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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第92回〉
2018年 8月

酷暑に豪雨、記録的に発生する台風などを経験した今年の夏だったが、少し秋めいてきたようだ。本会の前菜ではそんな秋を先取った中秋の名月の団子五種前菜が披露された。三名の各会員が各々に創った団子を一皿に盛り込むという過去例がないユニークな試みの前菜料理となった。テーマ食材ではこれから本当の旬を迎える鰻、晩夏を惜しむ夏の果実による試作料理が発表された。



布谷浩二さん 布谷浩二さん
北新地 うの和
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ぐるなび
岡本正樹さん 岡本正樹さん
枚方「天の川 なかなか」
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ぐるなび
菰田昌寛さん 菰田昌寛さん
藤井寺「料亭 梅廼家」
お店HP
ぐるなび



◆中秋明月の前菜「中秋の名月〜五色団子〜」
布谷浩二氏・岡本正樹氏・菰田昌寛氏による前菜料理
前菜「中秋の名月〜五色団子〜」

中秋の名月〜五色団子〜

[白]鱧真丈白扇揚げ(布谷氏)
[黄]恵比寿豊年焚き(布谷氏)
[赤]蕃茄(ばんか)葛饅頭(岡本氏)
[緑]空芯菜とチーズ 浸し団子(岡本氏)
[黒]烏賊道明寺団子(菰田氏)

【料理について】

前菜をすべて団子で表現するという極めてユニークな試作料理。しかも日本文化に非常に関係の深い五色(ごしき)によって各料理が仕上げられているところも面白い。まずは白色。鱧真丈の白扇揚げは同割りにした鱧と魚介のすり身を使い、昆布出汁でボイルした鱧子が混ぜられている。黄色は、収穫の秋をイメージした恵比寿豊年焚き、ここでは恵比寿南瓜ではなく栗南瓜が使われている。これをくり抜いたものをサッと揚げ、白出汁・砂糖・干し葡萄・干し海老で焚いている。赤色は、トマト。湯むきしたトマトを裏濾し、葛とトレハロースで煉っている。できたものは淀川の葦の葉で包んでいる。緑色は、浸し団子になっている。小切りにした空芯菜の塩ゆで。淡口醤油と濃口醤油を同割りしたものに味醂・キザラ、これに出汁を加え、濾したものにクリームチーズときな粉。先ほどの空芯菜をこれに浸すようにして冷まし、丸にとっている。最後の黒色には、烏賊墨が使われている。裏濾した烏賊墨を合わせた鰹出汁で道明寺糒を戻している。甘酢に漬けて戻した剣先スルメを射込んで団子に。仕上げに焼き海苔をまぶしている。


【総評】

「食べ手に秋を感じさせる、カラフルな団子。まさに現代の月見に相応しい」といった賛辞が多く聞かれた。ただ前菜とした場合に「各々の団子が少し大きかったのではないか」とする声もあった。各料理についての詳細な意見交換も行われた。トマトを使った団子では砂糖ではなく、硬くならないようにとトレハロースが使われたが、砂糖との差異についての質問もなされた。また南瓜を使った豊年焚きでは、「団子なので素材の中に隠された味を感じることも楽しみの一つだが、この料理はそういった意味で南瓜とは違った別の味も感じられるが」との質問に、干し葡萄に加え、隠し味として使われていた白ワインの効果などが紹介された。運営委員の中からは「せっかくの五色による料理なので、その意味や狙いといったものを食べ手に説明することも大事なのではないか」とするアドバイスがあり、五色が持つ意味についての話などが行われた。

大阪料理会
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◆8月のテーマ食材「鰻」  布谷浩二氏の献立
鰻 阿利襪(オリーブ)焼き

【総評】

「確かに皮がサクサクとした食感、驚いた」とする評が寄せられた。調理に関する細かな質疑応答もなされた。まず焼きそのもののポイントは、皮から低温でじっくり焼くことで身肉にも火を通すこと。つまり身返して焼く時間は30秒程度で良いといったコツなどが披露された。また、大阪ではあまりなじみがない関東の蒸しや湯がきの作業について布谷氏からは、「味わいということより関東の鰻を好む食べ手からは、まず五右衛門(蒸すの意)することが求められる。脂を落としながら皮をいかにサクサクにし仕上げるかといったことも今回の発案に繋がった」との説明がなされた。運営委員からは「確かに皮のサクサク感は炭火を思わせるものがあるが、少し脂が抜けすぎてしまっているのでは」という指摘がなされた。調理法の異なる関東と関西。そこにはしかるべき鰻の旨さについての認識の違いがあるのかもしれないが、客の求めるものに応じながらも、さらにそれを美味に仕上げていきたいという布谷氏の想いがこの料理から感じられた。

鰻 阿利襪(オリーブ)焼き

鰻の蒲焼きが江戸時代から支持されてきたのは、その食法が完成されたものであることを証明している。ただ同じ蒲焼きであっても関東と関西では鰻の開き方が異なっているだけでなく細かな調理法にも違いがあることは事実。さらに炭を使わなくなった現代の調理場では、鰻の焼き方も大きく変化してきている。今回の試作料理は、ガスや電気調理器であっても炭焼きとほぼ同様の焼きの効果が得られることを狙いとして披露された。まず鰻を背開きにし、串を打ってから一度白焼きに。次に骨を抜き、湯に酒を入れてこれを湯がく。こうすることによって脂や臭みを抜く。最後にオリーブオイルで皮から香ばしく焼いていく。炭火で焼いたときとほぼ同様に皮がサクサクし、身肉のジューシーさも感じられる、というのが鰻のオリーブ焼きというわけである。


大阪料理会
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◆8月のテーマ食材「夏果実」  岡本正樹氏の献立
桃の揚げ出し 甘鯛うろこ焼き 甘鯛煎餅

【総評】

「桃の硬さを含め食感などもよかった、果実の料理はいろいろ食したが桃は始めて」とのコメントなどが多くあった。また桃を揚げる際に使われた高野豆腐の粉についての質疑応答もなされた。高野豆腐の粉末の効果が果実を揚げるのに適しているのではないか、とする説明が岡本氏からなされた。今回の料理では、甘鯛煎餅に対しても多くあった。「非常に面白く、他の魚介にも応用できるのではないか、ぜひやってみたい」とする感想があった。
運営委員の中からは「日本料理という範疇をあまり超えることなく、毎回こうした料理を考える岡本氏には感心させられる」とするコメントが寄せられていた。

桃の揚げ出し
甘鯛うろこ焼き
甘鯛煎餅

晩夏は市場で果実がもっとも賑わう時期。デザートとしての域を出ない果実を料理の主役に仕立てるユニークな取り組みだろう。一口大にした桃に、高野豆腐をおろし金ですりおろした粉末に同量の片栗粉を合わせたものをまぶして揚げている。甘鯛は三枚におろしたものに塩をして、身肉側には片栗粉を、皮目から揚げ焼きに。葛餡は、水から昆布を60℃で30分煮出し、鰹節は80℃で出汁をとり、この出汁5に対し、味醂1に淡口醤油と濃口醤油を同割りとし、これに追い鰹して薄葛をひいている。
煎餅は、甘鯛をおろした際に出たアラなどからすき身をこそげ、葛20%、ベーキングパウダー2%、炭酸水でペースト状にしたものを裏濾して、これを烏賊焼き器で焼き、さらにオーブンで102℃で60分焼き、甘鯛煎餅としている。


大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第15回:石川県「巻鰤(まきぶり)

石川県で冬期に多く獲れる鰤を長期保存する目的に作られた巻鰤。塩蔵して干し、乾燥させたもの。干す時に藁で巻くことでさらに保存性が高まると同時に、遠方へ運ぶのにも便利であった。現地では塩味が強いことから、そのまま少し焼いて食べるなどして親しまれてきたようである。

巻鰤の藁苞寿司
大阪料理会 大阪料理会

菰田昌寛氏の献立

巻鰤の藁苞寿司

巻鰤の皮を除き、酒と味醂を同割したものに1時間程度浸け、さらに藁を使って軽く燻して切り分ける。寿司には無花果の皮をむいて脱水シートにかけたものを混ぜる。巻き簀に干し芋茎を戻し焚いたものを藁のように1本ずつ敷き、酢飯と巻鰤をのせて巻いて藁苞(わらづと)のように仕上げている。また、無花果の仕込みで出た皮は干して無花果茶としている。巻鰤独特な塩味に、無花果が持つ甘みを調和させた一品。干し芋茎を藁に見立てた趣向も面白い。





撮影/藤澤 了  文/笹井良隆