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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第72回〉
2016年 12月

本年最後を締めくくる大阪料理会。年明けにあたる前菜に選ばれたテーマは「小正月」。古くは関西では骨正月、女正月とも呼ばれてきた。女性への労をねぎらうための小正月なら、現代ではさしずめ料理屋の出番。正月明けの料理屋の型となれば面白い。次代へ繋ぐ和食材シリーズの第二回目は、干し筍と身欠き鰊がそれぞれ選ばれた。



中村 正明さん 中村 正明さん
和洋遊膳「中村」
ぐるなび
松尾 英明さん 松尾 英明さん
千里山「柏屋」
お店HP
ぐるなび
岡本 正樹さん 岡本 正樹さん
「天の川なかなか」
お店HP
ぐるなび



中村正明氏、岡本正樹氏、松尾英明氏による前菜料理

◆1月の前菜テーマ「小正月に寄せて」

前菜「小正月に寄せて」

小正月に寄せて

・餅花見立て(共作)
 百合根マスカルポーネ奈良漬あんぽ柿:中村氏
 青海苔真蒸塩雲丹射込:岡本氏
 人参鴨煮こごり射込:松尾氏
・鰆柚餅子博多焼き 雪の下仕立(中村氏)
・菱蟹錦巻き(中村氏)
・菊菜生麩饅頭(岡本氏)
・五穀白和え(松尾氏)

【料理について】

小正月といえば『餅花』。柳の枝に餅や団子を花として飾り一年の幸を祈願する。その餅花料理を3会員が各々担当。中村氏は、塩ゆがきした百合根を裏漉しマスカルポーネを混ぜたものに、フォアグラの味噌漬と奈良漬・あんぽ柿を射込んだ。岡本氏は、山芋などを使い調味した擂り身に塩雲丹を射込み裏漉したアオサをまぶし揚げ団子としている。松尾氏は、丸く抜いた人参を下茹で調味し鴨の漬け汁にて加熱。鴨肉は皮を別にし、白葱・人参・生姜等に先ほどの漬け汁を加え冷蔵庫で一週間ほど漬け込んだ後、圧力釜で1時間程度蒸している。鴨は油を加え流し函に入れ蒸した後に冷やし固め煮凝りとし、これを先ほどの人参へ射込み蓋している。
『鰆柚餅子博多焼き』は中村氏が担当、幽庵地に浸けた鰆に自家製の柚餅子を挟み焼いている。『菱蟹錦巻』も中村氏が担当。金糸玉子に蕪の酢取りを巻き、さばいた蟹身を敷き、芯には蕪軸が使われている。
『菊菜生麩饅頭』は岡本氏。塩揉みした菊菜を当たり鉢であたって水を加えながら青汁をとっている。これを鍋で加熱し水分を抜いていき青寄せを作る。麩饅頭を作りこれに先ほどの青寄せを加え胡桃味噌を射込んだ後に表面を焼いている。
『五穀白和え』は松尾氏。和え衣は豆腐の代わりに豆乳を使用。豆乳に白味噌そして大村屋製の煉り胡麻、砂糖、淡口で調味。一晩水につけた五穀類を茹でもどし、淡口で調味した出汁をひと煮立ちさせ追い鰹、これに五穀を漬けている。仕上げには五穀と汲み上げ湯葉が重ね盛りにされ豆乳白和え衣を注いでいる。



【総評】

前菜料理としてのバランスの素晴らしさ、そして何より「女正月」のコンセプトに相応しく、女性が好む仕立て&彩り&味わいとなっている、との賛辞が寄せられた。また「餅花は飾りとして使用することはあるが、餅花各々にこれだけの仕事がなされているのに驚いた」という声が運営委員からあがった。
また鰆を使った料理では、「冷めても美味しい料理、これは折詰料理の一品としても使えそうだ」との意見が聞かれた。菊菜の生麩饅頭には「デザートの一品としても使えるのではないか」との評もあった。一年の実りを祈願した『五穀粥』には、「これも仕立て方を工夫すれば、和食のデザートとしてもいける。面白いヒントをもらった」とのコメントに加え「3者がそれぞれに担当したにもかかわらず、これほどの完成度を出すにはどうしたらよいか今後の参考のために教えて欲しい」との常にはない質問も寄せられていた。

  大阪料理会




◆12月のテーマ食材「寒鰻」

鰻豆腐

鰻豆腐

中村正明氏の献立

鰻は夏が旬のように云われているが、そうではない。鰻の本来の旬は最も脂がのった秋。しかしそう云えるのは天然鰻に限ったことのようだ。今回使用されたのは淀川河口域で昔ながらの伝統漁法で獲られた天然鰻。最近では漁獲量も増え、大阪料理会の会員店でも扱う店が増えてきている。淀川天然鰻が持つ脂の良さと肉質の旨さを、蒲焼きではなく椀物で味わうというのがこの「鰻豆腐」。鰻の骨やアラで丸仕立て風に丸出汁をとっている。豆乳葛豆腐を煉って、焼き目をつけ、鰻の身肉は塩焼きとしている。椀に焼いた葛豆腐、そして鰻塩焼、白焼葱に原木椎茸を盛り、先ほどの鰻丸出汁が張られている。



【総評】

天然鰻ならではの濃厚な味わいが素晴らしい、との声が多くあがった。豆乳葛豆腐への関心も高く、様々な質問が寄せられた。また丸出汁だけでは足らない味わいを椀種でもある身肉がうまく補っているのではないか、との評もあった。同様に椀種とされた原木椎茸の味わいの濃さが鰻と非常によくマッチしている、といった意見も寄せられていた。
天然鰻ではどうしても獲れる鰻のサイズにばらつきが出る。そうした蒲焼きには少し不向な鰻であっても天然の良さを最大限に活かす料理法として、今回の試作は大きなヒントとなったのではなかろうか。

  大阪料理会




◆12月のテーマ食材「粥」

餅米のにや飯小豆粥見立て 鯛あられ揚げ 焼き餅 吉野餡 削り柚子

餅米のにや飯 小豆粥見立て
鯛あられ揚げ 焼き餅 吉野餡

松尾英明氏の献立

日本人が小正月に食してきた小豆粥。悪鬼や疫病を防ぐなど単に風習といえばそうかもしれないが、そこには何かしら小豆を食することの意味があるのではなかろうか。
今回の試作はそうした小豆を粥仕立てとした料理屋の一品としての試作。茹でた小豆に炭酸を加え、空気にさらすことで発色を良くしている。百合根は蒸し、松の実は煎る。下塩した鯛の切り身に片栗粉をつけ裏側だけ卵白し、霰粉をつけている。太白油を熱し水切りした餅米を炒め出汁を加え、餅米に出汁を含ませていく。先ほどの鯛を揚げたもの、焼いた餅を盛りつけ吉野餡を掛けている。



【総評】

小豆しかも粥ということで、非常に食べ手に季節感を味あわせる料理、との評があった。また「にや飯」加減というのが面白く、料理はもちろん、この表現ともに大阪的なものとして参考になったという意見が寄せられていた。日本料理が見直されている一方で、行事食や季節感といったものが次々と失われている。こうした日本食の意味や意義というものを、単に料理の「型」として捉えるだけでなく、料理屋が率先して食べ手に伝えていくことの大切さが今後必要なのではないかという問いかけがこの試作にあったのではなかろうか。

  大阪料理会




特別テーマ 〜次代へ繋ぐ和食材十選〜

◆第2回に選択されたテーマ:『干し筍』『身欠き鰊』

干し筍は、本来は地上に頭を出した後番の筍などを活用したもの。一般家庭でも水煮した筍に強塩し、干したものを塩抜きして使っていた。しかしこの食材も現在ではほとんど作る人がいないようである。身欠き鰊は、現在では大半がソフト鰊となっている。国産の身欠き鰊は見つけることすら困難な状態のようである。


変わり鰊蕎麦、干し筍発酵豆乳白酢和え

干し筍を「豆乳ヨーグルト」で戻して使う。豆乳ヨーグルトの作り方は、豆乳量(10)に対してヨーグルト(1)の割で40℃保温の状態で約7時間培養する。

干し筍あん肝金平
干し筍発酵豆乳白酢掛け

<担当会員:岡本正樹氏>

*干し筍を豆乳ヨーグルトと合わせ2日間置き、水を加えて炊飯器で炊く。干し筍を水洗いし細切りにした後、砂糖と酒・味醂・淡口と一味で炒め仕上げあん肝を和える。
*白和えは、同様に戻した干し筍と焙煎黒豆、茹でた菊菜・銀杏そして米の磨ぎ汁で塩気を抜いた子持ち昆布を豆乳ヨーグルトと蜂蜜で和える。


大阪料理会


変わり身欠き鰊
鰊蕎麦を料理屋風の椀物仕立てに

変わり身欠き鰊

<担当会員:中村正明氏>

*鰊は米の磨ぎ汁で一週間程度漬けておき、都度磨ぎ汁を変えるなど様子を見る。カマと背ビレを落とし、鱗を除き番茶と米の磨ぎ汁でさらに柔らかく戻す。鍋に昆布を敷き、鰊をのせて調味した出汁にヘギ生姜・白葱を入れ2時間蒸し煮にする。茶蕎麦を湯がき、先ほどの白葱を芯にし同様に昆布で巻き茶蕎麦を束ね、器に鰊と合盛りにし共地餡を掛ける。
*身欠き鰊の戻し方には店毎にそれぞれ伝承されたやり方があり、本会では「さな井」の長内氏から昔ながらの国産身欠き鰊を使っての戻し方が紹介された。


大阪料理会


撮影/藤澤 了  文/笹井良隆