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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第99回〉
2019年 3月

今年の桜は例年よりも少し早咲き。定例会の日が大阪での開花予想日と重なった。本定例会では、野菜づくしで春を表現する前菜が披露された。また、特別テーマでは、胡麻豆腐づくりを今一度見直すなどの提案型のテーマが入るなど盛りだくさんの内容となった。



久保田 博さん 久保田 博さん

割烹 くぼた

お店HP
ぐるなび
西村忠将さん 西村忠将さん

雅しゅとうとう

お店HP
ぐるなび
松尾英明さん 松尾英明さん

柏屋

お店HP
ぐるなび



◆4月の前菜テーマ「春宵春色春菜しゅんしょうはるいろはるな 久保田 博氏による前菜料理
前菜「春宵春色春菜」

「春宵春色春菜」

・塩うるい泡人参
・龍髭菜(アスパラガス)ノ昆布〆おろし
・花びら玉葱迷迭香(ローズマリー)酢漬け
・甘辛椎茸灰昆布衣揚げ
・麦味蕃茄(トマト)

【料理について】

前菜をすべて野菜尽くしの五種盛りとし、しかもそれぞれに春のテーマを持たせるという意欲的な試作料理。春の爽やかさを持ったうるいは湯がいて塩漬けに。人参、松の実、昆布だしをフードプロセッサーにかけ、味噌・淡口醤油で調味する。メレンゲと合わせて泡ソース仕立てとしている。春色の龍髭菜は湯がいて色出しし、穂先側をスライスし昆布〆に。残りをおろしている。春の薫りは、新玉葱を花びら形に剥いたものに、甘酢に迷迭香を加えたもので表現。春の宵をイメージさせるのが椎茸灰昆布衣揚げ。干し椎茸を甘辛く炊きあげ、焼いた昆布を粉末にしパン粉と混ぜ、これを衣として揚げている。夏前のトマトは麦味噌漬けに。餡は麦味噌に卵白を加え、火にかけたその上澄みを活用している。


【総評】

「春は彩りといわれるが、緑や赤・黄などの色の中に黒をアクセントとして加えることで、視覚的にも食欲を誘ってくれる」、また「色合いだけでなく、それぞれの料理にインパクトがあった」とする評が多く寄せられた。ことに、椎茸を灰昆布で揚げるという手法や、甘酢に迷迭香の香りを加えるなどの発想は大変面白く、「ほかにも活用できそうな仕事、勉強になった」とする賛辞が聞かれた。また、現役時代は野菜の前菜を得意とされていた上野相談役から「高齢者が増えていることもあり、こうした野菜だけの前菜というものがさらに求められてくると思う。今後ともさらなる取り組みを期待したい」とのコメントが述べられた。

大阪料理会
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◆3月のテーマ食材「鯛の子」  西村忠将氏の献立
鯛の子 巻甘藍(ロールキャベツ)

鯛の子 巻甘藍(ロールキャベツ)

桜鯛のシーズンには、市場に真子や白子など多くの鯛の子が出回る。こうした食材を使った二品が紹介された。ひとつは旬の鯛の子と、同じく旬の春キャベツを合わせた一品。 鯛の真子と白子は掃除した後にカット。湯がいた春キャベツは巻きやすい大きさにとり、真子と白子を包み干瓢でこれを巻いている。だし・酒・淡口醤油・味醂で調味。

鯛の子 菜種饅頭

【総評】

「今回の二品は、そのままに椀種としても使えそう」とする声が評として聞かれた。また鯛の子の巻甘藍が冷製として供されたことに対する質問があがった。西村氏からは、続く菜種饅頭が温かいメニューであることや冷めても十分旨いことなど、料理の狙いと理由の説明がなされた。また運営委員の中からは、「巻甘藍になっているので、真子と白子とを左右に分けて、切り分けて出せばさらに食べやすく、そして面白くなったのではないか」と指摘がなされた。ほかの運営委員からは料理に対するひとつひとつの仕事が「非常に丁寧、それが味わいとなっているのではないか」とする賛辞が加えられた。

鯛の子 菜種饅頭

もう一品は、鯛の子と菜種を合わせた饅頭仕立て。鯛の子はだしで炊き、あがりに針生姜。白隠元は裏濾す。菜種は40時間乾燥させ、ミキサーで粉末にしている。裏濾した隠元と菜種の粉末を合わせ饅頭生地とし、鯛の真子と白子を包んでいる。これを蒸して、仕上げに餡掛け、辛子が添えられている。

大阪料理会
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◆3月のテーマ食材「木の芽 このこ 胡麻豆腐」  松尾英明氏の献立
木の芽だれ 飯蛸煮 独活酒煮

木の芽だれ 飯蛸煮 独活酒煮

日頃の仕事を今一度見直してみる。それは、ほかの料理人の仕事との比較検討の中からこそ得られる貴重な時間なのである。そうした問いかけが今回のテーマであったと思われる。まずは、春時期の木の芽をどう扱うか。生のままでの使用だけではなく、ここでは木の芽ダレという考え方が披露された。酒と葛、そして塩。これを木の芽、太白ゴマ油と共にハンドミキサーにかけて乳化させている。このタレには木の芽の薫りや独特な苦みまで全てが内包されている。

このこだれ 平貝 菜の花

このこだれ 平貝 菜の花

次に披露されたのが、このこ。珍味かつ高価とされるこのこだが、これを酒煮にしている。このこならではの強烈な旨みがタレの中に凝縮されている。

大阪料理会
胡麻豆腐

【総評】

「テーマはもちろんだが、テーマ以外における飯蛸や独活などの処理についても非常に勉強になった」とする声が多くあがった。ことに、蛸の火入れについての質疑応答が数多く寄せられた。松尾氏からは「日本酒と水を同量に合わせ、ヒガシマルの特選丸大豆うすくちしょうゆと味醂、そして砂糖で調味した煮汁を、60〜63℃にキープしながら脚は約5分、胴は20分程度加熱し、陸上げする」などの細かな調理法に関して語られた。
また胡麻豆腐では、運営委員からは、「さらしで濾したものを昆布だしの中でもみ洗いしている」など、多くの自店における作り方などが紹介された。

胡麻豆腐

最後に披露されたのが胡麻豆腐。大村屋製のむき胡麻をフードプロセッサーにかける。水溶きした葛粉、これにすり胡麻を煉るように混ぜ合わせていく。さらに裏濾ししていくなど、詳細なる手順が紹介された。料理人各々に最上とする胡麻豆腐の在り方は違って当然だが、どの行程にどれだけこだわるかが味わいとなって出てくるのだろう。

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特別テーマ 〜知られざる郷土食材を和する〜

第22回:「暮坪かぶ」 西村忠将氏の献立

岩手県遠野市の暮坪地区で400年にわたって栽培されてきたとされる長根の蕪。辛味が強いことから、蕎麦などの薬味としても使用される。最近では、魚介の旨みを引き立てる意味合いから、山葵に代わる食材としても注目を集めている。

暮坪蕪とあく巻の揚げ出汁
大阪料理会 大阪料理会

暮坪蕪とあく巻の揚げ出汁

あく巻きを一口大にカットし、小麦粉をつけて揚げる。暮坪蕪は皮をむき、すりおろす。揚げたあく巻きを盛りつけ、おろした暮坪蕪、あさつき、鴨の骨からとっただしをかけている。甘辛くまったりとしたあく巻きの味わいに、強烈ともいえる暮坪蕪の味わいがアクセントなっている。近年における根菜は「甘さ」が強調されてきたが、根菜が本来持つ、こうした独特な辛みを今こそ見直すべきではないだろうか。


※あく巻き
主に南九州(鹿児島県、宮崎県、熊本県人吉・球磨地方)で、端午の節句に作られる和菓子。もち米を洗い、一晩灰汁につけたあと、竹の皮で包み、灰汁で長時間炊いて作る。独特の風味と食感が特徴。




撮影/藤澤 了  文/笹井良隆