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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第74回〉
2017年 2月

日本料理に季節感と旬の食材は欠かせないが、ほぼ十日毎に変化する旬の味わいをどこに求めるべきかが難しいところ。今回の前菜ではそうした旬をあえて狭間に求め、「走り」「盛り」「名残り」の各旬味を表現する試みがなされた。また特別テーマでは前回と引き続き「棒鱈」が、そして今回初となる「香茸」がどのように料理されるかが見どころとなった。



坂本 靖彦さん 坂本 靖彦さん
北新地「さか本」
ぐるなび
小河原 陽一さん 小河原 陽一さん
「一陽」
ぐるなび
菰田 昌寛さん 菰田 昌寛さん
「梅廼家」
お店HP
ぐるなび



坂本靖彦氏 小河原陽一氏 菰田昌寛氏の合作による前菜料理

◆3月の前菜テーマ「旬味馳走」

前菜「旬味馳走」  

旬味馳走

・公魚揚煮(坂本氏)
・芽甘草胡麻和え(坂本氏)
・車海老 慈姑微塵粉射込(小河原氏)
・百合根黄味寿司(菰田氏)
・河内一寸道明寺焼(菰田氏)

【料理について】

暦の上では真冬ではないが、春には未だ遠い。3月の前菜は食材を定めることがなかなかに容易ではない。ならば冬の名残と春の走りで前菜とする、というのが今回の狙い。しかも3会員が各々に馳走。公魚は活けの公魚を奈良の布目ダム湖に求めた。料理は鮮度を最優先させ、煮きり酒と淡口「龍野乃刻(ヒガシマル製)」のみで焚いている。芽甘草もまた走りゆえに薄塩味のみとし、胡麻餡(大村屋製絹こし胡麻)で和えている。車海老は煎餅にした慈姑を砕き背開きした中に射込んだ。道明寺からは春らしい郷土料理の黄味寿司。百合根を裏漉し調味して煉り、梅酒の梅を活用し、これを砂糖漬けにし百合根で包んでいる。
河内一寸は、その皮と昆布で出汁をとり調味。この出汁を使って道明寺粉を戻している。
半分にした大きな一寸豆を道明寺粉で合わせた後、擂りつぶした道明寺粉をつけて焼いている。味わいだけでなく各料理の彩り中にも、食べ手は近い春をきっと感じることだろう。


  大阪料理会

【総評】

「いずれの料理も非常に調和がとれている」「食材を生かす料理法が素晴らしかった」などの好評が多く寄せられた。公魚料理は極めてシンプルな料理法だったが、これは活きた淡水魚のみを使うというこだわりがあればこその一品、との意見が運営委員から聞かれた。芽甘草で使われた胡麻和えについて坂本氏は、「この時期、土から顔をのぞかせる芽甘草の姿を料理でも表現したかった」と話し、芽甘草を立てて盛りつける意図を説明した。参加会員からは「胡麻豆腐をゆるくして和え衣に使うという発想が面白く参考になった」との感想が質疑応答の中で述べられていた。車海老の料理では「慈姑と合わせたことで食感だけでなく、ほのかな苦味感も良かった」とするコメントがなされた。道明寺の春を表現した二品については、「とにかく彩りが素晴らしい、前菜料理として良い選択だった」との意見と合わせて「道明寺粉を潰して焼く」という調理法への関心の高さが窺われた。

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◆2月のテーマ食材「高山牛蒡」

鰻豆腐  

高山牛蒡土佐煮
高山牛蒡と高山真菜 白和え

■坂本靖彦氏の献立

素晴らしい煮物料理とその職人技が披露された。直径にして10cm弱はある太い高山牛蒡。それを米糠で約6時間ゆがいていく。これを水にとり芯を抜き、湯晒しした後、出汁で2日間かけて焚いている。牛蒡そのものは崩れていないが、口の中でホロりと崩れる。しかも牛蒡の味わい旨味はしっかりと残されている。牛蒡は太いものだけでなく細い髭根的なものもある、それを使い高山真菜と合わせ白和えにしている。
湯がき調味した牛蒡。真菜は湯がいた後に水にとり、熱めの出汁にくぐらせ冷まして漬け込んでいる。これを合わせ白和えにしている。



【総評】

「圧力鍋では絶対に出ない味」という賛辞が多くあった。また運営委員の中からは「まさに職人の技がなせる食感であり味わい。牛蒡は食感がなくてはというのは、それは家庭における牛蒡の味わい。しかし、プロの牛蒡料理が家庭と同じであってはいけない。職人技とはそうしたもの」という評が述べられた。また味わいについては「味の入れ方が絶妙。濃い味わいではないが、確かに味は入っている」といった感想が多くあり、煮方のコツを質問する会員が多い中、坂本氏は「店では砂糖量をまず決め、そして覚えさせる。他はその後に自ずと続いていくと思う」など煮方に対する持論を語った。

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◆2月のテーマ食材「白菜」

餅米のにや飯小豆粥見立て 鯛あられ揚げ 焼き餅 吉野餡 削り柚子

白菜と蛤の乳酸旨出汁

■小河原陽一氏の献立

白菜を漬けると乳酸発酵が始まる。この白菜が生み出す、ほどよい酸味を持つ乳酸をうまく料理に生かすことはできないか、という着想から生まれたのがこの一品。白菜をきざんで塩と水で約5日間漬け込む。これによって乳酸出汁を作っていく。蛤は出汁をつかってふかしておく。白菜の青い部分をこの蛤出汁で焚いておく。こうしてできた白菜乳酸出汁と蛤出汁を合わせ、乳酸旨出汁としている。漬け込んだ白菜は餅粉と合わせ団子を作り出汁で焚いておき、蛤の貝身は先ほどの白菜で巻いている。これらに乳酸旨出汁を温めてはり粉山椒をかけている。



【総評】

「酢を使わずに酢もの料理、ユニークな発想に脱帽」「一口食べて、これは旨いと思った。まさに日本のサンラータン」といった好評が続いた。また乳酸発酵についての質疑応答が行われた。発酵なので冷蔵庫ではほとんど発酵しなかったことや、温度調整しながら好みの酸味を加減していくことの大切さなどが、小河原氏から述べられた。運営委員の中からは「今回は先取りで蛤が使われたが、今が寒の入でもっとも貝が痩せている時、これから旬を迎える春時期だと浅利でも充分にいけるのではないか」とのコメントが寄せられていた。

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特別テーマ 〜次代へ繋ぐ和食材十選〜

◆第3回に選択されたテーマ:『棒鱈』と『香茸』


棒鱈押し寿司

【総評】

とても春らしい棒鱈料理、との賛辞が寄せられていた。また、前回に続いて棒鱈の戻し方への質疑応答が行われた。今回は約十日使って棒鱈を戻した、その手法などが披露された。「棒鱈を寿司に使う」という発想はとても参考になった、とする意見もあり、棒鱈の新たな活用法が今後も期待される試作料理であった。

棒鱈押し寿司

■菰田昌寛氏の献立

今回の棒鱈料理も、くずが出やすい棒鱈のその活用を目的とした試作。棒鱈を大阪らしく押し寿司に生かす料理。とぎ汁でもどした棒鱈を下煮してから焚き、ほの温かいままで身をせせり冷ます。錦紙玉子をきざんで、菜の花の軸の昆布〆を小さく切ったものと和えておく。棒鱈の身にシャリを合わせ、押し型に棒鱈を敷いて混ぜていないシャリを敷き、先ほどの錦紙玉子、菜の花を敷いて、再度シャリを敷いて押す。これを切り出し叩き木の芽をふっている。


大阪料理会


香茸温寿司

【総評】

香茸は、干したものか、塩蔵かが使用されることが多い。これを寿司に活用するという着想が良かった、というコメントが寄せられていた。香茸はいわば日本版トリュフ。その香りや風味をどこまで生かし食べ手に伝えていくかが問われるところ。また香茸は昔は、祝い席でよく用いられたことから、今後もそうしたハレの席での日本食材として活用していく方法もあるのではないか、とする意見も寄せられていた。

香茸温寿司

■小河原陽一の献立

今ではすっかり使われなくなった香茸。小河原氏が使用した今回の香茸は、長野県産と青森県産の二種。産地によって香りも違っている。香茸は一晩かけて水につけて戻している。戻した水できざんだ香茸を入れてシャリ米を焚いている。塩漬けの香茸から塩を抜いて刻み、寿司飯に混ぜ込み、さらに蕗を入れて混ぜている。これを錦紙玉子で巻き、最後に温めてから供された。



撮影/藤澤 了  文/笹井良隆