amakaratecho.jp   www全体
大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第75回〉
2017年 3月

里の田畑に菜の花が咲く頃は景色こそ春めくが、里山の幸は少し寂しい。けれども日本には塩干というこの時期ならではの楽しみがある。今回の前菜では、いつもの前菜料理としては例外的な扱いになるかもしれないが、様々な塩干を使っての五種盛りが披露された。今回はまた通例会のスタイルとは異なり4名の会員による発表が行われ、各自なりに塩干を自らのテーマに盛り込んでの試作発表が行われた。



辻 宏弥さん
辻 宏弥さん
法善寺「浅草」
お店HP ぐるなび
上野 修さん
上野 修さん
浪速割烹「㐂川」
ぐるなび
大屋 友和さん
大屋 友和さん
日本料理「翠」
ぐるなび
畑島 亮さん
畑島 亮さん
キュイジーヌ・ド・オオサカ・リョウ
お店HP ぐるなび



◆4月の前菜テーマ「春田に遊ぶ一日 美味塩干」

前菜「春田に遊ぶ一日 美味塩干」    ■辻 宏弥氏による前菜料理

春田に遊ぶ一日 美味塩干

・蕗寄せ 菜の花畑仕立て
・アスパラ若布磯焼
・干し筍ハム
・糸撚鯛蒸し寿司
・寿留女烏賊 蕗の薹豆腐


【料理について】

塩干物だけでも、これほどに食のバリエーションが愉しめるのか、と驚かされる前菜といよう。先ずは蕗の薹と塩干魚の料理。塩揉みした蕗をミキサーにかけ出汁で調味したものをゼラチンで固めている。キスはおろした後、天日干ししたものを鰹出汁に浸けることで、菜花の黄色を引き出しぼんぼりとしている。アスパラを使った料理は、塩茹でしたアスパラと灰干し若布を取り合わせ淡口と卵黄を塗り焼いている。干し筍のハムは、大根のおろし汁で戻した干し筍を圧力釜で出汁と共に炊いているところが面白い。イトヨリを使った寿司では、室内干しで約半日陰干ししたものを棒寿司としている。スルメイカ蕗の薹豆腐はイカは陰干しとし、素揚げした蕗の薹は刻んで大村屋製胡麻豆腐にこれを入れ、流し函で固め切り分けた豆腐に薄力粉をうち、油で焼き目をつけている。


   大阪料理会

【総評】

「この時期ならではの前菜」「日本酒の冷酒が欲しくなる前菜」といった賛辞が多く寄せられていた。また彩りだけでなく香りにも重点が置かれていることが高く評価された。各々の料理に対する意見としては「色合いを考えてのキスであれば、冷凍甘鯛の方が狙った色にさらに近づけたのではないか」といった声や、「全体的に特に野菜についての歯触り感がもう少しあれば良かった」といった評なども聞かれた。また運営委員の中からは「蕗をゼラチンで固めるといった発想には驚かされた」という感想なども寄せられていた。

  大阪料理会




◆3月のテーマ食材「青干し薇」

干し大根蕨・黒がんも   ■上野 修氏の献立

干し大根薇
黒がんも


【料理について】

薇(ぜんまい)には青干しと赤干しがあることは知られている。いわゆる茹でて少しずつ乾かしながら手もみを繰り返した後、薫煙などで乾燥させたものが青干し薇で、そのまま天日で乾燥させたものが赤干しとなる。味わいに多少の差異はあるかもしれないが、干し薇そのものが少なくなっている。今回は青干しを使用した料理。大根は厚めに桂に剥いて一週間ほどかけて干し大根としている。これを昆布と共に戻し、その茹で汁に鰹を加え出汁をとっている。薇は洗った後に一晩水で戻している。これを調味しザラメにて下煮して煮汁を切る。豆腐に山芋と卵白を加え「飛龍頭(ひろうす)」の生地を作り、これを広げラップに。処理した薇に片栗粉をまぶし、さらに上から生地を塗り棒状にとって揚げている。
これを干し大根で巻いて炊き干瓢紐で縛る。「黒がんも」の料理は、大根薇の余った端の部分を活用した始末の一品。高野豆腐をそのまま摺りおろし、卵・山芋と合わせ大村屋製の黒胡麻ペーストを加えている。これを使い薇や木耳などの繋ぎとし和蘭陀煮にしている。


   大阪料理会

【総評】

青干し薇二品への感想としては「干し薇はもちろんだが、干し野菜が持つ滋味で奥深い良さ」への賛辞であった。今回の料理については、先ずは干し薇という食材そのものへの質問が多く寄せられた。中でも産地による違いについての討議がなされた。今回は福井にほど近い滋賀県産の青干し薇を使った経緯などが紹介された。料理については「干し薇という食材の面白さを知った」という賛辞が寄せられていた。また料理の中において使われた「干し大根」についての様々な作り方の質問も寄せられた。
「黒がんも」への質問の多くは高野豆腐に寄せられた。生の高野豆腐をそのまま摺り卸す手法は汎用性の高いもので「さっそく他の料理においても試してみたい」という声があがっていた。

  大阪料理会




◆3月のテーマ食材「干し数の子」

干し数の子 飯鮨   ■大屋 友和の献立

干し数の子 飯鮨

数の子といえば塩数の子のことのようになってしまったが、干し数の子の味わいも忘れてはならないもの。今では塩数の子より数段高価になった干し数の子をあえて使っての一品。
乾燥麹1kgに同量の湯(60℃)で一晩、甘酒を造る要領。これに硬めに炊いた米を合わせ、これに塩で水あげした人参と昆布そして戻した守口大根を入れ発酵させている。干し数の子は二日間とぎ汁を代えながらで戻していく。発酵した麹に、数の子と花山葵を入れてさらに一晩置いている。


大阪料理会


納豆汁   ■大屋 友和の献立

納豆汁

大豆にも様々な味わいがある。そんな大豆の味わいを納豆にすることでさらに栄養価を高め、しかも椀物で味わえるのがこの料理。赤白黒と色の異なる大豆を一晩掛けて水で戻し、これを柔らかくなるまで炊き、さらにもどした大豆をヨーグルトメーカー(納豆菌添加)に入れて納豆にしている。味噌汁の上澄みをとって納豆を煮て、温めておいた香茸の胡麻豆腐などと共に椀に盛ってさきほどの上澄み出汁をはっている。


【総評】

「塩数の子とは違った食感と味わいに驚いた」「麹とのバランスが素晴らしい」「花山葵との相性も抜群」といった評が寄せられた。料理への質問としては、乾燥麹の扱い方と、干し数の子という食材についてに集中していた。 「納豆汁」に対しては、自家製の納豆の作り方への質疑応答が続いた。また味噌汁上澄みへの質問が多くあった。大屋市からは、今回は様々な味噌を試した結果、上澄みが最も美しい田舎味噌を使った経緯などが説明された。ただ運営委員からは「色目を大切にしたい気持ちが分るが、同じ上澄みを使うのであれば、味わいをもう少し重視し、八丁味噌の上澄みを選択した方が良かったのではないか」とのアドバイスがなされていた。


  大阪料理会



特別テーマ 〜次代へ繋ぐ和食材十選〜

◆第4回に選択されたテーマ:『身欠き鰊』


棒鱈押し寿司
始末料理

鰊の桜道明寺蒸し

■畑島 亮氏の献立

現在主流となっているソフト鰊。本来は国産の身欠き鰊からはじまったものだけに、手間はかかっても今一度身欠き鰊を見直したい。そのためにも、身欠き鰊とソフト鰊が実際にどう違うのかを食べ比べする。それが今回の試作の狙いである。身欠き鰊は米のとぎ汁を毎日代えながら冷蔵庫で一週間かけて戻していく。同時に腹骨や背ビレなどはきれいに掃除しておく。これを戻した水を使いながら米少量を入れて弱火で3時間ゆでこぼし火をとめて粗熱がとれれば今度が氷水で身を締める。この行程を繰り返す。 ソフト鰊の場合は、85℃の湯をかけ掃除し、1時間茹で戻している。いずれも戻した後に調味出汁(酒・砂糖・酢・出汁)で炊き上げられている。道明寺粉は一晩つけた干し貝柱を蒸し器にかけた出汁でなじませている。鰊は食べ比べできるよう桜葉をのせた道明寺の下に2種並べられた。


大阪料理会

【総評】

「食べ比べる機会がなかったが、今回は非常によく分った」「食感と脂の具合に大きな違いを感じることができた」など、身欠き鰊の新たな可能性への賛辞が多くあった。今回はあえて下味を控えた調理法がとられたが、運営委員からは「身欠きであれソフトであれ、干した鰊くささが消しきれてなかったのが少し残念。酒を効かせるなどの工夫があればさらに食べ比べとしては良かったのではないか」といった意見が寄せられていた。


  大阪料理会


撮影/藤澤 了  文/笹井良隆