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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第87回〉
2018年 3月

本定例会が開催された3月最終週は過去百年に例がないという連続した夏日となった。4月の前菜テーマに選ばれた桜も4月には散り始めることになりそうだ。また今回のテーマ食材も「筍」も3月では少し早いかと思われたが、これも出盛りとなった。季節感を大切にするのが日本料理、その季節感を捉まえるのがこれからさらに難しくなる。



山崎浩史さん 山崎浩史さん
旬菜「山崎」
お店HP
ぐるなび
佐野亨一さん 佐野亨一さん
大阪御数料理会
布谷浩二さん 布谷浩二さん
北新地「うの和」
お店HP
ぐるなび



◆4月の前菜テーマ「観桜 〜花見串三種〜」 山崎浩史氏による前菜料理
前菜「観桜 〜花見串三種〜」

観桜 〜花見串三種〜

・壱乃串
『子持ち昆布』
『パン茶巾』
『海老黄身鮓』

・弐乃串
『百合根雲丹焼』
『鰻八幡』
『碓井豆茶巾』

・参乃串
『厚焼玉子 白玉味噌』
『合鴨ロース 赤玉味噌』
『あぶらぼうず 蕗味噌漬』

【料理について】

いわば花見団子をモチーフに「観桜」を表現したユニークな前菜。こうした自由度の高い遊びができるのも日本料理の良さだろう。串は3本で各3種、合計9品の前菜料理が楽しめるという趣向になっている。先ず壱の串には、子持ち昆布のおかき衣揚。鯛の子のパン茶巾、鯛の子は、塩した後に焼酎に漬け込み天日で干している。海老の黄身鮓では、海老を塩麹漬けた後、低温で蒸し、芋ずしで挟んでいる。弐の串には、湯がいた百合根に雲丹をのせ焼きものに。鰻八幡では牛蒡は直焚きとしている。碓井の茶巾は湯がき裏濾して調味している。参の串では、すり身に卵黄の厚焼玉子と低温調理した合鴨ロース、そしてアブラボウズを荒味噌を味醂でのばしたものに床漬けしている。頃合いに脂が抜けたアブラボウズは前菜珍味に相応しい。


【総評】

観桜といえば酒がつきもの。まさにそんな「酒が欲しくなる前菜」という賛辞が多く寄せられた。また桜に負けず、三種各々の彩りの美しさは楽しい場の雰囲気を盛り上げてくれるのでは、とする評も聞かれた。料理に対する質問としては、百合根の硬さ加減に関するものや、アブラボウズという食材について多くの質疑応答がなされた。荒味噌を甘酒でのばすというのは、味醂の代わりではあるがクセのあるこうした魚にはちょうど良かったのではないかとする声もあった。海老の黄身鮓では、あえて冷凍の海老が使用されたが、これは冷凍海老を塩麹に浸けることによる味わいを狙ったものとして評価できる、とする意見などが運営委員から寄せられていた。最後に串料理について様々な意見交換がなされた。
その中で運営委員の中から「せっかくそれぞれ3種の食材が串打されているのだから、そこに色や春の細かな旬の時間的な経緯を食べる人が各料理に観ることができる工夫があればよかった」とのアドバイスがあった。串料理ひとつにも、そこに何かの演出があれば、さらに日本料理の情感を出すことができるとの意であったように思う。

大阪料理会

大阪料理会




◆3月のテーマ食材「寒干大根」  佐野亨一氏の献立
干し大根挟み揚げ

干し大根挟み揚げ

寒干大根を使う意味。それは毎年大根の旬としては2月頃だが、その旬を過ぎて味わう大根として干し大根を見直すところにこうした料理の意味がある。先ずは寒干し大根と干し貝柱を一晩水に浸け、火にかける。丹念にアクを除きながら淡口などを使い調味していく。次に輪切りにした丸大根の干し大根を水で戻し、さらにさきほどの戻し汁で歯ごたえが残る程度に煮て、味にアクセントをつけるために豆板醤を加えている。クリームチーズに酒粕を混ぜ、戻し大根と混ぜる。輪切りの干し大根でこれを挟みシューマイの皮で揚げいる。

干し大根共合え

干し大根共合え

同じく干し大根を使った共和えは、戻し大根を1cm角に切り、こちらも干し貝柱を用いている。オリーブオイルで炒めて、戻し汁を入れ地がなくなるまで焚きあげる。新たに戻した大根を焚き、今度はこれをミキサーにかけペースト状にして酢を加え煮つめ、和え衣を作っている。戻しておいた干し大根に、地漬けしておいた絹さやなどを、さきほどの干し大根衣で和えている。


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【総評】

「干し大根でもここまでできるのか」という感想が多く聞かれた。今回特に質問が多くあったのは干し大根そのものへの質問。実際に使用された干し大根は、いわゆる細長い青首系大根を干したものと、聖護院大根のような丸大根を輪切り状にして干し大根としたもの、そして紅芯大根のような色のついたものを干したもの。同じ大根だが、味や食感などが違うところに質問が集中した。佐野氏によると「今回使用した干し大根はすべて市販品。その理由は、干し大根は作る状況などで品質に大きなばらつきがでる。いわゆる直売所等で売られている干し大根は、中には使えないようなものも多いのが事実。一定の条件の下で作られた干し大根を使っていくことも必要ではないか」と質疑応答の中で答えた。
料理そのものについては「非常にほっこりとさせられる味わい」という声や、「大根が淡泊なだけに酒粕が少し強すぎたのでは」といった指摘などもなされていた。

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◆3月のテーマ食材「筍」  布谷浩二氏の献立
筍豆腐田楽

筍豆腐田楽

筍にはどうしても料理屋としては料理しづらい部位がある。今回の試作にはそうした部位を活かそうという狙いがある。筍を無駄なく活用する、それならば筍を千切りしてはどうかというユニークな発想が強く感じられる。生のままの筍を桂にむいて千切りに。これをとぎ汁などで作った地に一定時間浸け込む。これをサッと洗い煮込み出汁で炊きあげている。千切りした筍の1/2の木綿豆腐をあたり、山芋とろろをいれ混ぜて調味。筍を混ぜ込んで流し函で蒸し扇型にとっている。これを素焼きした後に、木の芽味噌などを塗り焼き上げている。

飛龍頭照焼き

飛龍頭照焼き

飛龍頭は木綿豆腐を水切りし、山芋と塩を加え混ぜ合わせている。木耳が千切りに。春の飛龍頭ということで筍の他にアスパラや椎茸などを加え八方地で焚いている。これを素揚げし、油抜きしてから、再度焼き上げている。仕上げには掛け醤油が使われている。この料理には大阪菊菜と切干し大根の白和えが添えられている。この菊菜は繊維質の強い葉の部分だけを使うことでしゃきっとした歯ごたえの味わい深い白和えとなっている。


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【総評】

「千切りした筍がどうなるのかと心配したが、素晴らしい一品になっている。驚いた」という賛辞が多くあった。さらに「筍の食感を活かした料理のひとつとして高く評価したい」といった感想なども聞かれた。料理についての質疑応答では、筍のアク抜きについての質問が多くあった。ここでは、とぎ汁に加えて、大根おろし汁や酒などを使った布谷氏独自のアク抜き法などが披露された。千切りにして熱を加えないで、生のままアクを抜き。さらにそれを焚いて調味していくという手法は非常に面白く参加した会員はそのプロセスの説明に聞き入っていた。また豆腐に黒味醂を使った狙いや、また飛龍頭では、どうして揚げた後にもう一度焼いたのか、という質問に対して、布谷氏は「いずれも香りに重点を置きたかった」と答えていたのが印象的であった。

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第10回:和歌山県 日置川町「鮎チョビ」

和歌山県にある日置川は天然鮎の遡上が多く、それがため小形の鮎が多いと云われる。そんな少し商品になりにくい鮎を使って加工されたのが今回の「鮎チョビ」。カタクチイワシの塩漬けをオリーブオイルに浸したものを「アンチョビ」と呼ぶが、それを鮎で作ったのがこの商品。半年から1年以上すればさらに味がなれて美味になるとされている。

焼目長芋煮 鮎チョビ玉子餡

佐野亨一氏の献立

焼目長芋煮 鮎チョビ玉子餡

長芋の皮目を焼き、柔らかく煮ていく。鮎チョビは瓶中の鮎と共にそのオリーブオイルでサッと炒めて刃叩き、これに玉子と出汁を合わせて火にかける。これを裏ごしし再度火にかけ水溶き片栗粉で餡を作る。鮎チョビで玉子餡を作るというのも面白いが、長芋を皮付きのまま煮るという発想の方が極めてユニークで驚かされる。


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鮎チョビ白蒸し

布谷浩二氏の献立

鮎チョビ白蒸し

餅米を洗って昆布出汁に1時間浸け、それを昆布出汁から上げ蒸し器で30分蒸しあげる。残った昆布出汁に鮎チョビのオリーブオイルと酒そして塩を入れ、10分に一度程度打ち水を行う。鮎チョビと焼いた小鮎を入れて蒸らして混ぜ入れ急速冷却する。フルーツトマトの皮をむき、小さめにカットし、昆布出汁に淡口を加え硬さが残る程度で火を入れた後、荒熱をとる。これをミキサーに鮎チョビと焼いた鮎の肝なども入れ混ぜ鮎チョビソースを作る。鮎チョビを使った夏らしい汎用性の高いソースとして、他の夏食材と合わせてみてもいいだろう。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆