【料理について】
本前菜におけるテーマは新春となっているが、黒豆・数の子・田作りといった定番の祝い肴は使わず、どちらかといえば1月に相応しい前菜という仕上がりになっている。天王寺蕪の麹漬けは、金沢の蕪寿司を思わせる一品。スライスした天王寺蕪を水あげしソミュール液に漬けた合鴨ロース等と共に、甘酒に漬け込んでいる。
さば河豚を使った七味焼きは、自店の手作り味噌に漬け込んだものを天火で焼いている。七味の効かせ方が絶妙、冬の前菜らしい一品。
吹田慈姑の南蛮漬けは、白味噌を土佐酢でのばしたものにサフランを加え南蛮漬けの地としている。香りが妙味ともなっている。
天王寺蕪の間引きとコロの浸しは、サイコロ状に切ったコロを、そのまま鍋で焼き、旨出汁で焚いている。蕪間引きも同様に炒めた後、地に加えている。コロの新しい食感が面白い。
渡り蟹の玉子巻きは、酢醤油をかけた蟹子は昆布〆に。焼いた甲羅等でとった出汁に三杯酢を加え、蟹酢を作っている。巻き簀に薄焼き玉子そして蟹の身、胡瓜、蟹子を乗せて巻き、蟹酢を仕上げに使っている。渡り蟹の最も美味な季節の贅沢な逸品といえよう。
【総評】
5つの前菜料理、それぞれに多くの質問や意見が出された。天王寺蕪の麹漬けは、「蕪本来の甘味がよく出ていた」との賛辞が聞かれた。また甘酒への質問もあり、関根氏から詳細な作り方と、地元平野酒の紹介などもなされた。ふぐの七味焼きには、「さば河豚は、身肉が水っぽく扱いにくい河豚だが、味噌漬けにしたことで、非常にしっとりした仕上がりになっているのでは」という評が寄せられていた。また「七味の辛さ加減が絶妙」とする意見も多くあった。吹田慈姑を使った料理では、「面白い料理だが、もう少し慈姑らしいほくほくした感じがあってもよかったのではないか」とする感想があった。ただ松尾氏は「吹田慈姑の本来の形質そして皮の香りを生かすことが狙いであった」とするコメントが付け加えられた。次いで鯨のコロを使った料理には、「コロというもののイメージが変わった、コロ以上の味になっている」など多数の賛辞が聞かれた。渡り蟹を使った玉子巻きには、「非常に力の入った料理。味噌をもっと生かせばさらによかった」とするコメントに加えて「面白い、これはせこ蟹でもできるのじゃないか」とする意見などが運営委員から寄せられた。
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