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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第96回〉
2018年 12月

本年最後となる大阪料理会。挨拶に立った畑会長から、数日前にニュースで報道された2025年開催の大阪万博についての話があった。万博開催でさらに注目が集まる大阪。そうした流れの中で大阪料理会はもちろん、各会員店もまた何をなすべきかについての投げかけが行われた。さて、本会の前菜テーマは新春「十日戎」が取り上げられ、テーマ食材は旬の「天王寺蕪」、そして「すっぽん」の試作料理が発表された。



濱本良司さん 濱本良司さん

大阪あべの辻調理師専門学校

お店HP
神田芳松さん 神田芳松さん

ときわ 松

ぐるなび
辻 宏弥さん 辻 宏弥さん

法善寺「浅草」

お店HP
ぐるなび



◆1月の前菜テーマ「 十日戎に寄せて 〜宝恵駕(ほえかご)盛り〜」 濱本良司氏による前菜料理
前菜「十日戎に寄せて」宝恵駕盛り

宝恵駕(ほえかご)盛り

・鯛柚香漬け

 恵比寿様が左わきに抱えている鯛を使って

・海老とサヨリの手綱巻

 恵比寿様が右に持つ竿から魚介類
 紅白をイメージ

・まぐろ味噌煮

 西宮戎では福を招く海からの贈り物

・芋ようかん

 十日戎で大判、小判などの
 細工物を結びつける福笹 金色

・甘酒のすり流し

 縁日でふるまわれる甘酒

【料理について】

商都・大阪の1年は十日戎からはじまる。それを前菜で表現した五種盛り。十日戎の料理を小さな宝恵駕(ほえかご)に盛りつけるというのは吉兆の湯木貞一氏が得意とした演出のひとつ。おそらくは吉兆笹にちなんでのことであったのだろう。さて、今回は各々の料理にそのいわれが明記されている。柚香漬けの鯛は恵比寿神が左に抱く鯛をイメージ。鯛粗の出汁をベースにした柚香の地で。同様に右に竿を持つことから海老とサヨリという魚介による手綱巻。黄身寿司にはゆでた卵黄と蒸した山芋が使われている。三品目は奉納される鮪。ここでは角切りにし、霜降したものを白味噌・醤油・酒・みりんでサッと焚いて、一晩寝かせている。十日戎につきものの小判などの光物をイメージした芋ようかん。そして賑わう参道筋でふるまわれる甘酒が添えられている。


【総評】

「十日戎の様子が目に浮かぶような前菜」「すべてが素材を生かすことを心がけた淡口仕立となっており良かった」さらには「盛りつけの演出といい、海外の人にはエキゾチックなアジアを感じてもらえそう」というような賛辞が多く聞かれた。運営委員からは、前菜料理というのはややもすると料理だけ良ければすべて良しとするところがあるが、今回のように各々の料理の狙いが書かれていることはとても大事なことだ、とするコメントが寄せられていた。料理については黄身寿司のさまざまな作り方についての答弁、まぐろの味噌煮をいかに柔らかく焚くかについての議論などが行われた。

大阪料理会
大阪料理会




◆12月のテーマ食材「天王寺蕪」  神田芳松氏の献立
柚子蕪葛餅 海老味噌掛け

柚子蕪葛餅 海老味噌掛け

天王寺蕪が出回るのは、11月の上旬から12月下旬頃まで。1月に入ると蕪も大きくなり、江戸時代にはそうした天王寺蕪を干し蕪としたようである。今回の天王寺蕪の料理の狙いは、在来の昔ながらの蕪が持つ旨みや苦み、そして香りなどを引き出すことを目的としている。
まずは柚子蕪葛餅 海老味噌掛け。海老味噌は、車海老の頭をつぶしてとった濃いめの出汁と白味噌などを調味して煉っている。蕪の葛餅は、蕪をさっと霜降りして柔らかめに焚き、蕪を焚いた出汁と吉野葛、そして柚子皮を炭酸でゆがいてさらしたものを合わせて函に流している。

鯛蕪(更科蕎麦見立)

【総評】

「天王寺蕪の真価を再確認した」「いわゆる金蕪では、この旨みと苦みは味わえない」「一般的には、潰し物料理というのは本来の味をなくすと言われているが、この料理は素材の味わいを反対に高めている」といった声が寄せられていた。また、「最近はコース仕立てでも、野菜だけを使った一品が求められている。今回の料理は非常に参考になった」とする意見なども聞かれた。調理については、蕪は麺の見立なので片栗粉を使ってもっと麺に近いつるりとした仕上げにしても良かったのでは、とする声もあった。
質疑応答の中で味付けについての質問に対して神田氏は「コースであれば特にそうですが、すべてが美味し過ぎてはいけないと思う。時には少し控えめな味であることが、かえって全体の旨みを高めることに繋がる」とする考えを自らの体験談を踏まえて紹介した。

鯛蕪(更科蕎麦見立)

もう一品は鯛蕪の更科蕎麦見立。ここでは大きめの丸蕪を麺に見立てた趣向となっている。まずは、蕪と相性の良い鯛の頭を焼いて身をほぐし、骨と水・酒を同割で出汁をとっている。そして、さばいた身をこれで焚きフードカッターにかけて鯛味噌を作る。丸蕪は厚めに桂むきをして塩水にさらし、15cmの長さで麺状に線切。さっと湯がいて出汁につけている。最後に蕪を椀に盛りつけて、鯛味噌をかけている。

大阪料理会
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◆12月のテーマ食材「すっぽん」  辻 宏弥氏の献立
すっぽん豆腐 海老芋すり流し仕立

【総評】

「すり流しになのに海老芋の味わいがしっかり感じられ、またすっぽん出汁との相性も良い」「夏のすっぽん鍋なら生姜かもしれないが、この椀物には隠し味の柚子胡椒がよく合っていると思う」などの評が寄せられていた。すっぽんの出汁の取り方についての質疑応答に加えて、すっぽんは天然か養殖かという議論も行われた。運営委員からは「天然のすっぽんほど、どこで獲ったかによって大きく味わいが異なるものはない。それを理解して使うことが大事」とする意見が述べられていた。調理については「もう少しエンペラを大きめにとった方がよかったのでは」とするコメントや「すっぽん出汁そのものに葛をひくべきかどうか、なくてさらっとした感じもありでは」とする声が聞かれた。

すっぽん豆腐
海老芋すり流し仕立

すっぽんは鰻と同様に非常に栄養価が高いとされることから、夏バテで食が細るシーズンが食べ頃、つまり旬のように見なされている。実際にニーズが高まる時期が旬となっているのが現代の食環境。すっぽんも他の食材同様に養殖が進んでいるので旬を決めるのは難しいが、天然ものなら冬眠前ということになるのだろう。今回はそんな天然と養殖との違いや、養殖の扱い方などがひとつの狙いとなっている。
試作では、養殖のすっぽんを使用。まず、海老芋のすり流しはすっぽんを処理して出汁をとり、海老芋は下茹でしてすっぽんの出汁で焚く。海老芋を裏ごしし、出汁と合わせている。すっぽん豆腐は、すっぽん出汁を葛粉、砂糖、酒、淡口などで調味。甲羅のまわりのエンペラは叩き、鍋で煉り、流し函で冷やし固めている。

大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第19回:長崎県「長崎白菜」 辻宏弥氏の献立

唐人菜(とうじんな)とも呼ばれてきた長崎白菜。おそらくその名が付いたのは戦後のことだと思われる。中国伝来種。いわゆる現代の白菜とは異なる。長崎では煮物料理によく使われる他、雑煮には欠かすことのできない食材とされているようだ。

唐墨
大阪料理会 大阪料理会

長崎白菜 白和え1
長崎白菜 白和え2

長崎白菜を使って2種類の白和えが紹介された。いずれもベースには白菜・鶏・豆腐(豆乳)らが使われている。
最初は、鶏挽肉と白ネギ、おろし生姜、塩などを炒め鶏の塩そぼろを作り、白和え衣を木綿豆腐としている。これに長崎白菜を茹でて刻んだものを和えている。
もうひとつは、鶏の胸肉を砂糖と塩で揉み真空処理し60℃の湯に40分浸け、鶏のハムを作っている。このハムを刻み豆乳を少し加えミキサーにかけ白和えに衣にし、長崎白菜を刻んで炒めたものを和えている。
同じ長崎白菜でも、茹でるのと炒めるのとではその味わいと食感が大きく違っているのが分かる。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆