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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第90回〉
2018年 6月

本会開催の前週18日。大阪の北部を震源とする地震が発生。枚方や吹田など大阪料理会の会員店の中からも被害の報告が届いた。一刻も早い復旧を願うばかりである。さて、今月は祭り月となる七月の前ということで、テーマには2名の会員が鱧を選択。それぞれに異なった視点からの料理が披露された。また前菜には大阪の五種の夏魚菜による面白い試みがなされた。



辻宏弥さん 辻宏弥さん
法善寺「浅草」
お店HP
ぐるなび
石橋慶喜さん 石橋慶喜さん
日本料理 慶喜
ぐるなび
坂本靖彦さん 坂本靖彦さん
割烹「さか本」
ぐるなび



◆7月の前菜テーマ「夏野菜涼羹仕立」 辻宏弥氏による前菜料理
前菜「夏野菜涼羹仕立」

夏野菜涼羹仕立

・八尾枝豆の和泉蛸ずんだ餅擬(もど)き
・鱧かりんとう
・鮎八橋
・氷室蕃茄
・(猪口)胡瓜水仙 土佐酢掛け

【料理について】

前菜料理を夏の魚菜で、それも和菓子のような楽しさを持った仕立てにできないかということをテーマに取り組んだのが今回の「夏野菜涼羹仕立」。ここで言う羹とは餅菓子つまり和菓子を意味している。
先ずは、八尾枝豆を使った、ずんだ餡(あん)。泉州の和泉蛸を霜降りし、柔らか仕立てにして餅に見立てている。次に、鱧の尻尾などの余った部分を活用しての鱧かりんと。骨きりした鱧をカリカリになるまで揚げ、かりんとう地でからめている。鮎八橋は、鮎を使ったいわば和製ブランダード(魚介のペースト料理)。三枚におろした鮎に塩をし、昆布出汁で焚き、これを裏濾したジャガイモと混ぜ太白ゴマ油で滑らかにしている。トマトを使った氷室は、湯むきしたミニトマトを蜜漬けし、蜜地に固めている。胡瓜水仙は、すりおろした毛馬胡瓜を濾して葛を混ぜ、汁巻き鍋に流して熱湯におとし、透明になったところであげて、葛きりの大きさに切って地洗いしている。


【総評】

「いろんな意味でとてもまとまった前菜であった」との評が寄せられていた。料理各々に質問は出たが、中でも鱧を無駄なく使った「かりんとう」への賛辞が多くあった。「単純に美味しいというだけでなく、汎用性も非常に高い」とする声もあった。
また、蛸を餅に見立てた料理についても「蛸の食感がだんごを彷彿させるところがあって面白い」とする意見があった。鮎の八橋については、発想はすばらしく興味深い料理だが、「鮎の最大の特長である快い苦味そして香りがあれば」さらに良かったのではないかとするアドバイスも出た。胡瓜水仙については、完成度は高いとする一方、鰹の風味をもっと押さえた方が狙いにそったものになったのではとする意見、そして運営委員からは、この料理にさらに磨きをかけて新しい夏の大阪の「精進料理」として見立ててみてもよいのではないかとのコメントが寄せられていた。

大阪料理会
大阪料理会




◆6月のテーマ食材「鱧子」  坂本靖彦氏の献立
鱧の子 煮こごり

【総評】

「ゼラチンで固めたものとは、口溶けの感じが全く違う」とする賛辞の声が多数寄せられた。また「元来は、煮こごりはその素材が持つ力で固めてこその料理であることを再認識させられた」さらに「昔ながらの料理法を今一度見直す大切さを実感した」とするコメントなども聞かれた。最近では魚商の間でも、鱧の子が売れないという声がよく聞かれる。坂本氏によると「鱧の浮き袋で煮こごらせるとなると多くの浮き袋が必要になる。料理屋でよく使う鱧なので、店で都度に貯めておくことはもちろん、魚屋に頼めば無償で提供してくれることも最近では多い」、そうである。鱧の子が売れないとする声は最近よく耳にするが、それはおそらくは韓国産の鱧を多く使用していることに由来していると思われる。

鱧の子 煮こごり

夏には高値となる鱧だが、意外と使われなくなったのが鱧の子や内臓である浮き袋。今回の料理ではそうしたものを今一度見直してはどうかとする坂本氏の考えと、煮こごり料理の本来あるべき姿を今一度問いかけてみたいとする狙いがあったのではないか。鱧の子と浮き袋は下処理を行った後に、霜降りを行う。一番出汁に酒、味醂、淡口醤油などで調味した地で1時間程度焚き、荒熱がとれればそのまま器に入れて冷ます。ゼラチンなどは使用せず、本来鱧が持っているそのものだけで煮こごりを作るところに、この料理のポイントがあるのではなかろうか。


大阪料理会
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◆6月のテーマ食材「泉州鱧」  石橋慶喜氏の献立
鱧昆布〆 毛馬胡瓜巻き

鱧昆布〆 毛馬胡瓜巻き

大阪には有名な「鱧皮と毛馬胡瓜のざくざく」という惣菜料理がある。それほどに鱧と胡瓜との相性は大阪好みで良いわけだが、さらにこれを料理屋風に仕立てたのが今回の料理ではなかろうか。骨きりした鱧は昆布〆に。毛馬胡瓜は細切りにして塩水にとる。これを昆布〆した鱧で巻き、さらに鱧と相性が良いとされる梅が梅酢(梅干白漬ピュレ+トマトウォーター)として添えられている。


大阪料理会
鱧々寄せ

鱧々寄せ

鱧のすべてを使い切る料理。つまり鱧を鱧で寄せるというのが本料理の狙いとなっている。骨きりした鱧は皮をひき、上身は真空で48℃での真空調理としている。鱧の粗の部分は霜降りして出汁をとっている。鱧の皮も霜降りし、先の鱧出汁で炊いている。鱧のスープに浮き袋入れて南関揚げと共に焚き、それぞれを重ねて流し缶へ流している。泉州の鱧は韓国産に比べ皮が少し固いとされているが、その皮の固さと旨みをうまく料理へと昇華させた一品である。まさに料理の才、そしてセンスが感じられる鱧寄せといえよう。

【総評】

「鱧の昆布〆、塩を全く使わないで昆布の塩味だけで見事に味が乗っているのに驚かされた」とするコメントが聞かれた。さらに「鱧と毛馬胡瓜との相性は味わいだけでなく、相互の食感にあることがよく分かった」とする感想などもあった。一般的に泉州産の鱧は皮が固いなどのイメージがあるが、韓国産にはない味わいや良さがある、という意見が意外と多くあった。鱧寄せは、現代的な低温調理法と昔ながらの煮凝り法を合わせた一品。これからの日本料理のあり方を示唆するかのようなアイデアが詰まった鱧料理の試作だったといえよう。

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第13回:福岡県「ワケノシンノス」

ワケンシンノスは2度目の登場となる。有明海沿岸域で広く食用とされるイソギンチャクだが、独特な臭いや下処理が大変なことで敬遠される食材としても知られている。前回は揚げ物として紹介されたが、今回は大阪らしく佃煮と白味噌仕立てでの再登場となった。

磯巾着の佃煮/磯巾着の白味噌煮
大阪料理会 大阪料理会

坂本靖彦氏の献立

磯巾着の佃煮
磯巾着の白味噌煮

ワケンシンノスの下処理は、最初に縦半分に切りしっかりと不純物を取り除く。これを塩で揉んで滑りを除いていく。処理し終わったものを霜降りするが、この際にさらに滑りが出るのでふき取っておく。佃煮は、酒・水・濃口醤油・たまり醤油・味醂・砂糖を使い佃煮とする。白味噌煮は、出汁に白味噌を合わせ1時間程度焚く。これを笹がき牛蒡を針うち状にしたものと、下処理した磯巾着を入れてさらに焚いている。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆