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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第93回〉
2018年 9月

九月は台風シーズン。しかし、今年は台風が大型化し多発しているということ以上に、気候そのものが大きく変化したような気がする。季節感が薄れつつある現代だけに、日本料理のあるべき季節感というものを料理人自身が正さなくてはならないのではないか。さて、十月の前菜は大阪北部の能勢の食材にスポットをあてたもの。テーマ食材にも同地域の原木椎茸と秋に旬を迎えた天然鰻、そして蜆の試作料理が発表された。



野村俊輔さん 野村俊輔さん
『花錦戸』
ぐるなび
小川 健さん 小川 健さん
辻調理師専門学校
お店HP
中村正明さん 中村正明さん
和洋遊膳「中村」
ぐるなび



◆10月の前菜テーマ「能勢の豊作」
野村俊輔氏による前菜料理
前菜「能勢の豊作」

能勢の豊作

・柿玉子
・小豆栗旨煮
・猪肉 菊花寿司
・馬鈴薯 椎茸 湯葉揚げ
・葡萄白酢和え

【料理について】

今も昔ながらの里山の景色を残す大阪・能勢。特に山の幸の豊かさがこの地域の特徴といえよう。今回の前菜においても、柿・栗・葡萄・椎茸、そして木々の稔(みの)りに加えて、天然猪肉といったものが使われ表現されている。まずは能勢の鶏卵を使った柿玉子。冷凍させた生卵の黄身だけを取り出して、味噌漬けにしている。その色合いや形は熟し柿そのもの。小豆による能勢栗もどきは、小豆と栗をそれぞれ焚く。小豆に栗出汁を含ませて鍋で煉り、小麦粉を加えて蒸す。冷ました後、栗を包み栗型にしている。猪肉の菊花寿司は、低温調理した猪肉を山椒ソースで煮たものを菊花飯に合わせている。ジャガイモと椎茸の湯葉揚げは、キタアカリを裏ごしし調味した後、味付けした椎茸を加え平湯葉で巻いて揚げている。葡萄の白酢和えでは、能勢名物の葡萄とされる藤稔が使われていたのが味わいのポイントともなっている。


【総評】

「全体的に秋らしい色合い。最初に彩りの美しさに目を奪われる」といった賛辞が多く寄せられた。個々の料理に対しての質疑応答も活発になされた。柿玉子では、生卵ではなく温玉にしてから冷凍した方がよかったのではないか、との声などがあがっていた。また小豆と栗の旨煮では、小豆が非常に絶妙な味わいに炊けているので栗は不要ではなかったとの意見がある一方、栗の味わいを出した方がいいのではないかという感想も寄せられていた。また、小豆に合わせた小麦粉を浮き粉に代えることでもっと食感が出せたのでは、とするアドバイスなどもあった。猪肉は非常にやわらかな肉質に仕上がっていたのに驚いたとする評も少なくなかった。天然だけれど、あえて70℃の温度帯をキープして挑戦した調理内容が野村氏から語られた。葡萄の白酢和えには、「こうした料理は葡萄の選定そのもので味が決まる、今回はベストチョイスであった」との意見が運営委員から述べられていた。

大阪料理会
大阪料理会




◆9月のテーマ食材「原木椎茸」「天然鰻」  小川 健氏の献立
原木椎茸の胡麻豆腐

原木椎茸の胡麻豆腐

今でこそ生産量は微々たるものとなったが、大阪はかつて原木椎茸の一大産地であった。 大阪府下の各所で栽培されている原木椎茸には、各々の地味が感じられる。今回使われたのは島本町の原木椎茸。炭火焼きした原木椎茸を薄切りにし、白むき胡麻をミキサーにかけて椎茸の戻し汁と葛粉を合わせて胡麻豆腐にしている。掛け出汁は豚と鶏の両挽肉によるコンソメ仕立て。ミンチを粘りが出るまで混ぜ、水・塩・醤油・葱・生姜を加えて火を通し、裏濾してコンソメをとっている。原木椎茸が持つ強いグアニル酸の旨味と動物性の旨味とのマッチングの妙が感じられる。


大阪料理会
鰻 苧環蒸し

【総評】

試作という名に相応しい二品。試作だけにトラブルもあったようで、原木椎茸と葛粉では胡麻豆腐として固まらなかったとか。会員の中からは「おそらく酵素が邪魔して分解したのでは」とする意見も。この出来事を機に胡麻豆腐に関しての会員各自からの様々な作り方や意見があり質疑応答がなされた。そんなハプニングもあったものの「椎茸に合わせたコンソメが素晴らしい」「これは和食に合うコンソメだと思う」などの感想が多く寄せられていた。天然鰻を使った苧環蒸しでは、やはり饂飩の処理についての質疑が多くなされた。今回はタピオカ粉が入った冷凍麺が使用されているが、その理由について「のびにくい」など小川氏から饂飩の調理についての詳細な説明がなされ、会員は聞き入った。また、苧環蒸しに使われたのが淀川の天然鰻であったことから、本会に出席していた大阪市漁業協同組合の畑中課長から鰻漁の現状についての説明もなされた。

鰻 苧環蒸し

苧環(おだまき)蒸しといえば、茶碗蒸しに饂飩(うどん)が入った大阪の名物料理のひとつ。その起源は文楽などの観劇とされている。その苧環蒸しに天然鰻を合わせたユニークな料理。鰻は蒲焼きにしたものを適宜切り分け、茶碗蒸しに入れて蒸す一方で、鰻の頭などのアラで出汁をひき、調味し、葛粉・白胡麻を合わせて鰻餡を作っている。この料理の面白さは鰻もそうだが、中に入れる饂飩を茹でた後に油をまぶしてバーナーで炙っているところにある。饂飩の食べ辛さをなくし、味わいと風味をつけるというもの。その発想力と実行力は評価に値する、まさに大阪料理といえよう。


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◆9月のテーマ食材「淀川蜆」  中村正明氏の献立
蜆の豆乳汁

蜆の豆乳汁

蜆汁そのものだけで旨味が強いため、味噌汁や清汁(すましじる)以外の汁物に仕立てるということがなされてこなかった。今回の試作では、蜆を豆乳汁にすることで新たな旨味を引き出そうとする試み。人参と玉葱を太白油で炒め、そこへ玉酒でふかした蜆の出汁を入れる。次に洗米を加え、米が柔らかくなるまで焚いていくことで米の旨味とトロミ感を出していく。これをフードプロセッサーにかけた後に濾し、豆乳・豆乳クリームを入れ調味している。最後に時雨煮にしておいたシジミの身肉と合わせ、粉山椒をふりかけている。

蜆と茄子の辛子味噌和え

【総評】

「シジミと豆乳の相性が素晴らしい」「コースの最初の方に供したい一品」などのコメントが寄せられた。様々な質問が出たが、中でも豆乳クリームに関するもの、また米を入れる意味についての質疑が多くなされた。同様にシジミと茄子の辛子味噌和えでは、ヨーグルトと味噌の漬け床についての質問が多くあった。中村氏は「試した相性としてはヨーグルトと麦味噌がもっともよかった。茄子だけでなくキュウリなどもとても美味に漬かるので驚いた。ただ、この漬け床は二次利用ができないので効率が悪くコストが高くついてしまうという難点もある」との説明を行った。ちなみに白田楽味噌に辛子類を加えて、絶妙な甘辛さを出す辛子味噌を、江戸時代の大阪では「天竺味噌」と呼び全国に聞こえた大阪名物であったとされている。

蜆と茄子の辛子味噌和え

シジミと秋茄子による辛子味噌和えは、大阪の千両茄子の天地を落とし、ヨーグルトと白味噌を合わせたものに二日程度浸け込んでいる。白田楽味噌に煉り辛子を加え、辛子味噌を作る。漬けた茄子を水洗いし、辛子味噌と合わせている。


大阪料理会

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第16回:徳島県「そば米」 中村正明氏の献立

そば米は徳島県の名産で、特にそば米を使った「そば雑炊」は祖谷(いや)地方の郷土料理となっている。祖谷をはじめとする地域は、高い山に囲まれて米が作れないことからそばの栽培が古くから行われていた。ただ、この地域では収穫したそばを粉にしないで、実を塩ゆでして殻をむき乾燥させていた。それが「そば米」である。

そばがきのそば米揚げ

そばがきのそば米揚げ

そばがきは、フライパンにそば粉と水を入れ合わせて強火で煉り上げ、香りと艶が出ればこれを丸にとり、卵白・そば米を付けて揚げる。本かえしを作り出汁を10の割でのばして温める。


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そば米粥

そば米粥

そば米を使った粥は、そば米を昆布出汁で10分程度焚き、吉野葛でとろみをつけ、叩き梅を添えている。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆