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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第84回〉
2017年 12月

本年、最後の大阪料理会。今回も前回同様に3会員の合作による前菜。祝いの席の前菜という概念を超えた料理が披露された。テーマ食材では、市場に多く出回るようになった足赤海老が取り上げられた。特別テーマには、料理食材としてはユニークな干し芋を使った試作が発表された。



西野保孝さん 西野保孝さん
山海料理「仁志乃」
お店HP
ぐるなび
松尾慎太郎さん 松尾慎太郎さん
北新地「弧柳」
お店HP
ぐるなび
関根文幸さん 関根文幸さん
和楽せき根
ぐるなび



◆1月の前菜テーマ「新春祝い肴」
西野保孝氏、松尾慎太郎氏、関根文幸氏の合作による前菜料理
前菜「新春祝い肴」

新春祝い肴

・天王寺蕪麹漬け(関根氏)
・ふぐ七味焼き(西野氏)
・吹田慈姑サフラン味噌南蛮漬け(松尾氏)
・天王寺蕪間引き菜と鯨コロ浸し(松尾氏)
・渡り蟹玉子巻き(関根氏)

【料理について】

本前菜におけるテーマは新春となっているが、黒豆・数の子・田作りといった定番の祝い肴は使わず、どちらかといえば1月に相応しい前菜という仕上がりになっている。天王寺蕪の麹漬けは、金沢の蕪寿司を思わせる一品。スライスした天王寺蕪を水あげしソミュール液に漬けた合鴨ロース等と共に、甘酒に漬け込んでいる。
さば河豚を使った七味焼きは、自店の手作り味噌に漬け込んだものを天火で焼いている。七味の効かせ方が絶妙、冬の前菜らしい一品。
吹田慈姑の南蛮漬けは、白味噌を土佐酢でのばしたものにサフランを加え南蛮漬けの地としている。香りが妙味ともなっている。
天王寺蕪の間引きとコロの浸しは、サイコロ状に切ったコロを、そのまま鍋で焼き、旨出汁で焚いている。蕪間引きも同様に炒めた後、地に加えている。コロの新しい食感が面白い。
渡り蟹の玉子巻きは、酢醤油をかけた蟹子は昆布〆に。焼いた甲羅等でとった出汁に三杯酢を加え、蟹酢を作っている。巻き簀に薄焼き玉子そして蟹の身、胡瓜、蟹子を乗せて巻き、蟹酢を仕上げに使っている。渡り蟹の最も美味な季節の贅沢な逸品といえよう。


【総評】

5つの前菜料理、それぞれに多くの質問や意見が出された。天王寺蕪の麹漬けは、「蕪本来の甘味がよく出ていた」との賛辞が聞かれた。また甘酒への質問もあり、関根氏から詳細な作り方と、地元平野酒の紹介などもなされた。ふぐの七味焼きには、「さば河豚は、身肉が水っぽく扱いにくい河豚だが、味噌漬けにしたことで、非常にしっとりした仕上がりになっているのでは」という評が寄せられていた。また「七味の辛さ加減が絶妙」とする意見も多くあった。吹田慈姑を使った料理では、「面白い料理だが、もう少し慈姑らしいほくほくした感じがあってもよかったのではないか」とする感想があった。ただ松尾氏は「吹田慈姑の本来の形質そして皮の香りを生かすことが狙いであった」とするコメントが付け加えられた。次いで鯨のコロを使った料理には、「コロというもののイメージが変わった、コロ以上の味になっている」など多数の賛辞が聞かれた。渡り蟹を使った玉子巻きには、「非常に力の入った料理。味噌をもっと生かせばさらによかった」とするコメントに加えて「面白い、これはせこ蟹でもできるのじゃないか」とする意見などが運営委員から寄せられた。

大阪料理会

大阪料理会




◆12月のテーマ食材「足赤海老」  西野保孝氏の献立
足赤海老白味噌掛け

足赤海老白味噌掛け

濃厚な味噌が特長の足赤海老を使った試作料理。足赤海老の頭を焼き味噌を取り出し、これらを使って昆布との出汁をとっている。身肉だが、この出汁の一部と身付きの殻を加えて調味して煮含めている。さて、掛け味噌だが、先ほどの足赤海老の出汁と味噌を白味噌に溶き入れ煮詰めながら調味している。勝間南瓜と海老芋は、こちらも足赤の出汁を鰹出汁で割り調味した八方で煮含めている。盛りつけた後は、足赤の髭を素揚したものを天に盛っている。足赤海老のすべてを旬の大阪野菜と共に味わえる、素晴らしい焚き合わせの逸品とも云えるのではなかろうか。

【総評】

足赤海老は別名クマ海老とも呼ばれる。一説には別種とする意見もあるが、いずれにしても大阪的な海老のひとつといえよう。「足赤海老はよく使うが、頭の部分はあまり活用したことがない、非常に参考になった」とする意見が寄せられていた。また今回は足赤海老の説明の中で、この時期は特に活けで使用できることなどが西野氏より解説された。これを受けて「足赤の使用する本来の時期を見直すヒントになった」という声も聞かれた。味については、「何より海老味噌を使った掛け味噌が絶品」とする声が多数あった。次に海老全般に対する身肉についての質問が参加会員からなされ、この「足赤海老に限らず、海老の身肉を柔らかくする方法はないだろうか」に対する様々な質疑応答が行われた。運営委員の中からは「様々な方法があるだろうが、7〜8部の火入れを心がける」ことがやはり最も大切なのではないかとする見解が披露された。

大阪料理会




◆12月のテーマ食材「田辺大根」  松尾慎太郎氏の献立
田辺大根と生節の五目豆

田辺大根と生節の五目豆

大阪料理会はプロの料理人が客前に出す料理を前提とした試作を発表することから、淡味を主とする。今回の試作は、それとは真反対というべきか家庭における、おかず的な濃厚だが旨味の強い料理となっている。また食材も、田辺大根に生節そして五目大豆といたってシンプルなものとなっているが、細部にわたる味への繊細なこだわりはやはり料理人ならではだろう。生節は舞茸と共に一晩浸している。これは舞茸の魚肉を柔らかくする酵素を活用したもの。大根の皮は切干しにしている。田辺大根は直焚きとし、切干しにしたものは鰹出汁に浸している。鍋に酒・水・醤油・砂糖を入れ、さらに泉州のゴヨリ(雑魚天日干し)に戻した大豆や先ほどの生節等を加え焚いている。仕上げに、切干し大根の戻し汁を沸かし、山の芋と大根葉を加えたトロロ餡が掛けられている。


【総評】

「先ずは、あの生節がこんな風な食感になるとは驚いた」とする感想があがった。さらに「非常に旨みの強い料理、料理屋ならコースの最後に御飯と共に出したい料理」といったコメントも寄せられていた。ゴヨリについての質問も多く、松尾氏は「かつては庶民の食材であった泉州のゴヨリだが、今では作る人も少なくなり高級食材となりつつある」との現状と「以前は様々な雑魚もあったが、最近ではじゃこ海老が主体となっている」などの解説が付け加えられた。運営委員からは「料理屋のコース料理では、こうした料理があまり供されることがなくなった。家庭料理や郷土料理的なものであっても料理屋風に仕立て直し、少しコースに加えることでコースをさらに印象深いものとするのではないか」とする意見が聞かれた。

大阪料理会




特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第7回:茨城県「干し芋」

蒸かした薩摩芋を切って干しただけのシンプルな干し芋。全国で販売されているが、その生産量の9割近くを作っているのが茨城県。元来、干し芋は保存性を考えた菓子のひとつ。この干し芋を日本料理の食材として使うことはできないか、という発想で特別テーマに位置づけ、試作されたのが今回の二品である。

干し芋ノ伊達巻き風

関根文幸氏の献立

干し芋ノ伊達巻き風

干し芋はさっと焼き棒状にとり、カッターミキサー等で昆布出汁と合わせピューレ状にしている。伊達巻き風の出汁にこれを合わせ、玉子焼き鍋に入れて焼き、巻き簀にとり、手前に干し芋をのせて巻いている。伊達巻きには多くの砂糖が使われるが、砂糖ではなく干し芋の甘さで新たな伊達巻きの味わいを求めた試作だと云えよう。


大阪料理会
干し芋白酢和え

干し芋白酢和え

焼いて切った干し芋に、同様に切ったリンゴ。天王寺蕪の軸の部分を湯通し後に冷水にとっている。生木耳は湯をして八方で焚いている。これらを合わせたものに木綿豆腐に大村屋製当たり胡麻等で調味した白酢で和えている。この料理においても干し芋ならではの上品な甘味が生きている。柔らかな酢味と甘味のコンビネーションが素晴らしい。


大阪料理会




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆