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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第77回〉
2017年 5月

月日のたつのは早いもので、本年も前半が終了する。今年半期を無事に過ごせたことへの感謝と、これまでの穢れを除く意味から、6月には神社で夏越し祓えが行われる。前菜ではそれをテーマにした料理が二品。次代へ繋ぐ和食材は、今回が最終回。干し筍と身欠き鰊など、各会員が再度前回とは異なった調理法で挑んだ。



小川健さん 小川健さん
あべの辻調理師専門学校
お店HP
東迎高清さん 東迎高清さん
浅井東迎
お店HP
ぐるなび
山崎浩史さん 山崎浩史さん
旬菜 山崎
お店HP
ぐるなび



◆6月の前菜テーマ「夏越しの祓 茅の輪くぐり」 料理人:小川健氏
前菜「夏越しの祓 茅の輪くぐり」

夏越しの祓 茅の輪くぐり

・穴子の香味漬け
・水無月 海胆豆腐

【料理について】

夏の魚介を代表する穴子。その穴子の香味漬け、花穂紫蘇の薫りも際だった一品。骨きりした穴子を、縦串を打って皮目のみを炙っている。これをすぐに、日本酒に砂糖そしてにんにくや生姜、さらには梅干し煎り米と爪昆布を合わせ煎り酒風に加減したものに、淡口醤油と紹興酒を加えて作った地に漬けている。穴子は供する直前にバーナーで炙っている。これを盛りつけ、先ほどの漬け地を掛けた上から花穂紫蘇が散らされている。
もう一品の水無月をイメージした料理は、ミキサーで白むき胡麻をさらに細かくし、水・葛粉・煉り海胆を合わせている。これを火にかけ沸騰してから20分程度煉り、仕上げ直前に生海胆を加えている。すぐに流し函で冷やし固め、水無月のごとく三角に切っている。
海苔醤油は、出汁・味醂・濃口を合わせ、火取りした海苔を漬け込み2時間程度漬けておき、最後に当たり鉢でさらに細かく潰している。


大阪料理会

【総評】

穴子の香味漬けにおいては、穴子の漬け地の中に紹興酒を効かせているところに賛辞が多く寄せられていた。また、その紹興酒の分量も、多すぎてはせっかくの風味を損なうことから、まさに絶妙なる加減がなされていたことへの評価もなされていた。ただ、煎り酒風なので、梅干しは焼いた方がさらに良かったのではないか、といった意見も聞かれた。
水無月をイメージした海胆豆腐では、包丁で切れる限界ともいえる柔らかさが素晴らしいとのコメントが多くあった。味わい的には、程よく実にまったりした味わいに仕上がっているが、もう少し淡味であっても前菜としては良かったのではないか、との評が運営委員の中から寄せられていた。

大阪料理会




◆5月のテーマ食材「モーイ(海藻)豆腐」  料理人:東迎高清氏
山くらげモーイ豆腐・烏賊墨モーイ豆腐

山くらげモーイ豆腐
烏賊墨モーイ豆腐

沖縄では島々に食せる海藻(モーイ)があり、5月下旬時期までは生での販売も行われており、他は干した海藻なども料理に使われているという。今回はその海藻を使った豆腐と、もうひとつは烏賊墨を使った2種の豆腐が発表された。
山くらげ豆腐は、水で戻した山くらげを、薄塩をあてた後に昆布〆にしている。同じく鯛を昆布〆に。沖縄のモーイ(海藻)を水でさらし掃除し、モーイ500g、鰹出汁900ccで煎るように溶け出すまで火にかけ調味した後、先ほどの山くらげ・鯛を入れて流し函で固めている。
烏賊墨を使った豆腐では、先ず酒・水・昆布・大根や人参で出汁をとる。この出汁に、さらに生出汁と烏賊墨、豚バラ、人参などを入れ墨汁を作っている。モーイが墨汁で溶け出すまで煎り、出汁をとった具材を入れて流し函にて固めている。


【総評】

おそらく参加者全員がこれまで食したことのない、沖縄のモーイとはどのような海藻なのかということへの質疑応答が行われた。海藻が持つ、独特な食感は様々な料理への活用も可能ではないか、とするコメントが多くあった。また通常は乾燥した状態で販売されているモーイだが、旬の時期つまり生で調理することができる時期の食材として大阪料理へ取り入れるのも面白いのではないか、とする東迎会員の意図が参加会員に伝わったといえよう。烏賊墨を使った豆腐では、今回は紋甲烏賊と槍烏賊が使われたが、それぞれの墨の違いや、さらには料理屋でよく使われる烏賊だが、捨てるしかなかった烏賊墨をどう活用していけるか、といったことへのヒントになった、との賛辞が多く寄せられていた。

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◆5月のテーマ食材「新蓮根」  料理人:山崎浩史氏
新蓮根すり流し

新蓮根すり流し

新蓮根はいわゆる秋冬時期のものと比較すると、食感や味わいが異なったものであることがよく分かる。今回はそんな新蓮根を産地別に取り上げての試作が発表された。すり卸し用の新蓮根は徳島産のいわゆる備中系の蓮根が使用された。すり流し用の出汁は、しび節出汁にさらに胸肉ミンチを入れて出汁がとられている。これにおろした蓮根を入れ調味。また椀種には加賀系の蓮根を用いた蓮根餅で仕上げられている。ひとつの料理の中で、食味や食感が異なった2種類の蓮根を用いているところも面白い。


【総評】

通常の「すり流し」とは食感の違った今回の料理、まずはそのすり卸し方についての質問が相次いだ。今回のすり卸しは、すり鉢ではなくパコジェットを使用していることを山崎会員が質疑応答の中で述べた。パコジェットとはいわば冷凍粉砕調理器。
ジェラートなどを簡単に作ることができる器機として発売されたが、これを使えば一度冷凍した食材を解凍することなく裏濾ししたよりもなめらかに仕上げることができることから、最近では料理のジャンルを超えて使用されているようだ。すり流しという料理の幅を広げるヒントになった、とする評が聞かれた。運営委員からは、非常に面白い仕上がりになっている。それだけに吸い物椀として吸い口をもっと工夫すれば、さらによくなるのではないか、とする意見も寄せられていた。

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特別テーマ 〜次代へ繋ぐ和食材十選〜


◆第6回に選択されたテーマ1:『干し筍』  料理人:東迎高清氏
干し筍の米煮

【総評】

前回とは違った戻し方も面白く、また食感は素晴らしい。鯛だしという強めの味をあえて加えているところも参考になった。干し筍は、生筍とは違った食材として活用できるのではないかと確信した

干し筍の米煮

干し筍は火にかけて戻す(1時間程度もどし鍋止め)。冷めれば筍を手でもみほぐし、新しい水から火にかけさらにもどし、最後は水にさらして岡あげし胡麻油で炒める。鯛をおろしアラは塩をして置き、後に洗って焼いている。昆布出汁に生出汁を合わせアラとご飯を入れて火にかける。アラ・ご飯をあげて裏濾しして汁に戻し、白醤油などで調味。アラは身をほぐし茶巾にとる。この旨出汁にもどした干し筍と茶巾を入れてさらに20分程度煮込んでいる。


大阪料理会

◆第6回に選択されたテーマ2:『身欠き鰊』  料理人:山崎浩史氏
丸茄子と身欠き鰊 東寺蒸し

【総評】

茄子と鰊の相性の良さを改めて確認できた。身欠きとソフトの2種類が使われているが、ソフト鰊にもそれなりの良さは感じられた。料理屋としてどちらを使っていくかは、それぞれの店の判断となってくるのではないだろうか

丸茄子と身欠き鰊 東寺蒸し

身欠き鰊といわゆるソフト鰊の両方を使用しての料理。身欠き鰊は米のとぎ汁に藁を入れたものに浸けて戻す。ウロコ等を掃除した後、漬け汁ごと軽く沸かして水にさらし、蒸し器で蒸した後に水分を除き、合わせ地に浸けて蒸し煮している。鰊の焚き地を合わせたもので餡を作り掛けている。


大阪料理会




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆