「大阪湾太刀魚」と「秋鱧」

9月の定例会から試作発表は、2名の会員による各々2品の計4作品で討議が行われることになった。また、今月からスタートした政府の対策「GO TO トラベル」に引き続き、来月からは飲食店を対象とした「GO TO イート」も行われる。こうした制度利用についての解説や心構えなどが開催前に畑会長よりなされた。


久保田 博
割烹 くぼた  

・大阪北新地 割烹味菜 
・オランダ ホテルオークラ
・大阪北新地 料亭
・東京 青山、広尾の日本料理店
・兵庫 西宮の日本料理店
・2010年に【割烹くぼた】開業

[使用食材]
・毎朝、大阪中央市場にて仕入れ
・熊本の父親が作った野菜
・自ら船釣りに行き仕入れと称しての釣った魚
・全国の漁港から直送

料理はコース料理のみで、味の濃淡、彩、食感を大事にし、美味しオモシロイ料理を目指し献立を立てています。

9月のテーマ「大阪湾太刀魚」

秋も少し深まってくると、小魚を求めて太刀魚が大阪湾に多く入ってくる。しかし、こうした太刀魚は小ぶりなため、料理店としては使いづらいところもある。今回の試作では、小さな太刀魚や細く扱いづらい太刀魚の部位などを料理店がどのように生かすかの提案とヒントが多く込められていたように思う。

太刀魚饅頭秋色庵掛け

まず、太刀魚饅頭秋色庵掛け。太刀魚の頭やカマなど細い部位に塩をして、味噌漬けにしている。二晩漬け込み、蒸して、身肉をほぐす。小芋を八方地で焚き、これに太刀魚の身肉、とんぶりを混ぜ込む。成形し、薄力粉でまぶして揚げている。庵は菊菜と黄菊、そしてきのこをだしで炊いたものを淡口醤油で調味。秋の大阪湾の太刀魚に大阪らしい菊菜に、季節の黄菊。すばらしい庵掛けだといえよう。

太刀魚燻製白胡椒寿司

次に太刀魚燻製白胡椒寿司。こちらは太刀魚を三枚におろし、強めの塩をしてクッキングシートに挟み、一晩寝かせている。皮目を炙って、サクラチップの燻製鍋にかける。この際に煙でシートも蒸す。太刀魚をこのシートで包んで一晩おくことで燻製薫を強めている。最後に大葉をはさんで棒寿司を仕上げ、供する時にマレーシアの白胡椒を掛けて薫りを豊かにしている。

総評

「大阪料理の始末の精神が随所に生かされたすばらしい料理」「季節感だけでなく、太刀魚の良さも感じさせてくれる試作」などの評が多く聞かれた。また参加会員から今回の試作の意図を聞かれた久保田氏は「この料理の狙いのひとつには、日本酒とのマッチングがある。秋上がりなど芳醇でコクのある酒が出回る時期なので、そうした酒に合う料理としても考えた」とのやりとりがなされた。運営委員からは「饅頭の中のとんぶりに食感があまりなかったのは残念。混ぜ込んだことに原因があるように思うが、混ぜ込むのではなく中に入れ込むという手法もあったのではないか」とのアドバイスがなされた。また、燻製寿司ではクッキングシートを使った燻製薫のつけ方についての討議や日本料理も新しい薫りの楽しみ方の提案が必要とされているのではないかとする、意見が寄せられていた。


中村 正明
和洋遊膳 「中村」  

1963年、奈良県生まれ。20歳で『志摩観光ホテル』のメインダイニング『ラ・メール』に入る。総料理長・高橋忠之氏の下でフランス料理を修行後、スウェーデン日本大使館の公邸料理人になる。さらに『浪速割烹 㐂川』で腕を磨き、1995年に独立。店名の通り和洋の枠に捉われない料理が楽しめる。奈良の月ヶ瀬に菜園を持ち、野菜の栽培にも力を入れている。

9月のテーマ「秋鱧」

江戸時代から大阪で好まれてきた秋鱧。脂がのり大形だが、骨切りが難しいなどから最近ではあまり使われなくなっている。試作は定番的な鱧料理とは異なった手法で秋鱧の魅力を引き出した2品となっている。

秋鱧煮麺

まずは秋鱧煮麺。鱧の頭や骨を焼き、炒めた玉ネギと合わせてだしをとっている。これは大阪泉州の郷土料理である鱧と玉ネギの出合いものがヒントとなっているようだ。濃厚な鱧だしをとり、これを淡口醤油などで調味し、湯がいた素麺を盛り、骨切りした鱧身肉・ネギに山椒をのせている。また、この料理にはセモリナ粉を使った素麺が使用されているのが面白い。

秋鱧押鮨

次に秋鱧押鮨。骨切りした秋鱧を串で素焼きしてから、だしで焚いている。また、鱧を捌いた際に出る細い部位も使用する。これらをほぐし、煮て微塵切りにした干し椎茸とゆかりとともにシャリへ混ぜ込み、押し型に詰めて押し鮨としている。隙間無く詰め込む押し鮨だからこそ、細い部位も有効に活用できるのである。

総評

「多くのヒントが詰まった秋鱧料理、非常に参考になった」などの賛辞が多く聞かれた。また「鱧をそのまま焚くのではなく、素焼きしてから焚くことで押し鮨に最適なものとなることが試食して分かった」という意見が寄せられていた。これに対して中村氏は「鱧をそのまま焚いたのでは、鮨にした時にシャリとの一体感がなくなる。上身が硬くて、下が柔らかくて食べづらい。けれど、一度素焼きすることで同じ柔らかさを得ることができるのではないか」との説明を行った。併せて、なぜ煮麺にセモリナ粉の素麺を使用したかについても「秋鱧のだしは濃厚さが特徴。ラーメンのスープに近いものがある。これを活かすには素麺よりも、よりコシが強い麺が最適」とする持論を述べた。

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