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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第79回〉
2017年 7月

天神祭から一夜明けての開催となった大阪料理会。今回は畑会長が欠席のため上野相談役が挨拶に立った。前菜は夏バテに備えての大阪らしい「鼈尽し」。テーマは和泉蛸と栄螺がそれぞれ披露された。特別テーマは今回が初となる「海鞘(ホヤ)」の試作が2会員によって紹介された。



野村俊輔さん 野村俊輔さん
料亭「花錦戸」
ぐるなび
神田芳松さん 神田芳松さん
ときわ「松」
ぐるなび
上野 修さん 上野 修さん
浪速割烹「喜川」
ぐるなび



◆8月の前菜テーマ「暑気払い 〜鼈尽し〜」 野村俊輔氏による前菜料理
前菜「暑気払い 〜鼈尽し〜」

暑気払い 〜鼈尽し〜

・鼈肝時雨煮 松葉刺し
・丸 出汁巻き
・鼈 ぬた和え
・大根と人参の鼈炊き
・鼈コロッケ

【料理について】

かつて大阪で川魚料理屋が腕を競っていた頃、スッポンは大阪の名物料理でもあった。
今回はそんな大阪らしい鼈料理が前菜として披露された。まずは鼈肝時雨煮だが、肝を少し大きめに切り分け、湯がいて後に20分程度さらしている。水切り後に酒・味醂・生姜で肝を炊き、じっくりと脂をすくい取り、たまり醤油と水飴で加減している。出汁巻きは、スッポンスープと玉子と淡口を合わせている。ぬた和えは、スープをとった後のガラをほぐして、エンペラを賽状に切り辛子酢味噌で和えている。大根と人参の鼈炊きは、味だけでなく鼈の型も面白い一品。コロッケはスッポンのほぐし身を使ったユニークな料理。スッポンが苦手な女性客にも喜ばれる料理だと云えよう。今回の試作では料理のベースともなった「スッポンスープ」が別途料理に添えられた。


大阪料理会

【総評】

「スッポンだけで前菜という発想が面白く、また仕上がりも素晴らしい」という声が多く寄せられた。質疑応答では料理とは別に用意された「スッポンスープ」に関して質問が集中した。酒と水との量的なバランスから、スッポンの天然ものと養殖ものとの差異についての見解など交換が行われた。天然は確かに良いものにあたれば素晴らしいが、個体差がありすぎる。反対に養殖はそうした意味で安定している。天然ものは10月から冬眠に入るので、専門店などでは四季を通じて扱うのは難しい。最後に、スッポンが持つ味わいについての質問に対して、野村氏からは「スッポンには濃厚な男性的なものと、あっさりとした女性的な味のものがある。優劣はつけがたいが、そうした味わいの違いを季節でどう演出していくかが鼈料理の妙味ともいえる」との答えがなされていた。

大阪料理会




◆7月のテーマ食材「和泉蛸」  神田芳松氏の献立
芋・蛸・南京 煎米粥

芋・蛸・南京 煎米粥

大阪では半夏生の蛸に代表されるように、夏という季節と蛸は切り離せないものがある。
今回は真蛸の中でも、大阪湾で採れる和泉蛸を使っての2品が披露された。

先ずは和泉蛸を使っての「芋・蛸・南京」と煎米粥。堺産の完熟梅を8%の塩で梅漬けに。煎り米で粥を炊いておく。蛸を下処理し霜降りし庖丁する。先ほどの梅漬けを梅酢と砂糖と淡口で味付けし蛸をサッと炊いている。勝間南瓜は蒸して炊く。芋茎は湯がいて後に5%の酢で炊いている。


蛸の塩辛

蛸の塩辛

「和泉蛸の塩辛」は、酒肴の珍味と呼ぶに相応しい一品。蛸の頭や皮をむき、細かく切って酒に。内臓は墨を取り酒で洗い、これらを合わせて塩をして一月寝かしている。オクラは種をとって湯がいている。蛸の内臓で塩辛とは、驚きの一品である。


【総評】

「いずれの料理も驚きのであった」「非常に参考になった」などの賞賛の声が聞かれた。和泉蛸についてヌメリをとるプロセスに関して、様々なやり方が紹介されると共に意見交換もなされた。煎米を使った粥に対しては詳細な作り方に対する質問に加えて、その意味を尋ねる会員も多くいた。それに関して神田氏は「先ず何より米が粘らない、また臭みもとれる」と答えたのに対し、「粥に対する考え方が変わった」という声が寄せられていた。
次に和泉蛸を使った「塩辛」では、塩加減についての質問、内臓の処理に関する質問などが多くあった。烏賊ではなく蛸でもできるこの塩辛には驚いた、という声に加えて、通常は廃棄してしまう蛸の内臓でこんなことができるとは驚きだった、という評も寄せられていた。

大阪料理会




◆7月のテーマ食材「栄螺(さざえ)」  上野 修氏の献立
栄螺の共肝絡み オクラ梅酢仕立て

栄螺の共肝絡み オクラ梅酢仕立て

焼く、刺身にするなどの他に、栄螺で何がどこまで出来るのか。そうしたことへの挑戦ともとれる試作発表。栄螺を茹でて身と肝に分け、身は圧力鍋で戻し、肝は昆布出汁で炊いている。次に栄螺の肝で真丈を作り、これを身肉に絡めて、さらにこれを蒸してから、炊いて下味をつけている。昆布出汁に叩き梅と、湯がいて叩いたオクラを入れて調味。このオクラの酸味ソースを共肝絡みの身肉と共に持った糸瓜に掛けている。


【総評】

サザエを炊くことでこれまでにない柔らかい食感で、しかもサザエのすべての旨みをひとつにして味わえる料理、との評が寄せられていた。梅の味だけのシンプルなソースも素晴らしい。栄螺の肝も昆布出汁でここまで旨味を引き出すことができることがよく分かった、という意見も聞かれた。また糸瓜のシャキッとした食感が何とも夏らしく栄螺によく合っているのではないか、という声もあった。

大阪料理会




特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第2回:宮城県「海鞘(ホヤ)」

その形状から、海のパイナップルとも呼ばれる「海鞘」。珍味だけれど、好きと嫌いがまっ二つに分かれるほどに強烈な味わいを持った食材でもあるといわれる。今回、この海鞘がどのように大阪的な料理となるのか、楽しみなところである。


海鞘ひしお漬け うまい菜お浸し

神田芳松氏の献立

海鞘ひしお漬け うまい菜お浸し

ホヤを醤に漬けることでどう変わるか。乾燥の醤糀と大麦大豆などを合わせ2週間寝かせる。煮干しは片口鰯を湯がいて干して造る。ホヤを下処理し先ほどの醤糀に一日漬け、これを山葵の軸と葉とを合わせる。うまい菜は湯がき、煮干しで出汁をとり、薄めの塩味で冷まして漬け込んでいる。


大阪料理会

海鞘白酢和え

干し海鞘と焼茄子の清汁

上野 修氏の献立


海鞘白酢和え

海のパイナップルといわれる食材だけにフルーツと相性が良いのでは、という発想からの一品。昆布〆にしたホヤ。キウイとパイナップルを乾燥機で水分を抜いている。木耳と共にこれらをレモン白酢和えにしている。



干し海鞘と焼茄子の清汁

海鞘を干すとどうなるのか。約3日間干し「干しホヤ」を作ることから始める。
焼き茄子は細く割いて三つ葉で束ねる。器に干しホヤと焼茄子を入れ、真昆布の出汁を張って、茗荷を添えている。柔らかな焼き茄子、少し固めの食感をもった干しホヤ。そのホヤの味わいは海鼠のバチコに酷似した強烈なもの。強い旨味と真昆布出汁との相性も素晴らしい。ホヤに多くの可能性を感じさせる見事な一品である。


大阪料理会




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆