今月の献立 〈第80回〉
2017年
8月
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80回を迎えた大阪料理会。試作発表された料理の数はおそらく500点を超えているだろう。こうした軌跡と大坂料理の原点を見つめ直す意味から、大阪料理と大阪料理会のすべてを纏め編纂した『大阪料理』本が旭屋出版から発刊される。この本を契機に日本全国各地域における和食が、今一度見直されることを願いたい。 |
岡本正樹さん
天の川なかなか
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濱本良司さん
辻調理師専門学校
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小河原陽一さん
島之内 一陽
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◆9月の前菜テーマ「残暑涼味」 濱本良司氏・小河原陽一氏・岡本正樹氏による前菜料理 |
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残暑涼味
・枝豆すり流し(濱本良司氏)
・子持ち鮎の背越し唐揚げ(濱本良司氏)
・鯰玉子豆腐(小河原陽一氏)
・鴨西瓜寿司(岡本正樹氏)
・茄子の淀川蜆塩和え(岡本正樹氏)
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【料理について】
例年にない猛暑となった本年。残暑未だ厳しく癒やしの涼味が求められるところ。今回の前菜は担当会員3名の合作によるもの。「枝豆すり流し」は、塩ゆでした枝豆の薄皮をはずし、出汁と共に枝豆・豆乳そして白味噌等でミキサーに。これをトマトウォータージュレや湯葉と合わせている。「子持ち鮎の背越し」の唐揚げは、内臓を抜いた子持ち鮎を輪切りに、頭は焼いて出汁をとっている。抜いた内臓から子をとり、その内臓で田舎味噌、濃口を合わせ炒めた鮎味噌を作り、最後に鮎の子を入れて混ぜている。「鯰玉子豆腐」には岡山産の鯰が使われた。鯰は蒲焼きに。卵と牛乳を混ぜ玉子地を作っている。食パンで挟んだ鯰を流し函に入れ地を流し蒸している。「鴨西瓜寿司」は、鴨肉を調味液に入れ2時間程度の真空低温調理に。西瓜の酢飯を作り豆寿司としている。「茄子の蜆塩和え」は、油でけった後に八方地で冷やした茄子と、酒蒸しした蜆出汁とむき身ペーストで和えている。
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【総評】
「子持ち鮎に鯰など合作ではあるが取り合わせも面白い」といった評が聞かれた。枝豆のすり流しは、涼味を感じさせる一品だけに、味に何かポイントとなるものが欲しかった、という意見が寄せられていた。また鮎の背越しの料理は非常に汎用性の高い料理で、他の料理へのヒントとなった、という感想が多くあった。前菜に使われた鯰という食材は料理会でも初登場だけに関心が高かった。合わせて調理法として食パンを用いたところが非常にユニークで、この点における質疑応答もなされた。蜆の塩和えは、蜆そのものの味わいということもそうだが、蜆の身肉を少し加えることで料理としての完成度も上がったのではないか、といったアドバイスがなされていた。
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◆8月のテーマ食材「冬瓜」 濱本良司氏の献立
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冬瓜の昆布締め
特長があるようでなく、またそれを料理として表現させ辛いのが冬瓜。今回は主役になりづらい冬瓜がテーマとして取り上げられた。昆布締めでは、冬瓜の白い身の部分を薄切りとし、これに3%の塩をし水気を切った後に昆布を挟んで一晩置いている。冬瓜に合わせる魚介は同じ夏の食材である太刀魚。三枚におろし薄塩し、これも同様に昆布締めに。これらを合わせて土佐酢が掛けられている。シンプルだが、食せばこれが非常に優れた冬瓜料理であることが分かる。山海食材のコンビネーションそして食感もよく、かつての大阪惣菜である「ざくざく」を連想させるものだといえよう。
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冬瓜餅
冬瓜を使った冬瓜餅は、緑色の部分をむきとり適当な大きさに切る。鍋に出汁・干し海老・味醂・塩・淡口で煮た後にミキサーでペーストに。これをボウルに入れた台湾上新粉や浮き粉・干し海老などと合わせ湯煎し煉りあげ、さらにこれを流し函にいれ蒸しあげて冬瓜餅とする。冬瓜餅は適当な大きさに切り分け、台湾上新粉をまぶしフライパンで表面を香ばしく焼いて仕上げられている。冬瓜の青皮は餡として、これに海老の塩辛ともろこしペーストが添えられている。
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【総評】
「キュウリでもないウリでもない冬瓜を、しかも生で食べるという発想に驚かされた」というコメントが多くあった。シンプルだが歯触りもよく、まさに特長のない冬瓜の新しい可能性を見いだせそうな試作料理であったといえよう。
打って変わって、冬瓜餅は非常に手の込んだ料理。感想の多くは冬瓜餅に使用された台湾上新粉。濱本氏からは、いわゆるインディカ米を使った上新粉で、粘りが出ずにカリッと仕上がるという説明がなされた。
また海老の塩辛へに質問も多くあった。車エビの頭から味噌をだし、海老味噌に5%の塩と昆布をまぜ3日で15%の塩分になるように塩を加え寝かせる方法などが紹介された。手の込んだ料理であり冬瓜餅そのものが良かっただけに、関心は高かった一方で海老味噌は不要だったのではないか、との評も聞かれた。
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◆8月のテーマ食材「鰻」 岡本正樹氏の献立
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鰻ざくパフェ
鰻のざくざく料理をパフェ仕立てにしたもの。焼いた鰻を切り、塩もみした胡瓜、イチジク、茗荷、枝豆、マイクロトマトをハチミツの三杯酢で和えている。クリーム部分は加熱したカリフラワーに濃出汁と油でクリームとしている。
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鰻の一夜干し茶漬け
一夜干しは、処理した鰻を昆布の塩水で浸し風干しした後に焼いている。同様のものを養殖と天然で行っての食べ比べとなっている。そもそも食材を生かすというのが本料理会の趣旨。わざわざ鰻を干して食べる意味がどこにあるのか不明であり、また個体差がある天然ものを養殖と同様に処理して比べ結論づけるという目的もまた不明である。どのような食材であっても、それをより良く美味しく生かしてこそ料理である。評論総評は行わないこととする。
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第3回:九州有明「磯巾着(ワケノシンノス)」
有明海の干潟の砂地で採れる、食用のイソギンチャク。地元では味噌煮などにして食されてきた珍味のひとつ。他の食材にはない食感やクセのある味わいが特徴。8月頃までが旬。
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小河原陽一氏の献立
イソギンチャクの蓼酢味噌掛け
イソギンチャクを開いて塩でもみ洗いした後、さらに米糠でもみ洗いをする。これを濃い目の味噌汁で炊きあげ下味をしっかりとつける。蓼酢味噌を掛けて食する。
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小河原陽一氏の献立
イソギンチャクの香味和え
イソギンチャクの和え物。同様に味噌汁で下味をつけたイソギンチャクに、芥子の実、あたり胡麻、唐墨粉、煎りイクラなどをパウダーにしたものを和える。
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小河原陽一氏の献立
イソギンチャクの竜田揚げ椀仕立て
イソギンチャクを椀物にすればどうなるのか。掃除したイソギンチャクに、淡口とスダチの搾り汁で作った地に漬け、おかきをまぶして竜田揚げに。椀に胡麻豆腐と葛切りを合わせて入れ具とする。清汁は淡口・スダチ・味醂で調味したものをはり、吸い口に輪スダチを浮かす。
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撮影/藤澤 了 文/笹井良隆