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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第97回〉
2019年 1月

新年を迎えた本年は元号が変わる。大阪料理会にとってもいろんな意味で変革の年となるのだろうか。さて、二月の前菜の定番テーマといえば節分だが、今年は例年とは少し異なった三種盛りが発表された。また、テーマの食材には合鴨と、今まであまり取り上げられなかった皮剥魚(かわはぎ)の試作料理がそれぞれ発表された。そして、最後の討論テーマには棒鱈が選ばれた。



前田武徳さん 前田武徳さん

味菜旬香 菜ばな

お店HP
ぐるなび
関根文幸さん 関根文幸さん

和楽 せき根

ぐるなび
松尾慎太郎さん 松尾慎太郎さん

北新地 弧柳

お店HP
ぐるなび



◆2月の前菜テーマ「節分」〜節分立春余寒三種盛〜 前田武徳氏による前菜料理
前菜「節分」〜節分立春余寒三種盛〜

宝恵駕(ほえかご)盛り

・春菜胡麻浸し
 立春ノ味覚
・鰯巻繊(けんちん)仕立焼き
 立春前、節分ノ味覚
・鮟鱇共肝林檎酢和え
 立春後、余寒ノ味覚

【料理について】

今回の前菜の三種盛りには、立春を挟んで、その前の節分と立春後の未だ寒さが残る期間が三種の料理で表現し盛られているところに趣がある。まず「立春」には、春らしい菜種菜や蕗(ふき)を使った料理。下処理した春野菜を胡麻入りの浸し地につけ、粉鰹・黄味粉・穂紫蘇(ほじそ)をまぶす。次に立春前の節分の味覚としては鰯。節分の鰯といえば焼きが一般的だが、ここでは同じ焼きでも少し様変わりな巻繊仕立てとしている。塩鰯を三枚にひらき雪花菜(おから)に漬けているところがポイント。節分に一年の体内の砂をおろすという意味から食されてきた蒟蒻(こんにゃく)と、時節にちなんだ食材(人参・木耳・銀杏・絹莢・百合根)で巻繊の地を作っている。これを先ほどの鰯を背開きしたものに詰めて、焼く。最後に立春後は未だ寒さが残る余寒という意味合いで鮟鱇。鮟鱇の身は塩をした後に焼霜。肝は塩をして20分間蒸している。肝味噌には玉味噌とリンゴ酢が使われているところが面白く、これまでにない和え衣となっている。


【総評】

「少し趣の変わった節分の前菜」「鰯、そして鮟鱇ともに味の創り方が新鮮」との声が多くあった。料理としては節分の鰯の処理としてなされた雪花菜の使い方に質問が集中した。「塩鰯がこれほどしっとりと仕上がるのは驚き」とする意見と、雪花菜そのものについての質疑応答がなされた。また余寒の味覚である鮟鱇の肝の処理についても質問が寄せられた。特に肝を玉味噌だけでなくリンゴ酢でのばしたことで鮟鱇の肝がより旨く、そしてフルーティーなものに変わっていたところに賛辞が聞かれた。運営委員からは、春菜の胡麻浸しであれば、もう少し地を残さなければ浸しとはならないのではないかとする指摘に加えて、せっかくの蕗の香りがあまり感じられなかったこと、そして穂紫蘇ではなくほかの春野菜を天盛りとして使用すべきだったのではとするアドバイスがなされていた。

大阪料理会
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◆1月のテーマ食材「合鴨」  関根文幸氏の献立
合鴨と田辺大根の変わり焚き合わせ

合鴨と田辺大根の変わり焚き合わせ

合鴨をすべて使い尽くす。そうしたコンセプトから創作された二品。最初の焚き合わせでは、合鴨の首の肉が使われている。少量しかとれないことから、あまり流通していない部位でもある。この首肉をミンチにし、玉葱・大和芋・葛粉などとともにミキサーにかけている。焚き合わせには田辺大根、そして今回は菊芋が使用されている。合鴨の首肉の脂を加えた八方地で焚く田辺大根と相性も良い。

合鴨ノ平野酒煮

【総評】

「合鴨はよく使うが、こうした部位は初めて食した」「入手方法はどうなっているのか」といった質問が寄せられていた。また味わいについては首肉を使った焚き合わせに添えられた柚子胡椒で二度違った味わいで楽しめたと評する声が聞かれた。運営委員からは、焚き合わせに菊芋が使用された意図がよく分からなかったのが残念とする意見や、さまざまな部位を一緒に焚いて煮物として仕上げるのは難しいので、各々の部位にあった料理を考案試作すべきとするアドバイスなどが述べられた。

合鴨ノ平野酒煮

もう一品は合鴨の内臓。心臓は半分に切り血抜きし、肝も同じく筋を除き血抜き。砂ずりは皮をむいて細切りにして酒煮に。これらを霜降りした後に、平野酒(※1)・味醂・濃口醤油・砂糖に生姜、そして酒粕を合わせ、さっと煮ている。

※1 平野産の新米で醸造された地酒。15世紀末期、醍醐の花見で秀吉が愛飲したことから大阪を代表する酒に。平成5年に大門酒造により復刻された。

大阪料理会
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◆2月のテーマ食材「皮剥魚」  松尾慎太郎氏の献立
カワハギの白菜砧(きぬた)巻き

カワハギの白菜砧(きぬた)巻き

カワハギといえば料理屋では、薄造りなどと料理法が限られているかのようだが、そのカワハギにさらなる料理の可能性を見出そうとするのが今回の試作料理だろう。まず、旨みが最高潮に達する1月の白菜を使っての砧巻き。カワハギの肝は前日から味醂粕に漬け、身肉には薄塩。粗(あら)を使い、だしをとり、吸地くらいに塩梅する。このだしで、白菜の芯と葉を下茹でする。味醂に酢橘を加えた地に身肉を浸す。カワハギの身肉や浸けた肝を芯にして白菜の葉で砧巻きに。芯部は刻んで土佐酢漬けにして添える。粗からとったほぐし身はすり鉢であたり、カワハギのだしでのばした餡をかけ、あしらいに花穂紫蘇。

カワハギと高槻原木椎茸の煮凝り

【総評】

「白菜からこれほどの出汁がとれることに驚いた」とする声が多くあった。また「コース料理として、こうした料理をどこで供するのか難しいが、前菜としてなら魅力的」とする意見などが寄せられた。今回使用されたのはマルハギ。同じ魚種でウマヅラもあるがその違いなどについての意見交換がなされた。運営委員からは「肝だけということなら養殖のウマヅラが最も適しているのでないか」とする感想もあった。カワハギに合わせた白菜、そして原木椎茸、いずれも独特な旨みとだしがとれる食材。こうしたものを合わせることで肝だけではないカワハギの新たな魅力を発見するヒントになったのではないだろうか。

カワハギと高槻原木椎茸の煮凝り

もう一品は原木椎茸を使ったもの。干し椎茸を戻し、戻し汁に酒・淡口・濃口醤油・味醂などで調味した地で、カワハギの身肉と肝を煮つける。焚いた干し椎茸を刻んで肝、身と和える。流し函にこれを敷き冷蔵庫で固めた後に、ゼラチンを加えた煮つけ出汁を流して煮凝りとしている。

大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第20回:「棒鱈の戻し方と煮法」 松尾慎太郎氏の献立

棒鱈や身欠き鰊などは戻すのに非常に時間を要する食材。しかし、その戻し方を工夫することで生では得がたい滋味深さを引き出すことができる。今回はおそらくは店ごとに違った処理を行っているであろう「棒鱈」をテーマにすることで、その戻し方と煮法についての意見交換が行われた。

唐墨
大阪料理会 大阪料理会

芋棒鱈

棒鱈は米のとぎ汁に浸け何度か代えながら一週間かけて戻していく。棒鱈の黒い皮を除き、尾に近い身を軸にし、腹身を巻いて竹皮で縛る。米の研ぎ汁で炊いて柔らかく戻し、そのまま冷まして洗う。だし・濃口・淡口・昆布などで蒸煮にする。海老芋は皮付きで蒸し上げ、皮をむいて棒鱈の蒸し煮汁で再び焚く。
質質疑応答では、この提案された方法はあくまで少量戻す際のやり方で、大量に戻す場合には適さないのではないかという意見や、棒鱈を戻す際にはアルカリ効果のある「荒縄」を用いるやり方、重曹を少量使用するやり方など、店ごとの戻し方と海老芋の炊き方の討論が行われた。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆