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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第29回〉
2013年 5月

第29回の大阪料理会。2名の各会員によって選ばれた前菜テーマは、「入梅」と大阪夏祭りの皮切りともなる「愛染祭」。単なる前菜料理というだけでなく、前菜の中にいかに大阪的なる季節感を、そして事物や歴史を含めたものなどを盛り込めるか。回を重ねる事に深みを増すものとなっているようだ。また今回の大阪料理会では、大阪あべの辻調理師専門学校よりキャリア教育部長を迎え、「日本料理界をめざす若者の就労意識と現状」についての講演も行われた(模様は「活動レポート」にて)。スタッフの採用に関することから、細かな人材教育に到るまでを実例を交えながらの勉強会となった。


上野 修さん 上野 修さん
浪速割烹喜川
お店HP
城崎 栄一さん 城崎 栄一さん
旬屋じょう崎
上野 修さんの献立 城崎 栄一さんの献立 撮影/藤澤 了 文/笹井良隆

◆6月の前菜テーマ/愛染祭

6月の前菜テーマ/愛染祭

【料理名】愛染祭

(愛染明王)白紗蝦の雲丹揚と煎餅
(勝髷経典)新牛蒡の経典見立
(施薬院を偲ぶ)雪の下の荏胡麻防風のせ
(大阪夏祭二品)鱧あんぺいと枝豆の煮凍り
(大阪夏祭二品)蛸の梅肉


大阪の祭り月は7月だが、その皮切りとなるのが6月下旬から始まる愛染祭。大阪の祭りは愛染祭に始まって住吉祭に終わる。その愛染祭が、愛染の由来と共に料理で表現されている。愛染明王は商売繁盛祈願の神様としても大阪では親しまれている。その愛染明王を料理で表現したのが「白砂蝦の雲丹揚と煎餅」。大阪好みの白紗蝦の各部位を巧みに使い、明王の髪や胴などを表現させている。明王の光背に煎餅が使われているのも面白い。次に新牛蒡を桂に剥き酢どりしたものを芹で括った経典。また愛染堂といえば施薬院が有名。昔は薬草園であったそうだが、この施薬院の薬草を雪の下という食材で表現し、これを白染揚げとしている。残りの二品は、大阪の夏祭りにはつきものの料理である、鱧と蛸。鱧はあんぺいとし、蛸は菊花蕪にして梅肉餡で供された。


◆5月のテーマ食材/蔬菜篇「泉州早生玉葱」

【料理名】貝塚早生と季不知鮭の重ね冷製 共泡酢

泉州の極早生玉葱の特徴は刺身玉葱ともいわれるほどの甘さにあるが、水分を多く含み扱いにくいところもある。上野 修氏はこの早生玉葱の味わいを外側と内側に分けて調理。外側はスライスし、内側は摺り下ろしている。摺り下ろした玉葱は鍋で水分と余分な辛味を除き、さらにサラシで濾している。これをひとつは、外側のスライスと共に塩・昆布・ゼラチンで漬け流し固める。もうひとつは、ゼラチン入りの合わせ酢を作りホイップすることで共泡酢としている。時鮭はあえて一度冷凍したものを解凍し昆布〆に。一玉の玉葱であっても外と内側で持てる考慮し、早生玉葱らしい味わいを存分に生かした料理法だといえよう。


◆5月のテーマ食材/魚介篇「猿海老(とびあら)」

【料理名】猿海老の葛豆腐 共出汁洋清汁

海老の旨みと香りをどこまで引き出せるか。これをテーマにチャレンジしたのがこの一品。海老の上身を吉野葛と合わせ具材に。残りの部位を焼き上げ香ばしさを引き出す。トマトを乾煎りしたものと、大阪好みの真昆布出汁とを合わせ海老の殻と共に煮出し、卵白・酢橘汁を加えコンソメとしている。「猿海老からこれだけ濃厚な味わいが引き出せるのですが、旨みが濃いから良いというものでもないことも分かってもらえたと思う。一連の料理の中で、旨みの濃淡ということをいかに調整していくかということも大切。この料理がそうしたことを考える機会になれば」と上野 修氏。あえてコンソメ仕立てとしているところにも、これからの新しい大阪料理の椀物の型が示された一品とも言えよう。




【総評】

大阪人であっても馴染みが薄いとされる「愛染祭」。試食の前菜料理を眼前に、上野 修氏から同夏祭の由来や愛染明王の話などを参加会員が関心を持って聞き入った。前菜料理の中では「雪の下」の薬草らしい味わいに面白いという声があがった。また味わいとしては鱧のあんぺい料理への意見が相次いだ。鱧真薯を流し函で固め、これに湯がいた枝豆の食感。中でも鱧の骨出汁にコンソメを注ぎ固めた料理には、大阪の夏の伝統的な「あんぺい」という料理に、鱧出汁コンソメが非常によくマッチしているという賞賛の声があがった。
テーマ食材の「猿海老」の料理には、海老の旨さとトマトの酸味がこれほどよく合うというのは驚きとのコメントが寄せられた。今回のトマトは大阪平野産の蜜蜂交配トマトで少し酸味の強いものだが、余分な水分をとばして味を凝縮させているとのこと。泉州玉葱をテーマとした料理では、時鮭との相性もよいが、これを生鮨(きずし)と合わせてみてもよいのではないか、との感想が会員から出された。

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