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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第88回〉
2018年 4月

今年も新しい期がスタートした。4月からは会長席にランダムに選ばれた会員が着席し、毎回感想や評を述べるという形式が取られる。会長は都度にテーブル席を代わり、これまでとは違った視点から試作料理を味わい評する。好評の特別テーマは2名が別々のテーマで挑むというスタイルで行われた。



辻 宏弥さん 辻 宏弥さん
法善寺「浅草」
お店HP
ぐるなび
大引伸昭さん 大引伸昭さん
辻調理師専門学校
長内敬之さん 長内敬之さん
旬鮮和楽「さな井」
ぐるなび



◆5月の前菜テーマ「端午節句」 辻 宏弥氏による前菜料理
前菜「端午節句」

端午節句

・兜桜海老寿司
・鯉の鎧焚き
・矢羽蕃茄
・碓井豌豆 菜種畑寄せ
・鯛の子幽庵焼き 新茶餡掛け

【料理について】

端午の節句料理といえば、いわゆる定番料理が頭に浮かぶ。しかし今回の前菜には面白い試みが見られた。先ずは兜をイメージした寿司を桜海老で表現した一品。乾煎りした桜海老を粉末にし、シャリと桜海老粉を混ぜスダチを利かせる。大阪らしく箱寿司として桜海老を挟んでいる。次は鯉のぼりをイメージした鎧焚き。長野県「佐久鯉」を使い三枚にした後に骨きりしている。霜降りし、鱗も上手く焚きあげている。次は矢羽根をトマトで表現。焼いたトマトをペーストにし乳化。新ジャガを蒸し調味してミキサーへ。各々のペーストを流し函で矢羽に切り出している。菜種の季節を碓井豌豆で表現。豌豆を鰹出汁でのばしペーストに。これを流し函で固め、道明寺粉を色づけし戻し道明寺粉が浮く程度に固め、これを碓井ペーストの上に流している。最後は桜鯛の子と新茶。鯛の子は幽庵地に浸け焼いている。これに新茶餡を作り鯛の子の上に掛けている。


【総評】

端午の節句らしさだけでなく季節感が強く感じられた、との評が多く寄せられた。また日本料理で端午節句の表現といえば「柏餅」「粽」が定番だが、ここでは新たな端午節句への試みが見られた、との賛辞も少なくなかった。各々の料理への質問が寄せられたが、中でも鯉という食材への質問が多かった。鱗まで美味しく食べられる活の鯉だが、現在は使う料理屋も少なく良質な鯉が安価に手に入ることなど、鯉の魅力を辻氏が紹介した。次に非常に美しく仕上がっている流しものについての質疑応答がなされた。運営委員の中からは「きれいに色分けされた流しものも美しいが、色が混じり合う中にみる彩りにも良さがあるのではないか」といった意見も聞かれた。最後に「全体に手間がかけられた美しい前菜だが、同じような味が続いてしまう印象を食べ手に与えてしまわないか」といったアドバイスがなされていた。

大阪料理会
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◆4月のテーマ食材「桜鯛」  大引伸昭氏の献立
桜鯛蒸し焼き 鯛塩辛胡麻クリーム

桜鯛蒸し焼き
鯛塩辛胡麻クリーム

桜鯛のシーズン。造り身はもちろん日本料理では様々な料理法が駆使されるが、蒸し焼きといった料理法は以外と試みられていないのではないか。そこに着目しての試作料理。三枚に卸した桜鯛は皮を引いて塩をして置いている。アラは梨割にして塩。鯛の皮は、調味したオリーブ油に漬けこみ、オーブンで焼き後、油でさっと揚げている。筍は下処理して、茹で煮汁で煮ている。葱、玉ねぎはスライス。トマトは湯むきして角切りに。鍋に鯛あら、葱、玉葱、トマトを加え炒め、全体に油が馴染めば酒、昆布を加えて中火で煮込み、鯛だしを引いている。鯛塩辛胡麻クリームは、鯛の塩辛をすり鉢にかけ、胡麻等で調味。さらに固さは鯛だしで調節している。桜鯛を切り分けオーブンバットに並べ、切り身がある程度が浸かるまで鯛だしを入れ、紙蓋をしてオーブンで蒸し焼きに。器に敷いた塩辛胡麻クリームに鯛の身を盛り付けている。

【総評】

「なんとも春らしい一品」という感想が多く聞かれた。また「鯛塩辛胡麻クリーム」が絶品との賛辞も多くあった。質疑応答もこの鯛塩辛クリームに集中する形になった。ただ、西洋料理ではベーシックとされる蒸し焼きについては意見が分かれた。
「せっかくの鯛の身が少しパサついた感じになっているのではないか」といった意見も聞かれた。運営委員の中からは「鯛の皮の旨みに着目して別途料理したのはよいが、鯛の皮の旨みは身との間で味わうことを考えると皮付きであった方がよかったのでは」とするアドバイスがなされた。それと鯛の塩辛の作り方についての質疑応答に加えて、筍の下処理として重曹を使用する方法などが詳細に披露された。

大阪料理会
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◆4月のテーマ食材「海松貝」  長内敬之氏の献立
海松貝飯蒸し

海松貝飯蒸し

ミル貝には、一般的に白みる貝と本みる貝と呼ばれているものがある。本ミル貝は値段も高く稀少とされている。しかし食べ比べてみるとどうか。二種のミル貝をひとつの料理の中で食することで、各々の持ち味を知るというのが今回の試作料理の狙いではなかろうか。先ずは、白ミル貝。これを太白油、純正胡麻、のびると共にフリーザーバックに入れ低温で湯煎してから冷ます。これは熱を入れることで貝の身を損なわないためである。肝と身は分け、肝は叩き、身は適当な大きさに切る。
次に、本みる貝は造り用に裁き、肝はボイル。洗った餅米を、みじん生姜などを加えながらフライパンで炒め、最後に昆布出汁を入れ、水分がなくなるまで強火で焚き、蒸し器に移して蒸している。蒸した終えた餅米を器に入れ、白ミル貝、本ミル貝、肝スライスを盛りつけ、白ミル貝を湯煎した時にとった出汁と一番出汁で餡を作り掛けられている。

【総評】

「貝の旨みを上手く閉じ込めた逸品」との賛辞の他、「ミル貝の香りが残っている、すばらしい飯蒸し」との高評が相次いだ。さらに「貝にニラではなくノビルを使っているところも勉強になった」との声もあった。見た目はシンプルな飯蒸しだが、そこに詰まった様々な工夫と多彩な仕事に質疑応答が多くなされた。太白油だけでなく焙煎された純正胡麻油などを巧みに使った点、湯煎における微妙な温度帯、また通常とは異なった飯蒸しの作り方の妙などについての質問がなされた。

大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第11回:福岡県 宗像市「のうさば」/福井県「寒干鱈」

福岡県の「のうさば」とは、サバではなくサメ。体長40〜50cm程度のホシザメを正月食材として干したもの。福井県の「寒干鱈」というのは、福井だけでなく北海道をはじめ日本海側の伝統食となっている干鱈(ひだら)を総称とするもの。スケソウダラやマダラを干し上げたものであり、地域の大切な保存食ともなっている。

のうさば煮凝り 菜の花、プチトマト、花穂紫蘇針生姜
大阪料理会 大阪料理会

大引伸昭氏の献立

のうさば煮凝り
菜の花、プチトマト、花穂紫蘇針生姜

「のうさば」は熱湯に漬けて表面を柔らかくし、ぬるま湯に移しサメ皮を指でこすりながら取る。これを長さ1cm幅の短冊に切り、さらに重曹を加えた熱湯で茹で水にさらす。のうさばの煮汁を鍋に合わせ、のうさばを加え蒸し器で蒸し煮にする。一晩おいて味を含ませれば煮凝る。トマトは湯むきしてミキサーにかけ、さらし袋に入れて汁をとる。のうさばに菜の花、プチトマト、針生姜を混ぜ合わせて器に盛り付けトマトウォーター等を振り掛ける。


寒干鱈寄せ
大阪料理会 大阪料理会

長内敬之氏の献立

寒干鱈寄せ

寒干鱈を適当に切り、二晩水をかえながら塩抜きする。太白胡麻油と鱈をフリーザーバックに入れて温水48℃で90分湯煎。氷水に落とし、完全に冷めてからほぐしながら小骨を取る。八方出汁に一番出汁に粉ゼラチンをを入れて煮溶かす。細巻海老は伸び串を打って焚き、甘草は湯がいて地につける。ほぐした鱈半分を生湯葉で和えておく。湯葉和えした鱈、甘草、海老、ほぐした鱈の順にゼリー液で固める。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆