amakaratecho.jp   www全体
大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第81回〉
2017年 9月

本年は、御堂筋が完成して80年であり、また大阪港が開港して150年目にあたる。大阪にとってメモリアルなことが重なった年といえよう。そうしたことを常とは異なった前菜形式ではあるが、前菜に取り入れてみようする試みがなされた。また、大阪豊中市で街おこしの食材として注目されているワニ肉を使った試作料理なども披露された。



広里貴子さん 広里貴子さん
貴重
お店HP
久保田 博さん 久保田 博さん
割烹 くぼた
お店HP
ぐるなび
菰田昌寛さん 菰田昌寛さん
料亭 梅廼家
お店HP
ぐるなび



◆10月の前菜テーマ「御堂筋ノ八十年」 広里貴子氏による前菜料理
前菜「御堂筋ノ八十年」

御堂筋ノ八十年

・梅瓢箪白酢埋め
・道修すき焼き
・太刀魚箱寿司
・銀杏ちょぼ焼き
・難波葱いかだ揚げ

【料理について】

ミナミとキタを繋ぐ大通りである御堂筋はいわばひとつの大阪のシンボル。それが八十年を迎えたということで前菜のテーマとして取り入れられた。表現形式は五種盛の内の4種を御堂筋線の主要駅(梅田・淀屋橋・本町・難波)になぞらえ、ひとつを御堂筋の象徴である銀杏料理としている。梅田はかつて“埋田”とされていたことからヒントを得たもの。食用瓢箪梅酢漬けを塩抜きし、半分に切って中をくり抜き木綿豆腐とクリームチーズなどを使った白酢仕立てのものを埋め込んでいる。道修とは薬種問屋が建ち並んでいた道修町をイメージしたもの。すき焼き仕立てにしたのは適塾のあったこの町で流行していたところからきている。本町は大阪の晩夏から秋にかけての味覚である太刀魚を使った箱寿司となっている。押し寿司の名店が多くあった本町になぞらえたものであろう。難波葱で表現した料理には芥子味噌が射込まれ、ぬた和え揚げのような趣向となっている。


大阪料理会

【総評】

御堂筋の八十年という前菜のテーマにはなりづらいものを、よく調べて料理へ落とし込んだことへの賛辞が多くあった。中でも道修すき焼における肉の調味液に、烏梅や八角そして桂皮といった薬膳に使われるものを組み込んだ点について、「和の料理の中に、中華的な要素が味わい的にうまく組み合わされている」との評が運営委員からなされた。
また御堂筋の象徴である銀杏をつかっての、ちょぼ焼きでは、大正時代頃から使われてきたであろう「ちょぼ焼き器」を実際披露しながら使い方の説明もなされた。ただ、この料理については小麦粉・昆布出汁・塩といった生地で焼かれたが、もう少し料理屋的な味へのこだわりが欲しかった、とする意見などが寄せられていた。

大阪料理会




◆9月のテーマ食材「羽曳野無花果」  久保田 博氏の献立
鶏胸肉の塩無花果和え

鶏胸肉の塩無花果和え

羽曳野で無花果栽培が開始されたのは、ほぼ60年前。現在では様々な形や味の異なる無花果が栽培されている。今回は中でも最もスタンダードとされる「桝井(ますい)ドーフィン」が使用された。皮をむいた無花果を八割にし塩麹にまぶし一晩おいている。胸肉は調味した塩水に30分。火にかけアクをすくいながら余熱を利用して火を入れていく。塩無花果と胸肉、菊花を和え落花生を散らしている。


無花果と豆腐味噌漬け春巻き

無花果と豆腐味噌漬け春巻き

同様に無花果を使って今度は皮付きのままに四つ割りとし塩麹をまぶしている。水切りした豆腐を麹味噌に漬け込んだ豆腐の味噌漬けを作り、白和え衣とこの味噌漬けを合わせ、無花果と白和えを春巻き包み揚げている。


大阪料理会

【総評】

「無花果の味わいに、まろやかな塩味が感じられ非常に美味」とのコメントが多く寄せられた。質疑応答のほとんどが「無花果と塩麹の相性」についてのことに集中した。塩麹から生まれる無花果の微妙な甘み、これはまさに塩味と甘味のバランスがなせる妙といえるものだろう。 春巻きの料理については「温かい状態の方が良かったのでは」との意見に対して「あえてこの料理は冷製のもので試みたかった」と試作への狙いについて久保田氏がコメントを行った。

大阪料理会




◆9月のテーマ食材「入り江鰐(わに)」  菰田昌寛氏の献立
鰐丸吸仕立て 大阪料理会

・鰐丸吸仕立て
・鰐の舞茸昆布浪速仕立て
・鰐 菊花おろし和え


日本それも大阪の川にワニが棲んでいた、というニュースがかつて報じられたことがある。 今からおよそ50年前の出来事だが、大阪府豊中市にある大阪大学理学部の構内からワニのほぼ完全な化石が見つかり、「マチカネワニ」と名づけられた。これを街おこしに活用できないかと現在も様々な取り組みが行われている。今回の発表はこうしたことが下地となっている。今回の試作ではイリエワニという食用ワニが使用された。


丸吸仕立てでは、ワニ肉を霜降りし丸吸い仕立てとなっている。椀種には、ワニを炊いた地で作った玉子豆腐にワニの身を入れて蒸したものが使われている。またワニの肉を少しでも柔らかく供したいと、大根や舞茸といった肉を柔らかくする酵素を持つ食材との調和が試みられている。解凍したワニ肉に、細かく刻み塩した舞茸を合わせ、さらに昆布〆にして一晩おいている。ワニ肉は串打ちして焼き、舞茸は軽く炒め泡立てた卵白ととろろ昆布と混ぜている。ワニ肉の上に舞茸をのせ天日で炙り、さらに卵黄をサラダ油で攪拌したものを塗りさらに炙っている。


菊花おろし和えは、和食へのアプローチとして酢の物仕立てを試みている。椀物で余ったワニ肉に、菊花、菊菜、大根おろしに、すった梨を合わせ三杯酢に仕上げている。


大阪料理会
鰐の舞茸昆布浪速仕立て
鰐 菊花おろし和え

【総評】

非常に珍しい食材と料理を前に、様々な意見が寄せられていた。舞茸を使った料理では同じワニ肉であっても調理次第で食感を大きく変化させられることへの感想なども聞かれた。 今回のワニ肉には海外から輸入されたものが使用され、その食材のあり方そのものに対する疑問なども投げかけられていた。しかし、今回は海外産であるが、既に国内では食用ワニの養殖が始まっていることから、近い将来には日本の食材のひとつとして認められる日も来るのではないだろうか。





特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第4回:熊本県「吊し海老」

吊し焼きえびは熊本県南部の名産。アシアカエビを使い、これを昔ながらの薪で焼き、吊るし干ししたもの。元来、海老からは濃厚な出汁をとることができるが、焼干しすることで保存性が高まり、かつ出汁の味わいもまた生とは違ったものとなる。同地域ではアシアカ以外にも様々な海老を使った焼干しが行われているそうである。

イソギンチャクの蓼酢味噌掛け

久保田 博氏の献立

吊し海老とゆきやぎ素麺 大阪信田包み(南関揚げ)

吊し海老を水で戻し、その戻し汁を昆布出汁で割り調味する。熊本名産の揚げ豆腐として有名な南関揚げを甘辛い地で炊く。戻した吊し海老をほぐして、最も細い素麺として知られる熊本の「ゆきやぎ素麺」と共に南関揚げで包み、吊し海老出汁の饂飩地を作り、この地で信田包みを炊いている。濃厚な吊し海老の出汁が南関揚げと相まって、じつに大阪的な喰い味に仕上がっている。


大阪料理会
イソギンチャクの香味和え

菰田昌寛氏の献立

吊し海老 錦秋蒸し

吊し海老の頭をとり、海老に刺し昆布をして一晩浸けて戻している。殻をむき、身は戻した出汁に調味したもので3時間程度蒸し煮にしている。さらにむいた殻を出汁に戻し10分ほど炊きながら濾して出汁を抽出。はずしておいた頭は太白胡麻油で揚げ、その揚げた海老油で道明寺粉を炒め、そこに海老出汁を注ぎ冷ましている。吊し海老の身、道明寺饅頭、錦糸玉子などを盛り、海老出汁を餡止めし上から掛けている。吊し海老の出汁を道明寺粉と合わせ、さらにこれに濃厚餡を掛けた錦秋蒸し。吊し海老の旨みを凝縮させた逸品といえよう。


大阪料理会




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆