今月の献立 〈第33回〉 2013年 9月 |
秋の大阪といえば、摂津に和泉に河内といった地域でだんじり祭がはじまる。最近は岸和田ばかりが有名になっているが、他の地域にも自慢のだんじりと祭礼が今も残されている。今月はそんな、大阪だんじり祭の賑わいを前菜料理で表現。また一方では、秋の静けさを愉しむ十三夜をテーマにした前菜が用意された。歳事の勉強会では辻調グループの重松研究員から「月見について」の説明がなされた。上野相談役からは「大阪料理」という観点から大阪の割烹の歴史についての小講演が行われた。 |
西野 保孝さん 山海料理 二志乃 |
板倉 誠司さん 旬菜 喜いち |
西野 保孝さんの献立 | 板倉 誠司さんの献立 | 撮影/藤澤 了 文/笹井良隆 |
【総評】 泉州のだんじり祭をテーマとした前菜。「食べる前から料理の迫力に圧倒された」という声が各テーブルから聞こえてきた。地域そして祭りを大切に想う気持ちが込められた前菜は、作り手だけでなく、食べ手の気持ちも高揚させてくれる。鶉卵のこのわた漬けにおける、このわたの調味加減の良さ、水茄子のじゃこごうこの旨さに賛辞が集中した。じゃこごうこは古漬けの水茄子を裂き、飛荒海老の剥き身等でとった出汁で焚き2日間おいて味を馴染ませている。素朴な泉州の郷土料理を料理屋の見事な一品に変身させた手腕は見事、との賛辞もあった。テーマ食材ではやはり赤矢柄への質問が多く出た。中には、この食材なら鮮度の良いうちに昆布〆にすればどうかとの声もあがった。石川早生芋を使った芋蛸南京では、せっかくの小芋の味わいが薄くなったのが残念との意見が多く、原因としては小芋の皮を剥いてしまったこと、牛乳が多すぎたからではないかといった指摘もあった。 |
私考「浪速味道 割烹篇」
割烹 三都の料理屋のはじまり
話:上野相談役
いわゆる会席料理なるものが世に生まれた、そのきっかけとなったものに京・二条寺町の妙萬寺がある。時代でいえば寛永六(1629)年。当時は寺も収入源に困っていたようで、広い境内の空いた場所を「貸席」としていた。これを用いた俳諧の集いが行われ、ここで会の後に飲食したのが会席のはじまりではないかとされている。
また同じく江戸では1680年代というから天和年間だが、奈良茶店が誕生している。ここでは主に茶飯、煮〆、煮豆や豆腐汁などをセットにして売っていたようである。しかしこの時代よりも前、つまり1615年に開削され1650年代頃には賑わっていた道頓堀に、同様の店が営業していたようである。大阪ではこうした茶店とは異なった料亭文化も早期に発達しており元禄年間の前にはあったとされる料亭浮瀬を皮切りに福屋、西照庵など次々と営業を始めるようになっていったのである。