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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第91回〉
2018年 7月

本会が開催された7月25日は大阪天満宮の天神祭にあたる。大阪の天神祭は、京都の祇園祭、東京の神田祭と共に日本の三大祭とされ、また七月に大阪随所で執り行われる祭の中でも、大阪三大夏祭(愛染祭・住吉祭)に数えられている。天神祭の諸行事は約一カ月間行われるが、大川(旧淀川)での船渡御、そして奉納花火があがる25日は本宮つまりクライマックスにあたる。そうしたことから本会では今回特別に天神祭の前菜が披露され、テーマには「見立て料理」などの試作が発表された。



城崎栄一さん 城崎栄一さん
吹田「じょう崎」
ぐるなび
北野博一さん 北野博一さん
日本料理 喜一
お店HP
ぐるなび
西野保孝さん 西野保孝さん
山海料理「仁志乃」
お店HP
ぐるなび



◆8月の前菜テーマ「天神祭」 城崎栄一氏による前菜料理
前菜「天神祭」

天神祭

・酢蛸毛馬胡瓜巻き
・鱸梅味噌焼き
・白天真蒸かいわれジュレ
・鰺のつみれ田舎味噌餡
・鱧寿司

【料理について】

天神祭の料理、とよく云われるが決まった型があるわけではない。ただ、天神祭は昔から商都の民の力だけで開催され、そのため船場あたりで食されてきたものが天神祭の料理と呼ばれるようになったと考えられる。そんな食材をもとに前菜に仕上げられたのが今回の試作だろう。酢蛸の毛馬胡瓜巻きは、天神祭に付き物の「鱧皮ざくざく」のアレンジだ。蛸は90℃で90分間、実に柔らかく蒸されている。大阪の夏の魚の一つである鱸は梅味噌焼きにしている。裏濾しし、調味した漬け梅に玉味噌と玉子の素とのバランスが料理屋的で良い。白天とは木耳の天麩羅(薩摩揚)。ここでは吸地に浸けた木耳を炊き、魚の白身に卵白などで味付けしたもので白天を自作している。大阪好みのかいわれ大根はペーストにゼラチンで固めジュレとしている。鰺もまた天神祭にはよく食される。鰺はなめろう状にして丸にとり、蒸す。これに味噌汁の上澄みを葛引きした味噌餡を掛けている。大阪の夏祭では鱧も食されるが京都ほど主役になるものではない。ここでは鱧の骨でとった鱧出汁の鱧ダレで照り焼きとし、鱧寿司に仕上げられている。


【総評】

天神祭を前菜として仕上げる良いヒントになった、とする意見が多くあった。特に天神祭といえば大阪的な白天が必ず供されるが、ほとんどが椀物仕上げ。「白天もこうすれば汁物としてではなく前菜になるのかと驚かされた」とする声が寄せられていた。また鰺のつみれについては、「少し臭みが出るのではないかと心配したが、これなら冷製の一品としても大丈夫ではないか」とするコメントもあった。天神祭の料理について相談役は、「食材で表現するのも一つだが、天神祭といえばやはり川、そして船。こうした食べ手にダイレクトにイメージさせるような趣向も面白いのでは」とするアドバイスがあった。また運営委員からは「25日の天神祭は船渡御そして花火と夕刻から川沿いで行われるものが多く、街中で行われる祇園祭と違って祭の雰囲気を楽しみながら料理屋に行くことが難しい。天神祭の諸行事は一カ月間あるので七月にこうした趣向で客に天神祭の雰囲気を先に愉しんでもらえれば、七月の料理屋はもっと盛り上がるはず」と会員に向けて呼びかけた。

大阪料理会
大阪料理会




◆7月のテーマ食材「見立料理(白木耳)」  北野博一氏の献立

見立料理は料亭料理から発祥したものとされている。見立料理にも様々あり、精進のように見立てなければ食することができない事情から生まれたものもあれば、見立てることで、栄養面などさらに特定の目的に適った料理とするものまである。今回の見立料理に使用された食材が「白木耳」。白木耳は薬効が認められながらも国内生産は数パーセントであり、ほとんどを海外からの輸入に頼っている食材のひとつ。その白木耳を奈良で栽培し周年出荷する動きがあり、今回のテーマ食材として選ばれた。

鱶鰭スープ見立て

鱶鰭スープ見立て

生の白木耳を塩〆した後に昆布〆。スープは鶏・豚・金華ハム・野菜類を用い、1時間以上かけてとっている。白木耳は片栗粉で粉打し熱湯にくぐらせることで鱶鰭のゼラチン質を表現し、調味したスープと合わせている。


大阪料理会
塩海月見立て 胡麻合いまぜ/白木耳 麺見立て

塩海月見立て 胡麻合いまぜ
白木耳麺見立て

「塩海月(くらげ)見立て」は、白木耳を天火で炙ることで水分を除き、海月独特な食感に近づけている。胡瓜は立て塩に。干し椎茸は戻した後、戻し汁で甘辛く煮込んでいる。白木耳は輪切りにし、時間をかけて擂った胡麻と大村屋製の煉り胡麻で和え物としている。 「麺見立て」は、白木耳を千切りにし、薄塩に10分間浸し、片栗粉をまぶしたものを出汁でボイルすることで麺としている。

【総評】

白木耳は、「色そして食感に加え、疲れた身体を癒やす効果がある。まさに夏の食材として最適」とする声が多く寄せられた。さらに「乾燥させたものというイメージがあったが、生でも扱えるという点もよい。精進料理に活かしてみたい」といったコメントなども聞かれた。料理としては鱶鰭見立のスープの濃厚さと旨さに賛辞が多くあった。また塩海月見立では「いわゆる海月と似ているが、海月にはない食感が快い」とする声に加え、使われた和え胡麻へも多くの質問が寄せられていた。「なめらかな胡麻も良いが、自ら擂った胡麻の食感や旨さ、そして香りを楽しめるのも料理屋ならではの和え物ではないか」。質疑応答の中で北野氏は、胡麻の大切さや魅力、そして難しさを説明した。最後に運営委員の中からは「昔は桑の木から採った天然物の白木耳もあったが今では入手困難。乾燥だけでなく生も含めて、今一度見直したい食材ではないか」とする声が上がっていた。

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◆7月のテーマ食材「飛荒蝦」  西野保孝氏の献立
飛荒蝦と玉蜀黍の冷製茶碗蒸

【総評】

「トビアラの魅力を凝縮させた料理、トウモロコシとの夏食材同士の相性も抜群」とのコメントが多く寄せられた。また調理についても「トビアラは軽く揚げることで、海老の香りがより強調されている」とする賛辞があった。トウモロコシをあえて生で使用したことについては、「今は生食できるほどにトウモロコシの糖度が上がっている。その甘みと旨みがより伝わったのではないか」とする評も聞かれた。大阪料理の基本は、旬の山海食材を合わせることにある。トビアラとトウモロコシを、大阪的に昆布をベースに合わせた今回の茶碗蒸しは、まさに料理屋で食べたい夏の大阪山海料理だといえよう。

飛荒蝦と玉蜀黍の冷製茶碗蒸

大阪好みの海老には大きく三種類ある。大ぶりな足赤海老と車海老によく似た白紗海老、そして夏に多く市場に出まわる飛荒海老(トビアラ)。小さなものはジャコエビとしても売られている。今回の試作料理では、そのトビアラとトウモロコシとの相性を茶碗蒸しという形にしたもの。トビアラは、頭と胴を分け、頭部は素焼きに。胴部は殻のまま160℃程度で軽く揚げ、調味した昆布をベースにした出汁に浸け置く。トウモロコシは生のまま粒を取り、その軸と素焼きした頭部で出汁を取る。この出汁とトウモロコシの生粒をペーストにして裏濾すことで、茶碗蒸しの地を作っている。茶碗蒸の具材には揚げたトビアラの身と生トウモロコシ、オクラ、そして頭部からとった出汁をジュレにしたものが掛けられている。


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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜
第14回:大阪府「沖栄螺」

サザエといえば磯で採れるものだが、泉州の沖合で採れるのがこの「沖サザエ」。正式名はミヤコボラ貝。大阪湾ではアカシタ鰈(カレイ)などが多く獲れることから底引き網をかけることが多く、その網にかかるのがこの沖サザエ。非常に安価な貝だが、サザエとは違った旨さと食感がある。

沖栄螺旨煮
大阪料理会 大阪料理会

西野保孝氏の献立

沖栄螺旨煮

活けの沖サザエは海水に浸けてエアーを入れながら一昼夜冷暗所に置く。こうすることで砂抜きをする。磯ではなく海底にいることから、この作業が不可欠となる。砂抜きしたものは、水でよく洗った後、塩湯がきをする。この後に手間になるが、殻から身肉を取り出す。それを、濃口・味醂・酒・砂糖に生姜を加えたもので煮含めていく。沖サザエは磯のサザエのように肝を使うことはできないが、安価なことから様々な料理に気軽に用いることができる。泉州あたりでは、塩茹で・バター焼き・佃煮等といった風に食されているが、未だこれという料理法が確立していないのも事実。料理屋として是非試してもらいたい大阪食材のひとつだといえよう。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆