゼのだしを使っていたと聞いて、今ではあまり使われなくなった鯊出汁を引いてみようと思いました。そのままでは味わいが弱かったので、淡口醤油にくぐらせてから焼いてます。これを煮出すことで、味にぐっと深みが出たと思います」と、山崎さん。
ハゼの焼き干しは頭を取り、淡口醤油にくぐらせてから90℃で50分ほど焼き、昆布と共に水出し。そのまま沸かして濾し、鯊出汁とする。塩、淡口醤油、みりんで味付けし、ゴマを練り込んだ素麺と、木の芽でシンプルに仕立てた。
総評
椀物は、まずその美しい見た目に目を奪われたというコメントが多数出た。また、精進だしについて、「動物性の素材を使わずに、これほど深い旨みが出せるというのは発見」「次代のだしと言えるのではないか」という声が集まり、運営委員からは「寒風に当てると甘みと旨みが出る。金時人参や白菜は特に、1~2週間乾燥させるといい」との助言も。畑会長は、「カツオだしを使わないことで、逆にキャベツの旨みがしっかりと堪能できた」と締めくくった。
また、だしがらとなった昆布の使い道としての今回の提案には、「和菓子に仕立てる発想が斬新」との声が集まった。畑会長も「美味しかった!」と絶賛。「料理屋では熱々で出した方がいいのでは? その方が、より昆布の個性が愉しめると思う」と付け加えた。