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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第89回〉
2018年 5月

例年よりも早く九州地方が梅雨入り。大阪でもこの日は早朝から雨模様。温暖化の関係か季節そのものが早く移っているように感じられる。そんな雨模様に相応しく、本会での前菜料理のテーマには梅雨の到来を予感させる紫陽花等をイメージしたものが披露された。テーマでは大阪名物のひとつ、水茄子に合鴨。特別テーマでは沖縄のイラブー(海蛇)が登場した。



島村雅晴さん 島村雅晴さん
「雲鶴」
お店HP
ぐるなび
東迎高清さん 東迎高清さん
おおさか料理『浅井東迎』
お店HP
ぐるなび
板倉誠司さん 板倉誠司さん
旬菜「喜いち」
ぐるなび



◆6月の前菜テーマ「滴奏四葩咲く 〜しずくかなでてよひらさく〜」 島村雅晴氏による前菜料理
前菜「滴奏四葩咲く 〜しずくかなでてよひらさく〜」 しずくかなでてよひらさく

滴奏四葩咲く

・白芋茎と合鴨の生ハム 緑酢掛け
・小芋と沢蟹餡 卯ノ花包み
・鮎麹漬け
・琵琶鱒酒焼き
・紫陽花錦玉羹

【料理について】

テーマの中にある「四葩」とは紫陽花のことであろう。島村氏によれば、梅雨時期の苔むした古寺からの眺めをイメージし前菜五種で表現。白芋茎と合鴨の生ハムにおける緑酢は苔そのものをイメージさせている。合鴨ロースは漬け地でフリーザーバックに入れて冷蔵。白芋茎は干し椎茸出汁で焚いている。緑酢は胡瓜を色出し卸したものを調味している。小芋と沢蟹の卯の花包みも、山寺らしい一品。沢蟹は丸ごと焼いて潰し玉葱などの昆布酒出汁で煮込んで濾している。おからは炊いて青寄せ、抹茶で調色している。鮎の麹漬けでは、甘酒を使っての麹漬けとし、食感に瓜を忍ばせている。琵琶鱒は玉酒に漬けて焼き、仕上げに皮目に醤を塗って炙っている。紫陽花そのものを表現した玉羹は、ブランデー漬けしたサクランボ、糸寒天に赤ワインの2種で四葩とし、中には白餡。最後に牛乳羹を掛けて固めている。


【総評】

繊細で細やかで計算された料理が島村氏らしいとの声が多く聞かれた。特に合鴨における漬け地の割合についてと、その意味を問う質問があった。質問に答えて島村氏は「細かなレシピは、そうしようと計ったものではなく、狙った味わいから逆算して算出した結果」であると述べた。今回の前菜についても、先ずは自分自身で句を作ってイメージし、それを前菜に置き換えたとのことである。料理そのものについて様々な声が寄せられた。「全体的に食感の変化がもう少しあってもよかった」というものから、非常に工夫された料理ではあるが「素材そのものの味がしないように感じた」とする意見などもあった。また違った視点から、前菜料理というのは最初からあまり酒が進まないようにする工夫も必要。そうした意味ではこの前菜は良かったのではないか、という感想があった。

大阪料理会
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◆5月のテーマ食材「水茄子」  板倉誠司氏の献立
水茄子のすり流

水茄子のすり流

水茄子といえば生食もしくは漬物というイメージが強い。今回はその生食感を魚介同様にすり流しにするという試作料理。皮をむいた水茄子は油で炒めペーストに。これを出汁で調味し、すり流しをつくる。牡丹花に見立てた水茄子も同様に油で揚げている。調味した出汁に粉寒天等。共に流し函へ。天に黄身玉子等が飾られている。


大阪料理会
水茄子と甘海老の煎り出汁

水茄子と甘海老の煎り出汁

泉州の郷土料理にもあるように、水茄子と海老とは相性の良いいわゆる出会いもの。それをベースに考案された大阪料理。皮をむいた甘海老の頭と皮をボイルし乾燥。調味した地に乾燥させた海老の殻を入れ、火を入れてから濾している。皮をむいた水茄子で甘海老を挟み、これをフライパンで焼いてカット。細切りし揚げた水茄子の皮、大根おろしに葱を天に盛って出汁が張られている。

【総評】

「水茄子をすり流しにするという発想に驚かされた」という感想が多くあった。また奇抜なことをせず、昔から水茄子と最も相性が良いとされる油と海老を巧みに組み合わせた手法は参考になる、との評も聞かれた。ただ、すり流しについて云えば、「飲み終えた時の後味に、茄子独特のアクが残るのが気になった」とする意見があった。運営委員の中からは「味噌を組み合わせることで、後味の良さとコクともっと出せるのではないか」とするアドバイスがあった。甘海老を使った一品では、大阪料理なので甘海老よりトビアラがよかったのではないかとする声と共に、海老の臭みをとるために殻を一度ボイルしたことで、海老の風味が少し失われたのでは、との意見と合わせて、海老の殻の臭みを除くヒントなども披露された。

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◆5月のテーマ食材「大阪家鴨」  東迎高清氏の献立
大阪合鴨の茶碗蒸し 〜八尾・高橋養鶏場合鴨〜

大阪合鴨の茶碗蒸し
〜八尾・高橋養鶏場合鴨〜

大阪では水田における農法として合鴨の導入が早期より行われていたこともあり名物のひとつとなっている。現在では鴨とはいうものの、海外のアヒル種を活用したものなので、正しくは大阪家鴨と呼んだ方がよいかもしれない。さて今回の料理ではその合鴨の肝を活用しての一品。合鴨の肝の筋を丁寧に取り除き、牛乳に漬け込みながら時間をかけて血抜きしていく。これと玉葱・ニンニク等を炒めワインを加え煮きったものとをプロセッサーへ。さらに溶かしバターを加え裏濾しにかけ流し函に。これをオーブンにかけ、いわゆるレバーパテを作る。これを裏濾しにかけたものと、昆布出汁等を合わせ茶碗蒸しの地を作っている。合鴨のロースは薄めに切って葛打ちし茶碗蒸しの餡で火を通している。

【総評】

「合鴨の肝というだけで臭みを心配したが、まったくそうしたものを感じず旨い肝を食べているという幸せ感を食べ手に与えてくれる」「肝なのだけれど、このなめらかさは見事」など様々な賛辞の声が多くあった。それだけに肝の処理についての事細かな質疑応答が行われた。運営委員の中からは、「この料理の手法は、フランス料理におけるフランを思わせるものがある。素材を細かく裏濾すことで、素材の持ち味をより濃く抽出しながらなめらかさも楽しめる。今回の料理はそうした意味においてまさに和魂洋才といえる」との評が聞かれた。また今回使われた高橋養鶏場の合鴨。大阪で合鴨といえば河内鴨などが有名だが、同じ八尾地区の中でも違った合鴨が楽しめる養鶏場があることが分かったという収穫も大きい。

大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第12回:沖縄県「イラブー」

イラブーとはウミヘビのことで、ハブの70倍の毒を持つとされる。一般的には燻製乾燥させたものが売られている。沖縄では祭事や法事などで今も食している。料理法としては時間をかけてもどし出汁をとり身肉も食する。かつての宮廷料理で薬効があるとされている。

のうさば煮凝り 菜の花、プチトマト、花穂紫蘇針生姜
大阪料理会 大阪料理会

東迎高清氏の献立

イラブーシンジ
白味噌仕立て

シンジーとは煎(せん)じた汁のことであり、そうした料理を意味する。ここではイラブーの表面をバーナーで炙って脂をうかせとる。次に米糠にぬるま湯を加えたものでその汚れを洗い落としている。鍋に水と酒、さし昆布をして気長にアクをとりながら煮詰めることでシンジーをとっていく。イラブーは身肉をほぐす。ヘチマの皮をむいて色出しし、旨出汁で焚いておく。皮付きの豚肉を昆布出汁でもどして切り出す。先ほどのシンジーと旨出汁を合わせたものに白味噌等で調味することで椀物仕立てとする。天に盛られているのがイラブーの身肉である。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆