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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第94回〉
2018年 10月

大阪湾にイルカやスナメリが生息しているというニュースをよく見かける。湾全体でかなりの水質改善が進んでいる証拠でもあるだろう。そして、その大阪湾と共に以前の姿に戻りつつあるのが淀川。今回は、そんな淀川に着目した前菜やテーマの発表となった。担当にあたった二人の坂本氏が川魚料理を得意とするだけに期待が高まる会となった。



杉本 亨さん 杉本 亨さん
浪速割烹『和亨』
ぐるなび
坂本 晋さん 坂本 晋さん
北新地「味菜」
ぐるなび
坂本靖彦さん 坂本靖彦さん
割烹「さか本」
ぐるなび



◆11月の前菜テーマ「淀川もん」
坂本靖彦氏 坂本晋氏 杉本亨氏による前菜料理
前菜「淀川もん」

淀川もん

・淀川蜆醤油漬け(坂本靖彦氏)
・淀川落鮎甘露煮(坂本靖彦氏)
・淀川鰻文化干し(坂本 晋氏)
・淀川鯊(はぜ)の焼干 河内蓮根揚げ(坂本 晋氏)
・干し真菰筍(まこもだけ) 旨煮(杉本 亨氏)

【料理について】

淀川の食材だけで果たして前菜が成立するのか。今回の試みは、そんな不安と期待を食べ手に抱かせる前菜といえよう。まず淀川蜆を使った一品。淀川では夏時期に多くの蜆が毎年収穫後に冷凍され、流通している。この前菜では淀川の蜆が持つ深い味わいを、漬け込むことで旨みをどこまで引き出せるかを狙ったものだろう。蜆の他には酒に濃口醤油、そして生姜などといたってシンプル。淀川を伏見へ遡れば桂川・宇治川・木津川の三川合流地点となる、その下流部で獲れるのが落鮎。ここではその落鮎を素焼きにし、時間をかけて甘露煮として炊きあげている。じっくり炊き込むことで骨まで食せる一品となっている。淀川の秋の最大の食材といえば脂がのった天然鰻。蒲焼きも古い歴史を持った調理法だが、ここでは同様に古い調理法として伝わる「文化(灰)干し」が披露された。ひとつは、開いた鰻を塩水に浸け水分をとって、さらに珪藻土で包んで水分を除く。もうひとつは味噌漬けにしたものをやはり珪藻土に包んで水分を抜き、焼き上げている。
江戸時代から淀川の秋の名物と知られるものに鯊(はぜ)がある。ここでは大阪市漁協が加工販売している「焼き干し鯊」が使われた。昆布と干し鯊を水でもどし、出汁をとる。焼き干し鯊は蒸し器にかけ、後に削りカンナで鯊の削り節にしている。焼いた鯊は、河内蓮根と合わせ下味をつけ煉り、流し缶へ。これを型抜きして揚げている。最後に鯊出汁に薄葛をひき、掛けている。淀川には葦(あし)が今も群生している。そうした中に生えているのが真菰筍(まこもだけ)。その真菰筍を5ミリ幅に切り、一日干して、水で戻している。これを出汁で調味し焚いている。


【総評】

「何より淀川の食材だけで前菜が成り立っていることに驚かされた」という感想が多く寄せられていた。さらに今回の前菜への賛辞はそれだけでなく、「とても秋らしい前菜であることに加え、各々の料理が古典的な技法を駆使して作られている」ところへの評が相次いだ。前菜五品それぞれに質問がなされたが、なかでも鰻の処理法として紹介された文化干しに対する灰干し法のひとつである珪藻土を使った干し方と、石川県に古くから伝わる珪藻土そのものへの質問が特に多かった。また、川魚が持つヌメりを料理する意味と意義などに対しての質疑応答も時間を延長して行われた。中には落ち鮎など川魚は時期によって多く砂を吐くのは何故かとの質問に、増水時に流されないように身を沈める目的から、あえて砂をかんで身にためるからであるなどの説明も詳しく行われた。披露された前菜料理五品。本会では、この五品の前菜料理だけで質疑応答が約1時間に及ぶ熱の入った勉強会となった。

大阪料理会
大阪料理会




◆10月のテーマ食材「大阪 鮑」  杉本 亨氏の献立
干し鮑と蕪の酢橘椀

干し鮑と蕪の酢橘椀

大阪湾では岬町など最南部において鮑漁が行われている。今回の試作は鮑を干すことにより、身肉にひと味違った旨みを持たせることを狙ったものといえよう。殻からはずし、肝を除いた鮑を約2時間かけて干している。今回は椀に張る地として、野菜から抽出した出汁に合わせて、鶏からも出汁をとりコンソメ風とし、これに鰹出汁を加えている。最後に、干した鮑をさっと炙ることで風味を高め、酢橘を落とし香りを添えている。


大阪料理会
鮑肝雑炊

【総評】

「大阪湾で鮑がとれることを初めて知った」という感想がまず多くあった。次いで「大阪鮑の特徴について」の質疑応答がなされた。大阪鮑の身肉そのものは、それほど厚くはない、しかしいわゆる養殖場の鮑ではなく、稚貝を海に放したものを素潜りで採るという点では天然物に近いといえよう。干し鮑への評価としては「かみしめていると磯香が味わうことができる」といった感想に加えて、「野菜や鶏などのコンソメ風の出汁によくマッチしている」といった意見もあった。次いで鮑の肝雑炊については「生姜が爽やかさだけでなく、肝雑炊にコクのようなものを与えていたように思う」とするコメントなども聞かれた。ただ、「肝雑炊にしては肝の味わいそのものが薄かったのが残念」とする声もあがっていた。

鮑 肝雑炊

干し鮑から出た肝を使った一品。鮑の肝を生姜煮にして裏濾している。米を炊き、昆布出汁を加え、裏濾した肝と、みじん切りにして油で揚げた新生姜を合わせる。できあがった雑炊の上に、干し鮑を薄くへいだものをのせている。


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◆10月のテーマ食材「寒鯔(ぼら)」  坂本 晋氏の献立
淀川寒鯔 包み揚げ

淀川寒鯔 包み揚げ

鯔を上身にし、牛乳と水を同割りしたものを掛け、50℃で30分という低温調理を行っている。これは生のようだけれども火はしっかりと通した状態。つまり、大切なタンパク質と旨み成分を極限まで残す試作調理法のひとつだろう。葱は難波葱を使用している。その葱の白い部分と白味噌で、いわゆる葱味噌を作る。青い部分は熱湯をかけて細くさいている。さきほどの白葱と調理した鯔とを合わせ巻き簀で巻き、冷やし固め、次に青い葱でこれを芯にして巻き、いったん堅めの天麩羅衣で揚げた後に、揚げ衣だけをはずし切り出している。


大阪料理会
鯔と難波葱の蒸し物

【総評】

鯔は淀川でも汽水域といわれる河口部に多くいる。大きなものでは1メール近いものも珍しくない。夏場の鯔は非常にクセがあるが、冬場のいわゆる寒鯔というのは、外洋から餌を求めて淀川の河口部へと入ってくることから驚くほどクセがなく、味わいも良い。
坂本氏は、試作料理の説明をはじめるにあたって、先ずは鯔という食材についての紹介を行った。試食後は鯔という魚への質問と共に、多くの意見が出たのが50℃で30分という低温調理についてであった。坂本氏からその低温調理法の詳細説明が行われ、合わせて大豆ペーストが持つ、クセをなくす効果というものについての説明も行われた。
「鯔という食材にはクセが強いというイメージがあったが、今回の料理にはそうしたものが全くなく驚いた」とするコメントが多数聞かれた。冬時期の大阪の新たな名物食材として、寒鯔が今一度見直される契機となったのではないだろうか。

鯔と難波葱の蒸し物

鯔を上身にしたものに薄塩をし、冷蔵庫で寝かせ熟成させている。難波葱は焼いて切り出す。鯔を取り出し薄くスライスし、焼いた難波葱を芯にして巻いている。ラップに大豆ペーストを敷き、針打ちした鯔を包んで蒸す。こうすることで大豆ペーストが鯔のクセをうまく除いてくれる。残った大豆ペースト、白味噌そして醤油を合わせ掛けダレとしている。


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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第17回:鹿児島県「天草」 坂本靖彦氏の献立

ところてんの原料として知られる「天草」。ほぼ日本全国で見かけられるが、品質的に優れたものが採れるのが九州の鹿児島や長崎辺りだとされている。需要減から寒天やところてんそのものの生産量は激減しているが、本当の国産天草が持つ旨さや良さというものもまた見直されつつあるようだ。

そばがきのそば米揚げ

・蕎麦出汁 ところてん
・ところてん南瓜合せ固め

天草からのとろこてん作り。天草は赤紫色をしているが、これを水にさらし洗うことで次第に白くなっていく。市販品では4〜5回程度行われているが、ここでは1回そうした作業を行っている。天草30gに対して水2?、そして酢が15cc。天草のアクをとりながら約40分間とろ火で焚き、ザルで濾した後、ペーパータオルで水気を切り、塩少々を加えている。これを流し缶に流せば40分程度で固まり、天突き器で突き出し、蕎麦だしで供する。
もう一品は、南瓜を塩蒸ししたものを裏濾し、南瓜の裏濾しを2に対して、ところてんを1で合わせたものを流し缶へ。これを切り出して胡麻味噌田楽としている。

そば米粥
大阪料理会
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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆