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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第83回〉
2017年 11月

秋の長雨に加え台風による豪雨の影響か、田辺大根など伝統野菜も大打撃を受けたようだ。例年なら出荷が始まる難波葱もほぼ収穫ゼロとか。翌年まで食材調達が難しい状態が続きそうだ。さて今回の大阪料理会では深まる秋に相応しい前菜と、大阪らしい鯨肉が取り上げられた。



前田武徳さん 前田武徳さん
味彩旬香「菜ばな」
ぐるなび
柚野克幸さん 柚野克幸さん
西心斎橋ゆうの
ぐるなび
杉本 亨さん 杉本 亨さん
浪速割烹 和亨
ぐるなび



◆12月の前菜テーマ「秋日影」
柚野克幸氏、杉本 亨氏、前田武徳氏の合作による前菜料理
前菜「秋日影」

秋日影

・牡蠣こがね焼(柚野氏)
・白菜茶碗蒸(杉本氏)
・あけびと干し芋茎 あけび味噌掛け(柚野氏)
・蓮根と牛蒡の金平 菊菜地和え(杉本氏)
・海老芋と足赤海老の香煎揚げ(前田氏)


大阪料理会

【料理について】

牡蠣を用いての焼物、牡蠣の食感を最大限に残すため、牡蠣は霜降りをした後に65℃〜68℃3分ほど焚いた後に地漬けされている。面白いのはソースで、ゆで卵の卵黄だけを裏濾し、刻んだいぶりがっこがアクセントになっている。
白菜の茶碗蒸は、包丁で叩いた生の白菜を鰹出汁で作った地で蒸している。これもソースにこだわりがあるようで、白菜を卸した汁に昆布を入れた汁を淡口等で調味し山芋ソースを作り昆布〆した雲丹をのせている。
あけびと干し芋茎を使った料理は、あけびの処理がポイント。薄く皮をむいたあけびを酢水の炭あくでボイル。水にさらし吸地で炊いている。あけび味噌は、果肉をガーゼで搾り田舎味噌、大村屋製の煉りゴマを合わせ淡口で味を調えてある。
蓮根と牛蒡の和えものでは、フライパンで蓮根、牛蒡を炒めた後に調味し、菊菜と豆腐そして白味噌と煉り胡麻と淡口による菊菜地を作りでさっと和えている。 海老芋と足赤海老の香煎揚げは、海老芋を皮つきのまま塩にのせオーブンでじっくりと焼いている。その焼きあがった海老芋を潰し、足赤海老を入れて丸にとり香煎揚げとし、仕上げに菊菜のペーストが掛けられている。


【総評】

3会員の合作ということで、先ずは各々の料理から強い個性が感じられたとの意見が寄せられていた。しかし、いずれも力作ではあるが前菜ということを考えれば「前菜的な引き算」ができていないのではないかとの評も聞かれた。つまりは、前菜料理という枠を超えているということであり、後の料理に差し障るということであろう。各料理評としては、牡蠣料理は熱を入れているにもかかわらず非常に生っぽい食感があり良かったとする意見、ソースのいぶりがっこがユニークとの声もあった。白菜の茶碗蒸しには、淡い味わい良かったとの評が多くあった。あけびと干し芋茎の料理へは、もう少ししゃきっとした食感が欲しかったとの感想があった。海老芋と足赤の香煎揚げには、できれば海老芋は潰さずに、そのままの食感が生かせればさらによかったとの声が寄せられていた。

大阪料理会




◆11月のテーマ食材「鯨肉」  前田武徳氏の献立
鯨 珍味五種盛り

鯨 珍味五種盛り

鯨で知られる和歌山の太地は、大阪と非常にかかわりの深い場所でもある。かつては大阪の鯨肉の大半がこの地から大阪へ運ばれていたのである。今回はそんな鯨肉の食文化が紹介された。まさに大阪料理会ならではといえるテーマといえよう。
最初の5部位は、「テッパ(鯨胸ひれ)」と「うでもの(内蔵を塩ゆでにした物)腸と横隔膜」と「うでもの(内蔵を塩ゆでにした物)心臓と肺と肝」そして「さらし鯨(尾羽毛の塩蔵)」と「鹿の子(顎頬肉)」である。
テッパは鯨肉と相性の良い水菜を巻きつけた一品。「うでもの」の二品は、ひとつは芹を使ったポン酢掛け、もうひとつは揚げ物とし、卵黄に砂糖と淡口で煎り玉を作り、生姜を刻んだものに漬けている。「さらし鯨」は流し物に。ここでは出汁を入れて火にかけて煮、長芋をすったものと混ぜ、水前寺海苔と共に流し固めている。難波葱を刻んで油で揚げミキサーで出汁と回したソースを掛けている。「鹿の子」は、握り寿司として、あさつき、生姜醤油で供された。

鯨 骨はぎの焚き合わせ はりはり仕立て

鯨 骨はぎの焚き合わせ
はりはり仕立て

骨はぎとは、鯨の骨に付いているスジ肉のこと。これを出汁で焚き、大根は骨はぎ出汁をのばした地で長めに焚いている。筒(つと)豆腐を水切りし、当たり鉢で白身のすり身等で、当たりをつけ簾に乗せて丸めて蒸している。それぞれに温め、骨はぎの出汁で水菜を焚いて盛っている。


大阪料理会

【総評】

今回紹介された鯨肉を前に、初めての体験する会員が多く、大阪の鯨食文化の今昔の感に堪えない思いをした運営委員も少なくなかったことだろう。それぞれの部位の味わいそして香りなどに対する感想が相次いだ。価格や仕入れ先に対する質問も多かったのが印象的であった。「骨はぎ」については、牛肉のすじよりも美味なのではないか、土手焼き料理にして食してみたい、との感想が数名から出ていた。運営委員からは、「これら様々な部位を見て思うのは、いかに大阪が貴重な鯨肉を余すことなく大切に使ってきたかということ。今一度その感を深くした」とのコメントが寄せられていた。また今後の課題として「様々な部位の魅力を知ることができた。今後これらの部位が持つ特色をどこまで残しつつ料理していくか。それが大阪の料理人に求められているように思う」との意見が寄せられた。

大阪料理会




◆11月のテーマ食材「鱈白子」  柚野克幸氏の献立
鱈白子カツレツと天王寺蕪 蕪蒸し

鱈白子カツレツと天王寺蕪 蕪蒸し

鱈の白子を常とは違った食感そして味わいで食することができないか。そうしたことへのひとつのヒントとして披露された。白子は薄く塩と胡椒を振って、パン粉をつけてカツレツにしている。すり卸した蕪に、卵白・くみあげ湯葉などを加え蕪蒸しの地を作って蒸している。難波ねぎの青の部分はソテーにして彩りに。葱の白い部分は太白胡麻油で葱油を作っている。白子のカツレツに蒸し上がった蕪をのせ、銀餡をはり、葱油を掛けている。


大阪料理会

【総評】

先ず声があがったのが「カツレツとは何か」ということ。厳密に言えばこれはカツレツ風といえるかもしれない。発想がユニークなだけに、何か他にネーミングがあれば少しイメージの違った印象を食べ手に与えることができたかもしれない。またカツレツと考えて食するなら、もっとカリッとした食感を食べ手が求めるだろうとの意見もなされていた。
他にも白子カツレツとして完成度を上げるなら、おかき揚げのようなアプローチ法もあるのではというコメントも寄せられていた他、せっかくの蕪とのコラボレーションなので、カツの上に蕪ではなく、蕪の上にカツの組み合わせの方が銀餡に負けなかったのでないか、といった感想も聞かれた。

大阪料理会




特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第6回:南九州「あくまき(灰巻き)」

「あくまき」は和菓子といった形でお土産などにもなっている。この灰巻きを料理として捉えてみるとどうなるか。そのためには自家製のあくまきが必要となる。そこでまずその作り方としては、餅米1合を洗い、灰汁180mlに一晩浸けておく(冷蔵保存)。小豆も水に浸けて一晩置く。ザルで餅米と灰汁と分ける。餅米と小豆を笹で巻き竹皮でしばる。餅米をつけた灰汁と水を入れた鍋で3時間程度煮る(途中で水を足す)。

灰巻き安納芋団子

杉本 亨氏の献立

灰巻き安納芋団子

シンプルにあくまきを食べるための料理として供された団子。安納芋を皮つきのまま素揚げして火を通して、裏濾している。これにハチミツを混ぜ、芋に灰巻きを包み笹で挟んでいる。


大阪料理会
灰巻き白味噌仕立て

灰巻き白味噌仕立て

次にこのあくまきを椀物料理とする。鰹出汁、白味噌で白味噌の地を作っている。そこに子持鮎を焼いて酒と酢で10時間程度戻し旨煮に。大根は戻して鰹出汁で焚き、葉と軸は油で炒めている。最後に灰巻きと鮎・大根・青みを盛り、白味噌地をはっている。


大阪料理会




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆