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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第86回〉
2018年 2月

例年にない寒波が押し寄せた年明け。それもようやく少し春めいてきた。3月の前菜として選ばれたのが「草木萌動」。七十二候でいうところの第六侯にあたり、やっと春の訪れを感じられる時期。冬の色から、春らしい色合への微妙な自然の変化。そんな彩りを期待できそうな前菜名である。テーマは旬を迎えた黒鯛(ちぬ)、そして紋甲烏賊の試作が披露された。



山本 英さん 山本 英さん
片町「はしま」
お店HP
ぐるなび
古池秀人さん 古池秀人さん
なにわ料理「有」
ぐるなび
大屋友和さん 大屋友和さん
日本料理「翠」
ぐるなび



◆3月の前菜テーマ「草木萌動」 山本 英氏による前菜料理
前菜「草木萌動」

草木萌動

・うるいの白和えと苺の重ね合わせ
・白魚と雲丹の湯葉揚げ
・百合根と蓬の茶巾織部仕立て
・赤貝と独活の広布巻き
・芹と油揚げの霙煮



【料理について】

春の彩りと味わいを盛り込んだ五品。気負いなくさらりと、清楚な風さえ食べ手に感じさせる。うるいを使った白和え。これは常のごとくの白和えだが、苺の赤とうるいの緑を重ね合わせ和え衣で引き立てている。白魚と雲丹の湯葉揚げは、宍道湖の白魚を使った一品。この白魚に煉り雲丹を絡ませ湯葉をまぶして揚げている。百合根と蓬の茶巾だが、織部が持つ春らしい色目を意識した仕上がりとなっている。裏ごした百合根からは2つの味わい。ひとつは生クリームでのばし純白な色合いに。もうひとつは蓬を加えて調味し織部色としている。赤貝と独活の使った一品は、酢の物仕立て。独活はカツラに剥いて湯がき、赤貝は叩いて酢味噌でのばす。これを独活と広布(ひろめ)で巻いている。芹を使った霙煮は、刻んだ芹と松山あげを出汁で炊き霙煮に仕立てている。


【総評】

春らしい彩りが素晴らしい、との評が多く聞かれた。それぞれに味わいは少しもの足りなく感じられるが、すべてを一緒に食すると味のバランスは悪くない、とする意見が多く寄せられていた。運営委員からは、せっかくの「うるい」を使った料理であれば、ここは是非とも天然ものを使って欲しかったとの声が。さらにうるいの存在感を引き立てるために、もっと緑色を強調した方が良かったのではないかとする意見もあった。
茶巾織部では、織部ということなら、色目だけでなく焼き目をつけることで香ばしさも演出できたのではないか、とのアドバイスもなされた。赤貝の料理はこれだけで一品になる料理だが、前菜の中にあっては、もう少し酢味が欲しかったという感想が述べられていた。前菜それも白和えに苺を使った面白さへの多くの意見に対して山本氏は「最近は若い女性の方が多いので、前菜の中に何か季節の果実をひとつ加えるようにしている。それだけで最初の料理としての華やかさが本当に違ってくる」との説明を加えた。

大阪料理会

大阪料理会




◆2月のテーマ食材「紋甲烏賊」  大屋友和氏の献立
紋甲烏賊の小袖寿司

紋甲烏賊の小袖寿司

紋甲烏賊の良さを引き出す料理法として低温加熱はどうか。皮むきした烏賊を、昆布と共に甘酒に一晩漬け込む。その身を真空パックし60℃で20分加熱するというもの。寿司飯には苺酢。一方、付け合わせの菠薐草は58℃で10分間蒸している。これも味と色目を考えての低温調理。菠薐草の葉の部分で寿司を巻き、軸の部分は胡麻和えにし、黄身酢を天に付けている。

紋甲烏賊の啜り鱠

紋甲烏賊の啜り鱠

元来は啜り鱠といえば鮮度の良さを生かした料理法だが、ここでは鮮度の良い烏賊をあえて真空冷凍にしている。そもそもこの料理法は、紋甲烏賊だけでなく、いわゆる下足の部分の有効活用法として考えたもの。冷凍した烏賊を昆布出汁と共にミキサーにかけ調味。さらに長芋とろろを加えている。蕗に、独活などを合わせ、酸味の効いた煎り酒ジュレが掛けられている。


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【総評】

低温調理による紋甲烏賊料理。じつに様々な意見が出された。今回の試作では加熱にはスチームコンベクションが使用されている。温度を一定に保つということと、蒸すというこで旨味が多く残るという利点からだろう。「烏賊の新しい提供の仕方として面白い」とする声と、一方ではあえて火を通さないでも昆布と甘酒だけでも充分に旨いのではないか、とする感想なども聞かれた。また運営委員からは「紋甲烏賊は鮮度に尽きる。そうした烏賊を食べさせるには低温調理という考え方もあるだろうが、これは料理人としての『包丁技』ではないか」とする意見も寄せられていた。合わせて「紋甲烏賊の良さは肝にもある。今回はそれがなかったのが残念だった」という感想も述べられた。
紋甲烏賊を啜り鱠については、下足を使った始末料理として参考になったとする意見が多くあった。この際に、菠薐草を色落ちさせない料理法などに対する意見交換がなされた。運営委員からは「野菜の色を留める方法を苦心するのも大事だが、色は野菜の鮮度に大きく左右されるもの。そうした状態を把握する術をまず身につけることが色を考える大前提ではないか」とするコメントが寄せられていた。

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◆2月のテーマ食材「黒鯛(チヌ)」  古池秀人氏の献立
泉州産黒鯛 昆布〆芹醤掛け

泉州産黒鯛 昆布〆芹醤掛け

大阪湾が茅渟の海と呼ばれたことから、黒鯛(ちぬ)が大阪湾を代表する魚のようになっている。しかしながら、黒鯛は汽水域にも多くいることから、おそらくは淀川河口域を代表する魚として知られていたのではないか。ただ、季節によって身肉をクセを持つこの魚を食べる術を熟知していたのも大阪であるとすれば、それはそれで大阪を象徴する魚のひとつかもしれない。今回はそんな黒鯛でも泉州沖で獲れたものが使われた。三枚におろした上身に軽めの塩。これを2時間程度の昆布〆に。春時期に旬を迎える黒鯛だからこそ、今回の試作では芹醤なるものが提案された。北摂の天然の芹を少し干し、これを湯通しして冷水に。軽く塩をあて昆布押しに。これを包丁で刻み、あたり鉢にかけ煎酒で調味している。

泉州産黒鯛 茶巾豆腐 丸仕立て

泉州産黒鯛 茶巾豆腐 丸仕立て

上身にした芹醤の黒鯛、そのいわゆるアラの部分を使っての一品でもある。黒鯛のアラ・頭・腹皮などを霜降りし水洗い。これを酒1:水1で昆布をさして沸かしスープをとり調味は濃口で。アラを取り出して身をさばく。これに焼き葱や、椎茸を合わせ卵で豆腐地を作っている。これを茶巾にとり、二枚鍋にして豆腐を固めていく。最後にスープを加減して椀に張り、忍び生姜に葱そして梅人参を添えて仕上げられている。


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【総評】

よく知られてはいるが実際には料理屋であまり使われることがない黒鯛。その最大の要因とされるのが身肉のクセ味。今回の黒鯛には、そうしたものが全く感じられないことへの驚きのコメントが多く寄せられていた。また質疑応答では芹醤への質問が多くあった。非常に面白く美味とする意見と、もう少し味にインパクトがあっても良かったのでは、と感想も大きく分かれた。運営委員からは「芹は根に香りがある。根をもっと生かした方が良かったのでは」とする意見が寄せられていた。
一方、黒鯛を使った丸仕立ては、そのスープの旨さへの賛辞が多数寄せられていた。丸仕立てには濃口とされているが、その意味はどうかといったことの質疑応答もなされた。最後に黒鯛の内臓への質問も出た。これらについて上野相談役からは、京都における鼈料理が煮物から始まったことから「そもそも濃口であった京都の鼈料理を、淡口の吸い物仕立てにしたのが大阪である」との説明と、それと黒鯛についてはおそらく雑食魚であるため「チヌ内臓は使ってはいけない」とする説明がなされた。

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第9回:北海道「たちかま」

「たちかま」の「たち」とは、スケソウダラやマダラの白子のことを意味する。北海道ではこれらを「たち」「たつ」と呼び、これをもとに作った蒲鉾は、「たちかま」として冬の味覚として親しまれている。蒲鉾といってもいたってシンプル。基本は塩だけで、商品化されたものは、食感を強めるなどのため繋ぎになるもの(片栗粉等)が加えられているものもある。もとは新鮮な白子を使って家庭で茹でるだけでできる蒲鉾だったのだろう。

たちかま共身百合根饅頭

大屋友和氏の献立

たちかま共身百合根饅頭

もともと鱈の白子を使った「たちかま」。今回の試作では、その鱈の上身を共に用いた一品となっている。鱈の上身に塩をして一晩置いて蒸して潰す。これを百合根の裏ごしたものに合わせ上新粉を加えている。ここに「たちかま」を細かく切ったものを入れて饅頭に形どる。これを油で揚げて、仕上げに生海苔餡を掛け、山葵・浜防風をあしらっている。北海道の名産ではあるが、白子を使った「たちかま」は店でも独自なものを作ることが容易なことから、一度作ってみたいとする感想が多く聞かれた。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆