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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第95回〉
2018年 11月

温暖化の影響か、今年の秋は例年よりも短く感じられる。実りの秋を実感する間もなく冬がそこまで迫っているという、何とも気ぜわしい11月。そんな雰囲気を察知しての前菜というわけではないが、名残の秋味が前菜に選ばれた。そして、特別テーマではあまり取り上げられる機会が少ない川魚の代表格「鯉」。また、今回は地方の食材ではなく、自家製「唐墨」が担当会員からの要望としてあがった。



山本 英さん 山本 英さん
片町「はしま」
ぐるなび
石橋慶喜さん 石橋慶喜さん
北新地 慶喜
ぐるなび
岩淵貴生さん 岩淵貴生さん
太閣園「淀川邸」
お店HP
ぐるなび



◆12月の前菜テーマ「惜秋」 山本 英氏による前菜料理
前菜「惜秋」

惜秋

秋鮭の柿ノ葉寿司
・石垣零余子(むかご)
・大阪菊菜銀寄白和え
・餅銀杏の煎玉まぶし
・子持鮎飴焚き

【料理について】

去りゆく秋の味覚を惜しむ、ということで晩秋の味わい五種。秋鮭の鮨は、冷凍処理された鮭をベタ砂糖にした後、ベタ塩にかけるというユニークな調理法。これをオイル漬けにし、稲藁(いなわら)で燻し、秋の香りを含ませている。零余子(むかご)は塩茹でしたものを裏ごしした栗南京と合わせ、調味した後に型へ流して蒸し上げている。ひなびた石垣や土壁に零余子が顔をのぞかせている風情を彷彿とさせてくれる一品。銀寄栗と菊菜の白和えは、素揚げした椎茸が添えられているのが面白い。餅銀杏は、重湯でゆがいた銀杏のもっちり感が素晴らしい。子持鮎は、素揚げした鮎を油抜きし、ほうじ茶でじっくりと焚いている。単なる甘露煮ではなく、骨まで食せる味わい深い料理屋の飴焚きとなっている。


【総評】

「名残の秋を彩りだけでなく香りでも楽しませてくれる前菜」との評が多く聞かれた。また、五種それぞれに工夫と手間が感じられる、との声もあった。各々の料理に質問が出たが、最も関心を集めたのが冷凍処理した後の秋鮭の処理法。砂糖が先で、塩が後の手法で。会員の中からは、砂糖と塩と香辛料に同時に漬けて旨みを引き出すスウェーデンのサーモンマリネの調理法に習うと非常に理に適っているのではとする意見が寄せられていた。さらに、最初から砂糖と塩を同量に混ぜてはどうか、とするアドバイスなどもあった。また子持鮎の飴焚きへの質問も多く、いわゆる甘露煮ではなく、いかに料理屋の飴焚きにすべきか、その調理法などが山本氏から説明がなされた。

大阪料理会
大阪料理会




◆11月のテーマ食材「寒鯉」  岩淵貴生氏の献立
浪華筥鮨鯉ノ彩り

浪華筥鮨鯉ノ彩りなにわはこずしこいのいろどり

今回使用された鯉は、長野産の鯉。佐久鯉ではないらしいが、養殖であれば佐久の系統であろう。三枚におろした鯉は上身の部分にベタ塩をあてている。これを酢〆にし、昆布で押している。片身を焼霜にし、酢飯と合わせ押し鮨に。仕上げに白板昆布をのせ、天には梅醤油の実を叩いたものを添えている。おそらくは、大阪のバッテラをコノシロやサバではなく、寒鯉で試作したところに狙いがあるのではないだろうか。

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鯉蕪粕汁仕立て

【総評】

「鯉そのものを食する機会がほとんどないが、さらに鯉の鮨というものは初めて食べた」との声が幾人からあがった。こうした意見に加えて「鯉のクセのようなものは全く感じなかった。面白い食材だという関心を持った」という声などもあった。運営委員からは、大阪のバッテラを意識したところも感じられて良かったが、鮨ネタである鯉をもう少し厚めにしてもよかったのではないか、身の薄さまでバッテラを真似るのはどうか、とするアドバイスなどもあった。また鯉と蕪の粕汁仕立てには、鯉と蕪からとったスープの味わいへの賛辞と共に、鯉つみれのつなぎや、粕に合わせる白味噌の使い方などについて詳細な調理法の意見交換がなされた。最後には、淀川での鯉漁はどのようになっているのか、などの質問も多く、川魚への関心の高まりを伺わせた。

鯉蕪粕汁仕立て

次に、この鯉を捌いた時に出たアラを使って季節の蕪と合わせた「鯉蕪の粕汁仕立て」。鯉のアラには塩をあて、干した蕪の皮と共にじっくりとスープをとっている。鯉と蕪という取り合わせがなんとも面白い。鯉のアラなどから出た身肉を包丁で叩いて、さらにすり鉢であたる。そこへ牛蒡・木耳・人参を軽く炒めたものを加え、「鯉つみれ」を作っている。鯉と蕪でとったスープに、さらに鰹出汁を合わせ調味し粕汁を仕立て、最後に生おかきを焼いたものを盛り込んでいる。

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◆11月のテーマ食材「太刀魚」 〜すり流しの違い〜  石橋慶喜氏の献立
太刀魚すり流し
太刀魚すり流し

太刀魚すり流し

太刀魚という魚は、長細い魚体でかつ骨が多い。つまりは料理屋にしてみれば「歩留まり(ぶどまり)が悪い魚」でもあるといえる。そうした魚の持ち味を生かし、より有効かつ美味な使い方ができないかという発想から提案されたのが、今回の太刀魚のすり流しの違いであろう。この石橋氏の素晴らしい提案は、氏の料理に対する問題意識の高さを表しているともいえよう。
まずは、太刀魚のすり流し。これは太刀魚を三枚におろした後に、常なら捨ててしまうアラと尻尾をミンチに。これを卵白と混ぜスープをとる。上身は銀皮をひいてミンチにて、冷めたスープと合わせる。これを火にかけ、よく混ぜて塩のみで調味する。皮は立塩に20分程度浸け鳴門巻に。椀では胡麻豆腐と共に温めて供している。また、もうひとつの器は太刀魚の上身を蒸しているが、スープの量は半分に。

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太刀魚 クリーム掛け

【総評】

「鱧などをすり流しにすることは知っているが、太刀魚は初めて。良いヒントをもらった」とする声が多数あがっていた。三種のすり流しが紹介されたが、なかでも関心を集めていたのが上身を蒸してスープにしたもの。「塩だけで太刀魚からこれだけの旨みを引き出せるのは素晴らしい。是非とも他の魚でもチャレンジしてみたい」とする感想が聞かれた。またクリーム掛けにおいても、今回は菊菜が使われているが、このクリームなら他への汎用性もあり、様々なもので試してみたい、とする意見が多くあがっていた。

太刀魚 クリーム掛け

クリーム掛けは、上身をボイルしたものとスープで焚いて、ミキサーにかけて冷やしたものをクリームとしている。

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第18回:「唐墨」 石橋慶喜氏の献立

唐墨はボラの卵巣を塩漬けにしたもの。日本各地に似たような卵巣の塩漬けはあるが、唐墨といわれるもので有名なのが長崎産唐墨であろう。しかし最近では、この唐墨を自店で漬けるところが増えている。また、それだけに様々な作り方が行われている。今回はそうしたことを受けて、石橋氏が自らの唐墨作りを紹介することで問題を提起した。

唐墨
大阪料理会 大阪料理会

自家製 唐墨

石橋氏の自家製唐墨は、血抜きした卵巣を2%の塩水に一日浸けておき、さらにこれをベタ塩にして一週間。塩は水で洗いとる。材料の約3倍の水と焼酎でもどしていく。つまりボラ子が1kgなら3000ccでもどす計算になる。漬け込んだボラ子は2日目くらいから、手で揉んでこれを繰り返し、ボラ子の塩分濃度と塩水分の濃度が同一になるのを待つ。これをまな板にはさみ一晩かけて成形。晴れの日には日光をあて、夜は扇風機にあてながら干していき、4週間程度かけて仕上げていく。
大阪料理会では、今回の石橋氏の提案を受けて、多くの参加会員から自店の唐墨作りの実際が紹介されていった。石橋氏の唐墨については「あまりに柔らかい仕上がりなので今年作られたものかと思ったが、昨年作られたものと聞いて驚いた」「塩の抜き方や、塩分濃度など非常に参考になった」などの評が多く寄せられていた。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆