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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第32回〉
2013年 8月

かつて経験がないような猛暑に見舞われた第32回の大阪料理会。本会で取り上げられた前菜テーマは、重陽ならびに観月。中でも重陽の節句は、旧暦での扱いであれば食材的にも広がりが出たであろうが、新暦での取り組みに担当者の苦労が窺われた。今後、料理における前菜を考える上においては旧暦の中でこれを考えていくべきではないか、との意見が松尾運営委員や上野相談役から提案された。当日は料理の試食ならびに討論に加えて、ヒガシマル醤油(株)の真岸研究員より「醤油と出汁、その減塩効果」についての講演ならびに試飲が行われた。さらに会の締めくくりとして上野相談役より「大阪割烹の歴史」についての話がなされた。


長内 敬之さん 長内 敬之さん
旬鮮和楽 さな井
島村 雅晴さん 島村 雅晴さん
雲鶴
お店HP
長内 敬之さんの献立 島村 雅晴さんの献立 撮影/藤澤 了 文/笹井良隆

◆9月の前菜テーマ/重陽

6月の前菜テーマ/愛染祭

【料理名】重陽

・金目鯛菊花造り
・新銀杏玉取り
・渡り蟹磯辺巻揚げ
・かます覆輪苦瓜焼
・菊花薩摩芋レモン煮


九月の九は陰陽学における陽の極み数。それが重なる九月九日は重陽であり、菊花薫る時期でもある。菊花の水を飲み仙人となった菊慈童伝説といった中国の故事などに習い、わが国においても宮中でこれを取り入れた。料理としての重陽を長内氏は、「菊づくし料理による前菜」として考えてみた。さらに長内氏はこの菊づくし前菜を、五味五法という料理法を下地として五種盛りとして作り上げている。金目鯛の旬をいつに捉えるかは様々だが、菊花の赤と金目鯛の彩りは美しく、甘酢浸けに昆布で〆られているところは何とも大阪料理らしい。銀杏料理はホタテと合わせ昆布出汁を使った玉取りとなっている。秋時期から旨みを増す渡り蟹の磯辺巻揚げ、さらにはカマスを使い覆輪菊をイメージした料理も面白く味わいにおいても苦みというポイントを与えている。


◆8月のテーマ食材/魚介篇「白紗海老」

【料理名】
白紗海老西京煮

白紗海老の旨みは昆布出汁によりさらに引き出され、また頭のミソの味わいは白味噌との相性でより旨みが強くなる。そうした白紗海老が持つ味わいの可能性を追求した一品。白紗の頭を焼いて刻み、これを昆布出汁で焚き調味している。海老の身はのび串を打って海老出汁に浸け合わせる。今回は玉造黒門越瓜をボイルしたものを同じ浸し地につけている。白紗海老と白瓜という盛夏の取り合わせが非常に面白く何とも涼しげであるといえよう。


◆8月のテーマ食材/蔬菜篇「玉造黒門越瓜」

【料理名】玉造黒門越瓜の葛豆腐

瓜の中でも特に身の厚い玉造黒門越瓜は、熟するのが早く、水分が多いため傷みやすい瓜としても知られている。今回はそんな瓜を身と水気をスピードカッターで素早く分離させ利用している。この白瓜の汁に吉野葛を入れて煉り、さらに途中から身も入れて煉り上げる。ラップに皮付きでスライスした白瓜を並べ、焼いた白瓜をのせて、煉って葛豆腐としたものを茶巾で絞る。これに昆布と干し椎茸、鰹・シビ節から作った素麺出汁が掛けられている。また白瓜の種は捨てず干して脂で揚げ天盛りに使われているところがユニーク。




【総評】

菊花重陽の五種盛前菜。非常に手の込んだ菊尽し料理に賞賛の声が多くあがった。中でも金目鯛菊花造りに掛けられた蕃茄(トマト)醤油に対して質問が多くあった。この蕃茄醤油は、トマトをオーブンで焼きミキサーにかけ調味されたもの。この醤油はとろみ調整粉でとろみがつけられており、造りとの絶妙なからみ具合が図られている。テーマ食材の「白紗海老」では、一般的に白紗海老といえば煮焚き料理が主流だけれど、今回は焼くという調理法から旨みを引き出す発想がなされていることへ高い評価がなされた。もうひとつのテーマ食材である「玉造黒門越瓜」の料理では、料理の仕上がりの美しさに対しての声が多くあった。北野運営委員からは「白瓜の涼しげなラインが、女性の和服夏姿を連想させる」という声もあった。シビ節が利いた素麺汁のまったりとした味わい、種も食材に生かす知恵も素晴らしいの意見も少なくなかった。

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