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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第76回〉
2017年 4月

魚島(うおじま)は大阪歳事のひとつ。今ではほとんど使われなくなったが、食習慣として残しておきたいものである。桜の咲く4月上旬から5月下旬にかけて、外洋にいた桜鯛が産卵のために瀬戸内海へと移動する。鯛の最も美味な時期であり、また庶民が気軽に購入できる時季でもある。大阪の鯛文化をルーツともなった魚島を前菜で、また当会では初となる高足蟹がテーマ食材として取り上げられた。



島村 雅晴さん 島村 雅晴さん
天満「雲鶴」
お店HP
ぐるなび
久保田 博さん 久保田 博さん
西天満「割烹くぼた」
お店HP
ぐるなび
城崎 栄一さん 城崎 栄一さん
吹田「じょう崎」
ぐるなび



◆5月の前菜テーマ「魚島時季」  料理人:島村 雅晴氏
前菜「魚島時季(うおじまどき)」  

魚島時季(うおじまどき)

・蓬餅 鯛小倉煮
・桜鯛酒盗焼き
・桜鯛のひと塩細造り
・ホワイトアスパラ白子掛け
・花山葵鯛の子射込み

【料理について】

鯛は誰もが好む魚ではあるが、極めようとすれば奥が深い。今回の桜鯛についても前菜ではあるが、その背景には熟成を考慮された試作がなされている。使用された鯛は、活けで〆たものをほぼ3日熟成させている。また、捨てるところがないとされる鯛を前菜でどう表現するかも試食での大きなポイントとなっている。蓬餅鯛小倉煮の料理では、鯛の頭など少し繊維質感が強い粗の部分を活用した料理となっている。鯛の身を戻した大豆とともに醤油・味醂・砂糖で炊き、いわば鯛餡を作る。餅粉等で生地を作り蒸し上げ、さらに蓬を加えて煉り、これに鯛餡を包み込んでいる。酒盗焼きは、鯛の内臓で酒盗を作り、酒・出汁で浸け地を作り、鯛上身を漬け込み焼いている。さて、鯛細造りだが、熟成させた鯛上身に薄塩をあて、細切りに。和え醤油は、淡口醤油をベースに黒甘酒を加え、桜葉の塩漬けの香りを移し込んでいる。鯛の白子は、和え衣に。下茹でした白子を出汁・淡口・味醂・塩・生姜で炊き、これを裏ごし和え衣としている。また、鯛の子は自家製の唐墨にした後、低温で湯がき処理した花山葵の空軸に詰め射込んでいる。


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【総評】

魚島時季とは、非常にタイムリーなテーマで面白く、かつ興味深いものであったとの評価が多く寄せられた。質疑応答の多くはやはり熟成に関したものが主となった。今回の熟成では、15℃の海水で3時間、そして10℃で20時間、さらにチルド状態での保存方法などが紹介され、参加会員は興味深く聞き入っていた。また、鯛の子の唐墨の作り方、花山葵の処理法についての質問にも時間が費やされた。料理への意見としては、「蓬餅の蓬を生のものを使用すれば、さらによかった」「餅そのものが少し固かったのが残念」といった細かな感想はあったが、全体としての印象は、一尾の鯛であっても技法の違いで味わいにこれだけのバリエーションが出せることへの驚きと賛辞が全てであったといえる。

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◆4月のテーマ食材「高足蟹」  料理人:久保田 博氏
高足蟹の加賀太胡瓜甘酢おろし  

高足蟹の加賀太胡瓜甘酢おろし

本会が開催されるまさに10日ほど前、大阪府の岬町で初めて高足蟹が捕獲されたとのニュースがあった。春の産卵期には浅瀬に移動するものの大阪府で獲れるようになった、というのは驚きであり、また今後は大阪の季節の魚介となる可能性も秘めているといえよう。
さて、今回の高足蟹は徳島産のものが使用された。非常に大きく魅力的な蟹だが、幾分水っぽいことからあまり料理屋で使われることがなかった高足蟹。その可能性に迫る試作発表といえよう。加賀太胡瓜との甘酢おろしは、蒸した蟹を身と外子に分けている。加賀太胡瓜は身をすり卸した後に火にかけ、種はミキサーにかけてから火にかけている。これを合わせ、甘酢に外子の塩漬けを調味したものを合わせ掛けられている。


高足蟹と旬菜のミルク豆冨和合え  

高足蟹と旬菜のミルク豆冨和合え

同じく高足蟹を使ったミルク豆冨和合えは、蒸した蟹身に、牛乳と生クリーム、塩などで調味したものをゼラチン寄せとして、これを崩しながら胡麻ペーストと蟹身の塩分で調味することで和え衣としている。



【総評】

高足蟹そのものを食したことがなかったので新鮮であった、と発言する会員が思いの外、多くいたことに驚かされた。そんなこともあり、試作説明の前に高足蟹そのものについての説明が久保田氏よりなされた。「クセのある蟹であるが、大きいので客前でのパフォーマンスとしても面白い。また水っぽいとされるが蒸し上げ方にまだまだ工夫ができる、雌よりも雄蟹が良い」などの解説が行われた。質疑応答では、蟹の蒸す温度帯、また異なった部位の蒸し方の違いなどについての質問が多く寄せられていた。高足蟹に加賀太胡瓜を合わせた理由についての質問に久保田氏は「いずれもクセの強いもの同士、これを合わせたらどうなるかやってみたかった」と試作の発想について語った。ミルク豆冨の和え衣については、とても汎用性の高いもの、是非一度使ってみたい、とのコメントが寄せられていた。

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◆4月のテーマ食材「木積(こづみ)筍」  料理人:城崎 栄一氏
木積筍すり流し 大阪若布葛豆腐

木積筍すり流し 大阪若布葛豆腐

白子の筍といえば京筍が有名だが、そのルーツともなっているのが大阪筍であることを知る人は少ない。特に貝塚の木積地区は火山灰が滞積した場所であり、昔から白子筍が有名であった。今回はそんな大阪筍を使ったユニークな料理が紹介された。筍の名物料理として知られるのが「若竹煮」。それを料理屋風にアレンジしたのが今回の料理だといえよう。
湯がいて調味した大阪産若布。これをミキサーでペーストにし葛豆腐を作り、そこにペースト若布等を加え若布葛豆腐とし茶巾にとる。筍の固い部分を出汁少々とミキサーにかけペーストに。穂先は木の芽焼きに。吸い地にペースト状の筍を入れて葛を引きすり流しとしている。



【総評】

「面白い、新しい形の若竹料理となるのでは」との評が多く寄せられた。また、この料理法であれば、少し冷やした料理としても供することができるのでは、といったコメントもあった。試作説明で「思っていたより、筍の香りが残せなくて残念」という城崎氏の説明に対して、質疑に立った各会員からは「筍の香りはしっかりと残っている、若布の真丈も良かった」との声が返された。また運営委員からは「筍の旨みや甘味というものは、すぐに水に溶け出してしまう。それがために水に浸さないことがポイント」とのアドバイスとともに、「料理としての完成度を高めるためにも、もう少し葛豆腐を少なくするなど、全体のバランス感に研究する余地が残されているのではないか」との感想が加えられた。

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特別テーマ 〜次代へ繋ぐ和食材十選〜

◆第5回に選択されたテーマ:『干し筍』  料理人:城崎 栄一氏
干し筍と烏賊の皐月大豆ソース

【総評】

「狙い通りの柔らかさになっているのではないか」「烏賊の黄味焼きとの取り合わせが絶妙」とのコメントが多く寄せられた。烏賊の処理法についての質疑応答に城崎氏は「烏賊は70℃で20分の熱入れ」の説明を行うとともに、「干し筍は、いわゆるシーズンの筍にはない、独特な味わいがある。生筍とは別な食材として扱ってもよいのではないか」との試作後の感想を語った。

干し筍と烏賊の皐月大豆ソース

干し筍は以前に岡本氏らによる紹介がなされたが、さらに引き続いての試作発表となった。
干し筍の戻し方は様々だが、前提として干し筍というものは、すでに湯がいてアク抜きされた状態で干されていることから、これを戻す時には、いかに柔らかく、ふっくらと戻すことができるか、というところがポイントとなると考えた試作発表となった。干し筍は大根汁を水で割った地に一晩漬けて戻されている。大豆は5時間程度水に浸けているが、大豆を合わせる理由も、大豆の成分が筍をふっくらさせるのではないかとの試みからである。干し筍は地を切った後、さらに一時間半ほど蒸し煮にされている。そして出汁に淡口、赤酒等を入れ、先ほどの干し筍と大豆を入れて2時間蒸し煮にしている。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆