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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第98回〉
2019年 2月

日本料理における新しい領域を拓くということは重要なこと。ただ、それを未知なるものに求めるという一方向では本当の新領域を拓くことはできないのではなかろうか。今回は、そうした領域を「淡水」の魚介に求めるという挑戦が前菜料理においてなされた。また、テーマ食材には春らしい「蛤(はまぐり)」や「さごし」が。これらも非常に大阪的な食材であるといえよう。



長内敬之さん 長内敬之さん

旬鮮和楽 さな井

ぐるなび
板倉誠司さん 板倉誠司さん

旬菜 喜いち

ぐるなび
上野修さん 上野修さん

浪速割烹 喜川

ぐるなび



◆3月の前菜テーマ「春の川」〜真味淡水〜 長内敬之氏による前菜料理
前菜「春の川」〜真味淡水〜

「春の川」〜真味淡水〜

・琵琶鱒蓬が嶋(よもぎがしま)
・諸子(もろこ)松ノ実揚げ煮
・岩魚の菜ノ花包み
・氷魚(ひうお)奉書焼き
・筋蝦(すじえび)二身焼き

【料理について】

淡水の魚介だけを使った前菜。単に珍しいというだけでなく、長内氏ならではの経年の技、そして知識の蓄積と不易流行の精神を垣間見ることができる前菜であるといえよう。琵琶鱒(ここでは桜鱒)を使った蓬が嶋。そもそも蓬が嶋とは中国の伝説にある蓬莱山を意味するもので、長寿を願う正月料理としても知られる。それを淡水で表現。三枚におろした鱒を甘酢に漬け、おぼろ昆布の上に並べ、蓬が嶋の三色山を象す人参・長芋・胡瓜を順に巻き込み、山のよう形になるように巻き簾で縛る。それを切り分けている。諸子の姿揚煮は、薄衣で揚げたものを砂糖・濃口醤油・酒で煮詰めてからめ、松の実を小石に見立てている。岩魚を使った菜の花包みでは、三枚におろした身肉を昆布締めとしている。氷魚は山独活(うど)・筍と共に湯葉で巻いている。筋蝦はじっくりと焼き上げ、はんぺんとブラックタイガーの身肉を合わせ、二身焼きとしている。


【総評】

「彩りはもちろん、物語性なども楽しむことができる前菜」との賛辞に加えて、なかでも「諸子だけが姿のままで、松の実の川石の上を泳いでいる。その演出効果は本当に素晴らしい」といった評が運営委員から聞かれた。質疑応答では、ほど良い甘辛さで揚げ煮にされた松の実が、ひとつとしてからみ付いていないのは何か手法があるか、といった質問などが寄せられていた。また、それぞれの料理についての意味合いを尋ねる質問も多くあった。最後に、運営委員から「淡水魚といえば、今では定番的な料理法でしか使われないが、今回の岩魚にしても昆布締めにしてもこのような使い方があるとは驚いた。淡水にはまだまだ可能性が残されていることを実感させられた」とするコメントが印象的であった。

大阪料理会
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◆2月のテーマ食材「さごし」  板倉誠司氏の献立
さごし都漬け

さごし都漬け

鰆よりも使い勝手が悪い、旬の期間が短いなどで敬遠されがちなさごし。今回の試作では奈良漬と用いることで新たな魅力を引き出そうとする意欲的な試み。まずはさごしの都漬けだが、ここでは三枚におろし、塩をしてから酢で洗っている。これを煮切り酒・水・煮切り味醂と淡口醤油を合わせたものの中に奈良漬と共に漬け込んでいる。切り分けた身肉は皮目を炙り、漬けていた奈良漬は薄く切り、クリームチーズを漬け汁で溶いてあんかけとしている。

さごし焼き浸し

【総評】

「奈良漬の意外な効果に驚いた」「臭みが残るのではと懸念したが、全く感じなかった」などのコメントが多く寄せられた。質疑応答では漬ける期間に対する質問が集中した。一週間以上漬けた場合の状態などについての詳細な説明がなされていた。また、運営委員からは「都漬けは、さごしを酢であらっているがその必要はないのではないか」との指摘もなされた。また「クリームチーズのあんかけは非常に面白いが、旨くなりすぎるのでないか。サゴシ本来の旨みが分からなくなってしまうのでは」とする意見なども聞かれた。

さごし焼き浸し

次にさごしの焼き浸しは、酒・水・味醂・淡口醤油の地に奈良漬の粕を入れ、さごしを汁漬けに。漬けたさごしを焼き、だしと淡口醤油と味醂を合わせたものを切り分けたさごしの浸し地としている。

大阪料理会
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◆2月のテーマ食材「蛤」  上野修氏の献立
蛤の焼き目真薯 菜の花摺り流し

【総評】

「まさに蛤椀と呼ぶに相応しい香りと味わい」「蛤の身肉のイメージをメレンゲで表現するとは非常に面白く、参考になった」などの賛辞が多く寄せられた。また運営委員からは「菜の花をすり流しにするという発想も面白い」「蛤ならではの香りや味わい、そして身肉の旨さといったものが一椀にうまくまとめられている」とする評が聞かれた。かつては大阪湾の汽水域に多く生息し、住吉では名物ともなっていた蛤を、今一度大阪名物にできる日が来ることを強く望みたい。


※1)奈良時代に作られていた乳製品の一種。牛乳をゆっくりと煮詰めて固めたもの。貴族の宴席で振舞われたり、美容の滋味として食された高級食材だった。

蛤の焼き目真薯 菜の花摺り流し

国内での生産量が激減。蛤は現在、その9割が海外からの輸入に頼らざるをえない状況となっている。さらにいうなら蛤そのものが以前の日本蛤とは別物となっている。今回はそうした状況下、今一度蛤を考えたいとの狙いがあったのではなかろうか。蛤は単なる食材という枠を超えた日本の季節感と節を演出する重要なものでもある。そうしたことを踏まえ、今回は桃の節句と春を一椀に閉じ込めたものとしている。砂出しした蛤を昆布だしで煮て身を取り出し、その身を潰す。これを卵白と山芋のメレンゲで和えて蒸している。さらに天火(オーブン)で焼き目をつけ、筍と人参や桜麩と共に椀種に。菜の花は蒸してミキサーにかけて、蛤のだしと鰹だしを加えて、摺り流しに。黒胡椒を吸い口に、飛鳥の「蘇」(※1)で油脂を加えている。

大阪料理会
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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第21回:「ふな寿司ノいい」 上野修氏の献立

滋賀県発祥の鮒寿司は非常にクセ(特徴)のある発酵食品として有名。そして、この鮒寿司の飯には身体に良いとされる多くの乳酸菌が確認されている。鮒寿司は高価な食品ではあるが、最近ではこの鮒寿司の飯だけを比較的安価に販売する商品化などもなされている。今回は、そんな鮒寿司の飯を使った試作料理が披露された。

金目鯛の雲子(くもこ)挟み、飯垂れ焼き
大阪料理会 大阪料理会

金目鯛の雲子くもこ挟み、飯垂れ焼き

金目鯛は薄塩して脱水シートをかけ、厚い目の二枚包丁に。雲子の真薯を作り、挟んで金串を刺して焼く。仕上げに鮒寿司の飯を昆布出汁でのばした垂れで掛け焼きし、蕗の薹を香りとしている。この垂れ焼きは、食材によって風味を引き立てる効果も変わるようで、上野修氏によると、本来は甘鯛を使って河豚の白子で垂れ焼きとすることを推奨したい、とのことであった。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆