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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第82回〉
2017年 10月

台風シーズン到来。今年は発生回数も多いようで本定例会においても予定していた食材調達が困難に陥る事態となった。市場で入手できなかったものを会員間の繋がりで何とか揃える。中には会員が釣り上げた魚を使って試食に臨んだ担当も。こうしたことが出来るのも大阪料理会ならでは、だと云えよう。



畑島 亮さん 畑島 亮さん
キュイジーヌ大阪リョウ
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ぐるなび
島村雅晴さん 島村雅晴さん
懐石料理 雲鶴
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松尾英明さん 松尾英明さん
日本料理 柏屋
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◆11月の前菜テーマ「囲炉裏をかこんで」 畑島 亮氏による前菜料理
前菜「囲炉裏をかこんで」

囲炉裏をかこんで

・亥の子餅
・茸の白和え 完熟柿酢掛け
・河内蓮根太刀巻き
・錦繍寄せ
・伊佐木藁焼き寿司

【料理について】

十一月は茶道では炉開き。暖も味となるこの季節。茶の世界なら炉を前に、茶壷の口を切る楽しみがあるように、山里でも収穫の喜びを囲炉裏前で分かち合う楽しみがあっていい。今回はそんな暖に集う楽しみを五種の料理で表現したものといえよう。
まずはなんとも可愛らしい「亥の子餅」。水洗いした里芋を低温の油でじっくりと揚げ、これを白玉と混ぜ練り上げている。下味をつけたササゲとクルミを合わせて亥の子形にとり揚げている。「茸の白和え」は、白木茸、インゲン、シメジなどを八方地で下味をつけ、木綿豆腐にスイートセサミ(大村屋製)そして淡口で調味し和え衣としている。ちなみに、このスイートセサミとは、クリーム状の胡麻と純黒糖がブレンドされた胡麻クリームである。ソースに完熟柿が使われているのも面白い。「蓮根の太刀魚巻き」は、棒状に切り出し直焚した河内蓮根に太刀魚の身と皮を返しながら巻きつけタレ焼にしている。「錦繍寄せ」では、毛蟹そして菊花・菊菜・トンブリなどが彩りとして使用されている、何とも秋らしい一品といえよう。「伊佐木藁焼寿司」では、寿司飯に合わせイブリガッコが使われており、この香りと独特な味わいが藁焼寿司をさらに滋味深いものとしている。


大阪料理会

【総評】

秋の食の色彩というものを、じつにうまく表現できているのではないか、とする賛辞が多く寄せられた。また今回の前菜では、完熟柿やイブリガッコへの質問が多くなされた。これらを巧みにソースや寿司などに組み合わせることで、「深まりゆく秋の風情を上手く演出している」といった評が聞かれた。実山椒の香りを太白油に移したものをトウモロコシ澱粉でパウダー状にするという発想もユニークで参考になった、とする声も少なくなかった。
前菜とは、これから始まるコース料理へのプロローグのようなもの。今回の試作はまさにそうした演出効果を垣間見ることができた料理であったといえよう。

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◆10月のテーマ食材「ウツボ」  松尾英明氏の献立
ウツボ

ウツボ巻繊蒸し

ウツボという魚は日本海側より太平洋側の魚介としてなじみあるものではないだろうか。和歌山や高知などでは食文化のひとつとして今も親しまれている。今回はそんなウツボを都会の料理屋としてどう料理するかという課題に取り組んだものといえよう。 ケンチン蒸しでは、霜降りしたウツボの骨からとった出汁に酒・味醂・醤油・砂糖などで調味したもので含め煮を作っておく。ケンチンは裏濾しした木綿豆腐に下味をつけた干し椎茸や人参や牛蒡を加え流し函に入れ、先ほどのウツボの含め煮を並べて蒸し器へ。蒸し上がれば冷やし固め、芥子で供される。


ウツボ湯葉巻き

ウツボは皮が美味いとされている。それを使った「皮煮」をまず作る。皮は切り分けて霜降り。鍋に皮と同量の酒・水を入れアクをとりながら煮た後、味醂や砂糖、淡口で調味していく。またウツボの頭部は、骨のない腹と背に切り分け、背は身にそって包丁を入れ骨を除き、身に3%程の塩を加えフードプロセッサーですり身としている。 湯葉巻きは、ひきあげ湯葉を適宜に切り分け、湯葉にウツボのすり身をぬり、皮と身を重ねて包み薄衣揚げとしている。銀杏などをあしらい、ちり酢で供される。

【総評】

「あのウツボがこうなるか」という驚きの声が多くあった。『町に食材なく、産地に料理なし』とはよく云われるが、まさにこうした料理はそれを象徴するものであろう。ウツボのケンチン蒸しについては、これは「和風ウツボテリーヌ」として位置づけてもいいのではないか、とする意見が聞かれた。また評の中には「蒸し」ではなく「寄せ」の方がピッタリくるのでは、とする意見もあった。同じくウツボの「湯葉巻き」は、これが「ウツボとは思えない」とする賛辞が多く寄せられると共に、「頭、骨、尾などウツボを使い尽くす料理法の数々は見事」とする感想が運営委員からも上がっていた。最後にウツボ料理に挑んだ松尾氏からは「ウツボは下処理が大変ではあるが、使えば多くの魅力を感じさせてくれる食材でもある」とのコメントと合わせ詳細な下処理方の解説がなされた。

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◆10月のテーマ食材「鮗(このしろ)」  島村雅晴氏の献立
鮗の柔らか煮

鮗の柔らか煮

安くてしかも美味ではあるのだけれど、独特なクセと小骨の多さによって敬遠されがちなコノシロ。その小さなものはコハダとして寿司ネタの人気食材となっているだけに何とも惜しい。過去にも大阪ではこのコノシロを活用した料理が考案され名物にもなったものもあったが、現在ではコノシロそのものが使われることはほとんどない。 今回そうした状況を踏まえ、あえてこの食材に挑んだのが島村氏である。まず島村氏は小骨の多さの問題を、かつての「野崎焼き」で編み出した調理法を活用することで解決しようと試みたのが今回の柔らか煮である。ここではコンベクションオーブンを活用し、コノシロを油に浸けたままで6時間20分加熱(庫内107℃)。さらにスチコンを使い6分間加熱、これを調味した液で味を含ませ柔らか煮としている。


身欠き鮗の煮麺

身欠き鮗の煮麺

もう一品は、コノシロがそもそもニシン科の魚であることに着目し、身欠き鰊と同様のもの(身欠き鮗)を作り、これをもとに煮麺を試作している。身欠き鮗は、三枚におろした後、腹骨を除き5日間天日干しし、冷凍保管することで作っている。また出汁用として焼き干しも作っている。こちらは強火で焼き、弱火で1時間焼いた後5日間天日干しとしている。「身欠き鮗」という発想は、おそらくかつて誰も考えたことがないものであり、今後のコノシロの可能性を強く感じさせてくれる素晴らしい試作であると云えよう。


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【総評】

コノシロを使った二品。いずれも見事な仕上がりに驚くと共に、その調理に到るまでの複雑なプロセスにも驚かされた、というのが本音であろう。調理法における温度管理の問題などへの細かな質問が多くなされた。運営委員の中からは「今回のコノシロ料理は素晴らしいが、おそらく使用されたコノシロは『活け』ではなく、冷凍であったはず。だからこそクセや臭みを除くためにそれだけ注力しなければならなかったのではないか」また「調理技術で消すのも方法だが、昔ながらに薬味を活用するという手法もあるのでは?」とする指摘などがなされた。こうした指摘に対して島村氏は「確かに現在まとまった量のコノシロは冷凍でしか入手できないようである。しかしこうした臭みさけ除ければとても旨味が多い魚であることを広く知っていただきたい」と、コノシロが持つ味や鮮やかな色味といった魅力について解説を行った。

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第5回:北海道「蝦夷鹿」

今回使用された蝦夷鹿は、興部(おこっぺ)町の猟友会が解禁前に害獣駆除分として射止められたものが使用された。北海道においてもが獣害被害が拡大しており問題となっている。食して美味い肉ではなるが、まだまだ活用されている肉は少ないのが現状。ちなみに関西では鹿肉の旬は夏だが、北海道では秋からがシーズンとなるそうである。

知られざる郷土食材を和する

畑島 亮氏の献立

蝦夷鹿醤油煮

フライパンで背のロースの表面を焼き、調味した地を弱火にし鹿肉を入れる。ここでは60℃で約2時間、この鹿肉の煮汁を冷やして、さらに血抜きした後に、さらに漬け込み一晩程度寝かせている。


蝦夷鹿の銀寄和え

銀寄せ栗は半分に切って蒸しスプーンで実をすくい取る。これを三杯酢でのばしたものを和え衣としている。拍子切りにした鹿肉の醤油煮と百合根や銀杏などを先ほどの衣で和えて供された。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆