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大阪料理会とは 組織メンバー 今月の大阪料理 活動レポート
今月の献立 〈第101回〉
2019年 5月

新元号、令和第1回の大阪料理会。今年は五月に入り早くも夏日が続くという異常気象。食材の旬の在り方も再考が必要になるかもしれない。さて、前菜は以前に好評であった野菜づくしの夏バージョン。テーマ食材は、あえて旬をハズした「鯛」の新調理法などが紹介され、特別テーマには「生鰊(ニシン)」が取り上げられた。



山崎浩史さん 山崎浩史さん

旬菜 山崎

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ぐるなび
久保是人さん 久保是人さん

おおさか料理 浅井

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畑島 亮さん 畑島 亮さん

キュイジーヌ・ド・オオサカ・リョウ

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◆6月の前菜テーマ「菖蒲(あやめ)華咲夏畑ノ五種和え」 山崎浩史氏による前菜料理
前菜「菖蒲(あやめ)華咲夏畑ノ五種和え」

「菖蒲(あやめ)華咲夏畑ノ五種和え」

・枇杷(びわ) 白和え勾玉果実(カシューナッツ)
・枝豆ノ煉り玉蜀黍(とうもろこし)和え
・新蓮根 新生姜ノ胡瓜酢和え
・新小芋ノ甘大唐辛子(パプリカ)和え
・芋茎(ずいき)胡麻和え

【料理について】

すべてに夏野菜や夏果実を使って「和え」の変化と彩りをまとめた前菜。枇杷を使った白和えでは、裏濾しした木綿豆腐に、『大村屋』の胡麻ペースト、砂糖、淡口醤油などであたりをつける。色止めしたビワを減圧鍋で桃果汁とレモン汁を加えて調理し、キャラメリゼしたカシューナッツをのせている。トウモロコシは蒸して裏濾したものを煮詰め、塩茹でした枝豆の和え衣としている。新蓮根と新生姜の和えものでは、燻製香をつけたリードペーパーで挟むことで香りづけをし、すりおろしたキュウリを加えた土佐酢で和えている。新小芋とパプリカは、塩蒸しした小芋を油で揚げ、パプリカを油通ししてペースト状にし、白味噌と合わせ衣としている。芋茎は湯がいて、黒胡麻・辛子・淡口醤油・山椒オイルなどで調味した地に漬け込んでいる。それぞれ味だけでなく、彩りの個性も光った前菜といえよう。


【総評】

「五種類の和えものとしての変化に加え、異なった色合いも楽しい前菜」とする声が多くあった。ビワの和えもので使用された減圧処理により味を移すという手法について、活発な質疑応答がなされた。運営委員からは「和えものは、さまざまなものを調和させることで、各々の食材が持つ以上の味わいを生み出すところに真価がある、今回の前菜はそうした意味で意義のある試作であったのではないか」とする意見が寄せられていた。

大阪料理会
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◆5月のテーマ食材「長芋」  久保是人氏の献立
長芋まんじゅう

【総評】

「長芋を天日で干すことで、これほど味が変わるのは驚いた」とする感想が多く聞かれた。
長芋だけでなく、さまざまな食材の干し方についての意見交換などが行われた。また試食した会員からは「これなら長芋だけでもよかったのではないか」とする意見などもあった。さらに「長芋本来の味わいは雲丹との相性がこれほど良いものなのかと感心した」とする評もあった。運営委員からは「天日の力は素晴らしいと思う、これをヒントに乾燥機やオーブンなどではどうなるのかを一度試してみたい」とする声があがっていた。

長芋饅頭

天日の力を料理に応用する、を自身のテーマとしている久保氏が取り組んだ長芋料理。長芋・山の芋は皮をむいて天日で干した後に、蒸して、裏濾している。木綿豆腐を裏濾し、長芋と山の芋を合わせ、砂糖と塩で調味したものを取り分ける。葉山葵は低温で湯がき、土佐醤油の地に浸け真空保存している。先ほど取り分けた団子に小麦粉に全卵、そしてかけ餅を付け、揚げている。塩蒸した雲丹を葉山葵と和えて盛り合わせる。旨だしに葛をひき、山葵・もみ海苔を天盛りしている。

大阪料理会
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◆5月のテーマ食材「鯛」  畑島 亮氏の献立
鯛の低温炊き

【総評】

「調理法としては非常にシンプルなものだが、この時期の鯛がこれほどにしっとりとした上身に変身するとは驚いた」と賛辞が寄せられた。運営委員からは「鯛は獲れる場所によって個体差が非常に激しい。時期はずれとはいえ、良い鯛だったと思う。この試作には考えさせられる点が多くあった」。特別な調理器具などを使うことなく、温度加減だけで時期をはずれた鯛であっても、身質のうまさとしっとりとした食感を取り戻すことができる。天然鯛だけに限らず、養殖鯛にも応用が効きそうな調理法ではないだろうか。

鯛の低温炊き

桜鯛のシーズンが終わり、これからはいわゆる脂の抜けた麦藁鯛(むぎわらだい)の時期へと入る。しかし、鯛は年中行われる祝事には欠かせないものであり、大阪の名物でもある。これを麦藁鯛の時期でも美味しく食していただくにはどうすればよいか。今回の畑島氏の試作の狙いはそこにある。まずは三枚におろした鯛身に薄塩をあてておく。次に粗(あら)からだしをとる。このだしを低温に沸かし、その中へ皮目に包丁を入れた上身を入れ、そのまま冷やす。これにより驚くほどしっとりとした身となる。白子が残っている場合は、『大村屋』の胡麻豆腐の素に鯛だしとペーストにした白子を入れて、煉り上げ、白子豆腐とする。火を入れたモロヘイヤをミキサーでソースにし、先ほどの鯛上身の皮目をバーナーであぶりソースを掛け、振り柚子する。

大阪料理会
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特別テーマ:知られざる郷土食材を和する

第23回:「生鰊」

大阪で鰊といえば身欠きが一般的。しかし、現代はその身欠きニシンの入手が難しくなっている一方、流通が整ったことにより生の鰊が関西の量販店でも簡単に手することができるようになった。これまでの干した鰊の料理から、生鰊の料理へと移り変わる時代になったのではないだろうか。

新にしん茄子  

久保是人氏の献立

新にしん茄子

身欠き鰊を使った「にしん茄子」は有名だが、今回は生鰊を使っての、いわば令和時代のにしん茄子料理。生の鰊を三枚におろし、頭と中骨と腹骨を天日で干す。上身は皮目から骨きりした後に、天日で干す。干した鰊のアラを酒・生だしなどで2時間半煮詰め、これを濃口醤油・砂糖で調味して、上身を炊いていく。次に馬場茄子を素揚げにし、油抜きして、地で軽く炊き、この地を濾して薄葛を引く。


大阪料理会 
鰊の変わり棒寿司  

畑島 亮氏の献立

鰊の変わり棒寿司

生の鰊を三枚におろし、塩をなじませてから皮目から骨切りして酢で〆る。真子(数の子)はべた塩につけて一晩保存。塩抜きをして、だしにつけ込んでおく。真子と寿司飯を合わせて、鰊に辛子を塗り棒寿司とし、白板昆布の代わりに酢漬けキャベツもしくは生ハムを重ね、新生姜と防風(ぼうふう)を添える。


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撮影/藤澤 了  文/笹井良隆