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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第85回〉
2018年 1月

新年最初の大阪料理会。前菜料理は節分をテーマに、また各々のテーマ食材には新年らしい吹田慈姑。また現代では料理屋においてはほとんど用いられることがなくなってしまった寒鮒が取り上げられた。特別テーマには鹿児島の山川漬が選ばれ、大阪料理への試作が披露された。



早川友博さん 早川友博さん
北新地「小嘉津」
ぐるなび
北野博一さん 北野博一さん
日本料理「喜一」
お店HP
ぐるなび
城崎栄一さん 城崎栄一さん
旬屋「じょう崎」
ぐるなび



◆2月の前菜テーマ「節分」
早川友博氏による前菜料理
前菜「節分」

節分

・泉州松波甘藍と鰆 飯寿司
・鰯へしこ 切干し大根巻き
・鶴の子大豆と和泉蛸 柔らか煮
・金棒牛蒡
・蕗の薹甘辛煮

【料理について】

節分時期のよく脂がのった瀬戸内産の鰆。そして甘みを増した大阪の松波キャベツを糀漬けにした一品。さく取りした鰆に強塩、塩を洗い落としてそぎ切りにし酢で〆ること一日。キャベツに加えて生姜・人参・柚子などが使われている。炊いた御飯と糀を合わせて漬樽へ。いわゆる、かぶら寿司の大阪版といえそうな飯寿司仕立てとなっている。
節分といえば鰯だが、ここではへしこ風となっている。大羽の塩鰯を使い糠床に漬け込んでいる。もどした切干し大根を炊きあげ調味したもので巻いている。節分ならではのもう一品は、蛸と合わせた大豆。皮色ともに美しく柔らかな身肉の蛸は大豆との相性も良い。新牛蒡を鬼の金棒に見立てた一品も面白い。170℃で素揚げした後に調味し胡麻をまぶしている。蕗の薹の甘辛煮は、昔ながらに灰汁でアクを除き味付けされているが、山菜らしい苦味の残り具合が絶妙といえよう。


【総評】

鰆と松波キャベツの飯寿司。発想も味わいもユニークで面白い、との意見が多く聞かれた。ただ、飯寿司として供するのであれば、少し発酵が足りなかったのが残念とする感想があった。またそぎ切りされた鰆だが、皮のかたさを感じたので、事前に皮に包丁目を入れておけばさらによかったのでは、といった意見なども寄せられていた。鰯をつかった料理では、とても塩鰯とは思えない旨さとの評価があった。
またここでは糠床の作り方などについて運営委員からも様々な手法が紹介された。大豆と蛸を合わせた一品では、蛸を大根で叩くといった昔ながらのやり方に対する各々の見解が披露された。実際に柔らかく調理された蛸を前にし、単に根拠の有無を話し合うのではなく、求める結果を導き出すためにどうすべきかが論点となった。同様に蕗の薹の甘辛煮においても、藁焼きした後の灰汁を用いるという昔の手法が使われたが、そこからくる程よい苦味を前にし、昔の仕事の意味や意義を多くの会員が感じていたのではないだろうか。

大阪料理会

大阪料理会




◆1月のテーマ食材「寒鮒」  北野博一氏の献立
子持寒鮒の甘露煮

子持寒鮒の甘露煮

川魚には独特なくさみが確かにある。しかしそれは用いる時期にもよる。鮒なら寒時期のものにはほとんどそうしたくさみが感じられない。今回はそんな湖産の鮒を店の井戸水に数日泳がせている。鱗をとり水洗いした鮒は、膵臓(にが玉)をはずしが、その他内蔵は残し、両皮に包丁を入れている。三等分した部位を天火で白焼きに。鍋底に竹皮を敷き、白焼きした鮒を並べ、濃い目の番茶を足し加えながら6時間程度。骨が柔らかくなれば酒・キザラ糖・みず飴で味を含めていき、最後に濃口で味を決め煮詰めて仕上げられている。

寒鮒甘露煮入り粟餅清し汁

寒鮒甘露煮入り粟餅清し汁
はりはり仕立て

寒鮒甘露煮を使っての椀物。冬らしく粟餅仕立てとなっている。粟餅は餅米10に対して粟3。先ほどの甘露煮を軽くつぶして、干し椎茸旨煮と合わせる。粟餅でこれを丸にとり、片栗粉をまぶしておき、椀盛の前に焼き目をつけてから昆布と野菜の出汁が張られている。


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【総評】

鮒や鯉は食材としての味わいを云々する以前に、栄養面から見て日本人の身体にとても良いことが昔から云われている。今回はそうした鮒という食材についての話が北野氏から紹介された。会員からは「いわゆる想像していた川魚のくさみといったものは全くなく、驚いた」という声が寄せられていた。評にあたった運営委員からは、鮒が身体に良いことは、その除かれる「にが玉」からも分かる。昔はその除いた「にが玉」を干して漢方薬として呑んでいたことなどが語られた。
料理については鮒を炊く時の番茶の意味についてや、他の茶ではどうかなどの質問もなされた。さらに鱗をはずすべきかどうか、についても論議がなされた。最後に相談役から、「生魚で扱う川魚は調理法自体も難しいことが昔は多くあった。しかし技術が進んだ現代の日本料理においては、こうした川魚を容易に調理でき、また新しい料理法を生み出せる土壌が整っている。そうしたことに是非挑戦していただきたい」とするコメントが付け加えられた。

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◆1月のテーマ食材「吹田慈姑 河内青慈姑」  城崎栄一氏の献立
慈姑おこわ饅頭

慈姑おこわ饅頭

関西では慈姑といえば大きく2種類ある。ひとつは京都の東寺あたりで収穫されている青慈姑。大阪では蓮根を栽培する低地で栽培が行われている。そしてもうひとつが、なにわの伝統野菜でもある吹田慈姑。青慈姑は比較的大ぶりなものが多いが、吹田慈姑は小ぶりであり角が折れやすい。いずれも慈姑も下処理で皮をむくが、この皮を有効に活用できないか、というのが今回の試作料理である。
先ず河内青慈姑の皮は3パターンに処理する。ひとつは風干し。もうひとつが油揚げに、そしてさらに細かなものなどはカッターにかけ吉野葛と共に煉り上げる。干した慈姑は、オーブンで乾燥させた後に焙煎を行い「慈姑茶」とする。餅米に慈姑茶を加えて蒸しあげ、先ほど揚げた慈姑と、煉り上げた慈姑を混ぜて「丸」にとり、八方地にて焚いた大徳寺麩を射込み饅頭としている。吹田慈姑はクチナシと蒸しシロップ焚きとしている。

【総評】

慈姑は手間がかかる上に、どうしても皮などの処分に困ることが多い。「こんな、慈姑の皮の使い方というのも面白い、参考になった」といった声が多く聞かれた。慈姑茶の香りも素晴らしい。「慈姑は味もそうだが、その香りにもっと着目すべきかもしれない」という評も寄せられていた。慈姑という食材ならではの滋味を感じさせる一品であったが、惜しいのは調理後すぐは柔らかであった饅頭が、時間の経過と共に固くなっていたこと。ここまで固くなる前に、何か少し工夫できればさらに良かったのではないか、といったアドバイスが運営委員からなされていた。

大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第8回:鹿児島県「山川漬」

山川漬は、鹿児島指宿(旧山川町)の名産として知られている。干した大根に塩をまぶしながら杵でついて柔らかくさせるところもユニークだが、これを薩摩焼の壺を使って半年ほど塩漬けにして発酵させるところも面白い。そうしたところから別名「壺漬」とも呼ばれてる。

鯉の山川漬〆 土佐ジュレ山葵風味

城崎栄一の献立

鯉の山川漬〆 土佐ジュレ山葵風味

今回は寒鮒がテーマ食材として選ばれていたが、特別テーマでは「鯉」が山川漬に合わせるといった試作が披露された。三枚におろした鯉の皮をひき、薄く切った山川で、これを挟んで〆ている。乱切り山葵と土佐酢でジュレを。鯉を〆だ山川漬を刻んで土佐酢に。鯉のそぎ切りを山川漬で巻きジュレ掛けとしている。


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山川漬と白生木耳 柚子卸し和え

北野博一の献立

山川漬と白生木耳 柚子卸し和え

この料理には解説は不要だろう。その相性を試された一品。柚子おろし和えは、大根おろしに柚子というシンプルな仕立て。大根で大根を和えるという、山川漬を楽しむに相応しい試作だといえよう。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆